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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第2章 黒、銀、茶、赤
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奴隷の少女は公爵に拾われる 34

「なんで黙ってた?」

「何を?」

 モヌワの詰問に対して、公爵は机の上の書類を横目で確認しながら返答する。

「あんたが国守の公爵だってことだ」

「良いタイミングがなくてね。最初に会ったときは真夜中で死にかけてたところから何とか生還して体調が思わしくなかったし、復調してきた後は君が暴れてたからね。その暴走も沈静化して、いざ言おうと思った時に伯爵からの使者が来た」

「そうだけども…」

「別にいいじゃない。それに言いたくないならこっちで調べるからいいよ。でも言ってくれると調査の方針がある程度決まるからありがたいな」

 公爵は書類に手慣れた様子で自身のサインを書いている。

「これから忙しくなりそうだし」

『でも、さっき麻薬の件について調査しないって言わなかった?』

「言ったよ?」

『じゃあ違う件について調査するの?』

「いや。普通に麻薬の件について調査するよ」

 公爵は娘からの質問に笑って答える。

「私が本当の事を言う訳がないだろ?あっちも同じさ。あっちだってわざわざ加速させている麻薬事業をストップさせるわけがないし、ましてや私が捜査を止めた所で金をくれる訳が無い」

『じゃあなんでわざわざ使者が来たの?』

 公爵は優しい微笑みを浮かべてツツィーリエの方を見た。

「まだツィルには難しいかな」

 公爵はもう一度自分の部屋の方に向けて指を鳴らした。

「わざわざ使者が来たのはね」

 開けられた医務室の扉からまた多数の書類が飛んで来た。

「私を挑発するためだよ」

『挑発?』

「そう。まず彼は“我々の麻薬事業”と言った。正式に伯爵の使者であると名乗ったにも関わらずだ。我々国守の見解として、麻薬の事業を展開しているのが伯爵であるという事は、確たる証拠があるわけではないけど状況的には明らかだ。伯爵はあの使者を使って“私はお前たちがどの程度まで捜査を進めているのか分かっているぞ”って言ったんだ。実際に麻薬の事業を縮小させるつもりなんかさらさらないのに嘘をついたのは、お前たちが無能だからしょうがなく縮小してやろうか?という少し馬鹿にしたニュアンスだね。ついでに“ここまで言っても正式に逮捕できるだけの証拠がそろっていないことも分かってる”とも伝えてるわけ」

「遠まわしに胸糞悪いことを言ってくる野郎だな。私がいた時と変わらない」

 モヌワが吐き捨てるように言う。

「挑発なんだからそういう事も言うでしょ。それに人間は数日では変わらないよ」

 モヌワの言葉にも別に動揺せず微笑みを浮かべたままだ。

「私はそんな挑発に乗るほど安い人間ではないからね。“嘘をつくなら私もそれに応じましょう”ってニュアンスを持たせた言葉を使者に託した。もし挑発に乗っているならあの使者をタコ殴りにして外に放り出すか、伯爵に呪詛の言葉を吐く訳だ」

 公爵はツツィーリエに対して指を一本立ててみせる。

「ここであの使者に対して、より深く聞いた結果わかった情報が役立つ訳だ」

『何の情報?』


「私が怒ったら脅す、という言葉だ」


 ツツィーリエは首をひねる。

「つまり挑発に乗ってきたら脅す、という事だ。………おかしいと思わないかい?」

『思う』

「どこらへんが?」

『伯爵にとったらお父さんが動かない方が都合がいいんでしょ?なんで挑発したり、脅したりするの?脅したってそれを怖がって捜査を止めたりしないでしょ?』

「そうだね。しかし実際伯爵は面倒な手を使ってでも私を煽ってきている。私に麻薬の件に関して捜査をして欲しいようだ。その事から考えられる可能性は2つ」

 公爵の立てた指が2本になる。

「1つ目は私に捜査をして欲しい事情があるということだ。私に調べて欲しいことがあるのか、私が調査することで彼の目的にかなった結果が得られる、可能性がある。2つ目は、我々国守の眼を麻薬に移して他で悪いことをする邪魔にならないようにすることだ。おそらく両方だろうね。モヌワがいなければ伯爵が麻薬以外の何かしらの動きを見せている事に気付くのが遅れただろうから陽動の効果はばっちりだ」

 公爵の顔が悪い微笑みを浮かべる。

「伯爵はモヌワが持っている情報を既に私が持っていると判断する。つまり、陽動にかける手間を増やさないと私の眼が伯爵本人から離れない。私の眼を離すためにも、本来の計画よりも派手に、これまでにないほどその事業を拡大させる筈だ。それに対処するためにかなり大々的な捜査が必要になる。しかし、誰かが伯爵の動向を追っていないといけない。そのために私の体はあけておく必要がある。だから国守1の男爵、1の侯爵、治安維持担当のこの二人を動かす用意が必要だ」

 で、と公爵が話を区切る。

「そこでモヌワだ」

 公爵の視線が黙って考え込んでいるツツィーリエから複雑な思考から既に逃げているモヌワに移る。

「伯爵は何を企んでるのか、教えてくれるかな?」

 書類を調整して署名していた公爵の手が止まっている。モヌワはその言葉で思考を自分の手に戻した。

「―――わざわざ私の体調が戻るまで安静しておいてくれて感謝している。あんたが国守の公爵なら話が早い。私が知っているのは、確かに伯爵が陰で何を企んでいるのか、という事だ」

 モヌワは真剣な顔をして自身の知っていることを公爵に伝えた。


「1の伯爵は3の侯爵を毒殺する用意をしている」


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