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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第2章 黒、銀、茶、赤
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奴隷の少女は公爵に拾われる 42

拷問の描写がありますので注意してください

 捕虜はいまだに青ざめた顔をしながらも、さっきよりもさらに毅然とした表情でその場にいる人間を睨み付けてきた。腕を縛られて天井からつられた鎖に引っかけられてもなおその視線は変わらない。その場にいる人間もその視線に怯むことはしなかったが、屈強な男たちは幾分居心地が悪そうにしていた。

 そんな捕虜に、公爵がゆっくりと近づいていく。

「閣下!まだ足を縛っておりません」

「別にいいよ。話聞くだけだし」

 公爵は捕虜の真ん前、脚が届くか届かないかのあたりまで進む。

「こんにちは。私はこの国で公爵をやっている者だ。知ってるかな?」

 まるで軽口を言うみたいに軽い口調で話しかける。捕虜のほうは当然何も話そうとしない。

「君のことは何て呼ぼうか。とりあえず、捕虜って呼ぶつもりなんだけど、いいかい?」

 捕虜は変わらず公爵の灰色の目を睨み付ける。

「で、聞きたいことを聞く前に確認なんだけど」

 公爵が顔だけ近づけていく。


「君は、麻薬の売人だよね?」


 捕虜の表情が一瞬呆然としたようにふっと緩む。

「違うかい?君があそこにいた理由は麻薬の売買に来たのだと思っているんだけど」

 公爵の表情はただ本気で確認しているだけの無害な表情をしている。捕虜の表情から頭をものすごい勢いで回転させているのが目に見えるようだった。蜘蛛の糸をつかむ亡者のように、降ってわいた希望にすがろうとする。

「もし違うのなら君の正体について話を聞きた――」

「そうだ。おれは麻薬の売人だ」

 緊張のせいかかなりしわがれた声が聞こえる。

「あそこではなくてなんで対岸の茂みの中にいたんだい?」

「少し遅れて仕入れの場所に行こうとしたら、やばい感じの奴らが取引場所近くにいるのが見えたからよ。様子を見てたら、案の定取引相手が捕まってるんで辺りが大人しくなってから逃げようと思ってたんだ」

「なるほどなるほど」

 公爵は捕虜のほうに一歩近づく。捕虜はそれを見ても特に何かしようとは思わないらしい。

「知り合いに誘われてやっただけなんだ。見逃してくれとは言わないが、知ってることなら何でも喋るからひどいことはしないでくれ」

「もちろんさ。こんな仰々しい装備をしてるのは君がしゃべらなかった時のためだ。久々の仕事だから、君がしゃべるとここにいる人たちは少し残念がるだろうけどね。まぁいろいろ聞きたいこともあるし、麻薬の売買は犯罪だからしばらく帰れないと思うけど」

「それはしょうがない。捕まった時点で運のつきだ」

「まったくだね」

 公爵は上着のポケットから二つの包みを取り出した。

「最近出回っている薬に2種類あるのを知ってるかな?」

「あ、あぁ。知ってる」

「君が買おうとしていたのは、どっちかな」

 公爵が右手と左手、それぞれの包みを広げる。右手には白い完全な粉末状のものが、左手にはこちらも白いがどちらかというと砂糖のように粒子の大きいものが、それぞれ乗っていた。

 捕虜は両方をしっかりとみて、額から汗を流しながら白い粉状のものを選んだ。

「こっちかい?」

「あぁ。昔から出回ってる方をいつも仕入れてるんだ」

「なるほど。確かにこっちは昔から出回ってるものだね」

 公爵が粉を上着のポケットの中にしまう。

「そうだ――」



 彼の足の親指に金属の針が爪を突き破り肉を通る貫通音と共に突き刺さった。

「うそつき」

 この場にいるだれもが、その針を突き立てるタイミングで気を抜いていた。

「………か…ぁ…」 

 捕虜は足の先から来る強烈な痛みの信号に口を開いたまま喉の奥から声にならない音を発し始めた。

「さっきのは両方とも昔から出回ってる薬だよ、伯爵の密偵君。選ばなかった方の薬は粗悪品なんだ。知り合いに勧められた程度の売人が粗悪品のことを知らないわけないだろ?」

 痛みをこらえようと歯を食いしばるその直前に再度、足の指に針が突き立てられる。捕虜の喉から獣の咆哮じみた吠声が上がった。

「最近出回り始めてるのは、黄色がかったどちらかというとペースト状の薬だ。実際は黄色い粉末に少し水を加えて舐めるものなんだけど、とりあえず色は黄色いんだ。知らなかったかい?密偵が薬の中毒になってたらまずいもんね」

 公爵は捕虜の眼前に灰色の目を近づけながら火箸の先に真っ赤に焼けた炭を挟み、肉に突き刺さる金属の針に焼けた熱源を押し付ける。針はすぐに熱を通し真っ赤に焼ける。足が焼ける焦げた匂いとさらに音量の上がった悲鳴とが拷問部屋に響き渡る。

「君に聞きたいことはね、密偵君」

 公爵の手が密偵の顔を力いっぱいつかむ。

「麻薬の仕入れルートなんかのことじゃない。君から聞いてもたかが知れてる。伯爵が侯爵に何かを仕掛けるのは知ってるんだ。それがいつなのか。教えてくれるよね?」

 さすがに痛みに耐え脂汗を流しながらその質問に対しては口をつぐもうとする。だが

「喋ってくれないなら―――」

 公爵の指先に赤い燐光が仄かに光り始める。その色はいつになく攻撃的で見るものをどことなく不安にさせた。

 その燐光が顔をつかんでいる指先越しに密偵の頭の中に吸い込まれていくと同時に、密偵の体が今までの声が微風だったかのように思えるほどの咆哮とそれに匹敵するほどの激しさで暴れ始めた。

「抑えて!」

 公爵の一喝が呆然とした表情の兵士たちにぶつけられる。我に返った兵士たちは数人がかりで手負いの熊のように暴れまわる密偵の体を抑える。屈強な兵士たちの筋肉が本気の形に盛り上がる。それでやっと抑えられるくらいに密偵の暴れ方は凄まじいものだった。

 その間も公爵の指は顔から離れることなく少しずつ赤い光を送り続けた。

「ああああああああ!!!やめてくれ!!喋る!喋るから、それ(・・)をどけてくれ!」

「伯爵はいつ動くつもりなんだい?」

「三日後だ!三日後に薬を盛る算段を付けている!」

「嘘は良くない」

「嘘じゃない!」

 血走った目が公爵の方に向けられる。あまりの恐怖のためか体中の汗腺と涙腺がぶっ壊れたかのように体中から体液があふれ出していた。

「三日後だ!伯爵は確かに3日後に公爵に薬を盛るといっていた!」

「ありがとう」

 公爵は冷たい目をしたまま密偵の顔をつかんでいた手を外す。

 

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