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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第1章 拾われる。
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奴隷の少女は公爵に拾われる 3

「そんなに慌てて食べなくても良いんだよ」

 かなり大きな部屋だった。天井は高く石作りの壁が無骨に外気と部屋を遮断している。明かりは当りを照らす蝋燭と仄かな月明かりだけだ。上の方にシャンデリアが設置してあった跡が見られるが今はもう無いようだ。

 テーブルはそこまで大きくはない。といっても普通の家庭にあるものよりは遥かに大きい。テーブルの上には少し裕福な商人達が食べている程度の豪華さのものが並べられている。とても優秀な人間が作ったことが見て取れるがまさか貴族の中でも最高階級を誇る公爵が自宅で食べているものとは誰も思わないだろう。

「急いで作ったんだけど、こんなに食べてくれるなら作りがいがあるわね。足りなくなったらまた作るわ」

 そのテーブルについているのはわずか四人だけだ。

 公爵と、執事、使用人のマーサに少女。

 本来なら公爵と使用人が一緒に食事をとるなどあり得ないことだ。

 だが、この部屋の中ではそのことになれきったように食事を楽しんでいる。

「いいですね、たくさん食べる人が一緒にいるというのは。見ていて楽しくなります」

 その中で、少女はテーブルの上にあるものの半分以上を食べて、口の中にたくさんほおばっている状況でまだ更に何かを盛ろうと周囲を見渡している。

 テーブルマナーも何もあったものではないが、とても楽しそうに年長の三人が見ている。

 少女の服装は、フリルのついた白いワンピースタイプのパジャマだ。胸元に赤いリボンが付いて赤い瞳と合わさって非常に似合っている。着てすぐはフリルを引っ張っていたが、今はそんなこともしていない。もともとあまり服にこだわりもないからだろうか。特に拒絶することもない。

「ほら、まだこれを食べていないだろ」

 公爵が少女の前に自分が独占する形に成っていた皿を渡す。よく焼けたチーズが乗った肉料理のようだ。ひき肉とトマトソースを合わせてそれを香辛料と一緒に炒めたものらしい。肉汁を吸ったチーズがとろけてこの大きな部屋に臭いが充満していく。

 少女はそれを受け取ると皿に乗っていた料理を殆ど自分の皿に盛り、嬉しそうにほおばり始めた。

 既に食べた量がこの年代の少女どころか、食べ盛りの少年三人分に匹敵するくらいに食べている。

「おなかを壊さないですかね、公爵様」

「多分大丈夫だと思うけどね。一応寝る前に草湯を飲ませようか」

「マーサの草湯は聞きますからな」

「分かりました。用意しておきます」

 といいながら、マーサは布巾に少女の口周りについた食べカスを拭いとった。少女はそれに抵抗することなくナスがままにされて、拭き終ってから再度食べ物と格闘し始めた。

 少女は風呂上がりのためか髪の毛はほんのり湿って頬が上気している。服は少しぶかぶかしているが裾の部分をフリルが飾る白いフワフワしたシャツとゆったりとしたズボンをはいて見違えるようになっていた。体にしがみついていた汚れも殆ど落ちている。髪の毛はストレートでとても長く、艶が輪になって頭に浮かんでいる。日に当たっていないためか肌も抜けるように白く、目の赤い色がよく栄える。

 テーブルのものをあらかた制覇したところでようやく満足したのだろう。ほおばったままの食事をゆっくりと飲み込み始めた。小さな体によく入ったものだと感心するくらいたくさん食べた。他の三人も皆満足するだけの量を食べている。

「じゃあ、マーサ。あと頼むね。僕は部屋にいるから」

「はい。ごゆっくり」

「ゆっくりできるかな。たまってる仕事がどんなものかちょっと確かめるだけだけど」

「それは公爵様次第ですよ」

「確かにそうだね」

 公爵は手を振って部屋を後にした。

「じゃあ、お嬢さん。私はここの片付けをしますから、ラトについて自分のお部屋に行ってくださいな。ベッドはちゃんとしてありますから」

 かなりの量のお皿をいっぺんに抱えながらマーサが片付けを始めた。

 少女はその様子をじーっと眺めていたがなぜか急に周囲を見渡し始めた。

「どうされましたか?」

 ラトの呼びかけに答える様子は無い。少女は公爵が去っていった扉の方を向くと、椅子から降りてそっちに向かおうと小さな足で歩きだした。

「お嬢様。お嬢様の部屋はこちらにございます」

 柔らかい微笑みを浮かべた執事が少女に声をかけてその歩みを止める。

 執事はその少女の傍に寄ると、胸元から白い布を取り出した。

「お嬢様。手が汚れています。その手で服に触るとマーサに怒られてしまいますよ」

 年嵩らしい優しい微笑みを浮かべたまま少女の手を取る。

 その手を皺の多い手で包むとゆっくり手についた食事の滓を拭き取る。

「見知らぬ場所ということで最初は緊張されているでしょうが」

 手を拭いながら落ち着いた声でしゃべる。

「大丈夫です。公爵様のされることに間違いはありません」

 ゆっくりとしゃべるラトの顔を、赤い瞳がじっと見つめている。

「今日はお休みになってはいかがでしょうか」

 皺の中に埋もれるように目を細めて笑う。

 その目を見て少女はゆっくりとうなづいた。

「こちらです」

 執事はゆっくりと立ち上がり、少女の歩幅に合わせて部屋まで歩き始めた。

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