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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第2章 黒、銀、茶、赤
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奴隷の少女は公爵に拾われる 27

「しばらく一人で考えさせてほしい」

 モヌワはひとしきり泣いた後さすがに暴れることができなくなるくらいに消耗していた。ツツィーリエが差し出した水を細い管を使ってゆっくり飲むとそう言ってベッドの上にうつぶせになって倒れた。

「そうだね。もし用があったら言って。バードン。トイレに行きたくなったときとかにつかえるもの何か持ってきてる?」

「尿瓶を持って来とるよ。意識があるときいとったからね」

「じゃあなんで女性の助手連れてこないかな」

「そんなとこに気を回してる暇があったら血液の研究を進めとる」

 公爵がため息をつく。

「連れてきなさいな。それまでマーサにお願いするから」

「まぁそう言うならそうするよ」

 バードンは肩をすくめると、大きな鞄を抱えて部屋から出る。

「今回はラトをよこさないのか?」

 バードンが部屋のドアのあたりで振り返る。

「こっちにも仕事があるんだ。ラトがいないと困るよ」

「そうか、そりゃ残念だ」

 というと、そのまま手を振って外に出た。

「………じゃあドアの外に誰かいるようにしておくから、何かあったら声を出すか大きな音立てて」

「………」

 うつぶせたモヌワから返答はなかったが、体が少しだけ動く。

 公爵とツツィーリエ、ラトは静かに部屋を出る。

『私の血を入れたら、だめだった?』

 扉が閉まったと同時にツツィーリエが公爵に手話で尋ねる。

「いや。ツィルは悪くないよ。ただ血液を入れたっていうことを言うタイミングを間違えたね」

 公爵は困ったように頭を掻く。

「モヌワ、っていう名前はこの国から陸続きで4件隣くらいの位置にある国で良くみられる名前なんだ。 あそこの国は宗教に関する考えが厳格でね。悪い国ではないんだけど、宗教が強すぎて技術の発展への拒否反応を持つことがあるんだ。他人の血液を入れるとか、医術に対するものがそのもっとも顕著な例だ」

 ラトが心配そうに囁く。

「自決、したりするでしょうか」

「あの国の宗教で自殺は禁止されてるから大丈夫だと思うけど万が一にも避けたいね。ツィルが頑張ったのが水の泡になっちゃうし、何か私に伝えたい情報があるらしいからそれを持ったまま墓場に行かれると困る。今は私が国守の公爵であることを伝えないほうが良い。目的があると言う事が彼女の自殺を止める要因の一つになるかもしれない」

 公爵はラトの方を見る。

「とりあえず、ラトはマーサを呼んでモヌワの世話をお願いしたあと私の所に来てくれ。今はまだ暴れられないだろうからマーサだけで大丈夫だ。バードンが女性の助手を連れてきたらその助手とマーサの交代でモヌワを世話、および自決の防止をする。ツィルはなるべくモヌワの近くにいて世話を手伝ってあげて」

 ラトとツツィーリエがしっかり頷く。

「私は少し自分の仕事を片付ける。モヌワの情報が何であれ、おそらく私に言いたいことというのは国内の治安維持もしくは他国との紛争につながることだろう。なら、その情報に驚かされるのはごめんだ」

『そういう事に心当たりがあるの?』

「おおありさ。候補が多すぎて困ってる」

 公爵が息を少し吐く。特に強い感情を抱いてる訳でもない灰色の眼がじっと公爵の部屋がある方向を見つめる。

「じゃ、とりあえず動こうか」




 それから数日の間、モヌワは一言も喋らずただ世話をされるがままになっていた。

 着替えや包帯の交換、下の世話、モヌワ自身が手伝える最低限の範囲で身体を動かすが積極的に何かをしようとはしない。たまに遠くを見ながら何かを呟いて、ひたすら考えているようだった。

 危惧していたような自決に至る行為は見られず、その点は世話をしている者を中心に安堵の要因となった。食べ物も鳥のスープくらいなら大人しく飲む。液体状のものから粥状のものときてどんどんしっかりしたものを食べられるようになり、傷も順調に治っていった。だが表情は沈んだままで会話もしようとはしない。ツツィーリエが近づいた時だけその方向を向くが、特に何を話す訳でもない。ツツィーリエの方も積極的にコミュニケーションをとろうとはしなかった。やがてずっと誰かが見ていなくても良い状態と判断された。歩くことができるくらいまで体力も戻り、基本的な身の回りのことは少し介助してくれる人がいれば一通りできる程まで回復した。

 だがずっと何かを考え続けるような表情は変わらず、ツツィーリエはその様子を特に気にした様子もなく身の回りの世話を行った。モヌワの思考を邪魔しないようにと、モヌワが医務室のベッドの上で休んでいるときは医務室のドアの外で読書をし、モヌワが呼んだり何か介助が必要な場合のみ医務室に入るようにしていた。


 その日ツツィーリエは医務室のドアを閉め、ドアにもたれかかりながら本を読んでいた。石の床に持ってきたクッションを敷いて、その上に座っている。たまに玄関ホールの高い天井とシャンデリアを見上げると、しばらく本から目を離したまま何を考えているのかわからない顔で固まる。

 と、ツツィーリエが医務室の中の音に反応する。モヌワがベッドから降りる音だ。

「誰かいるか」

 医務室の中からモヌワの声がした。ツツィーリエはクッションから立ち上がると、医務室のドアを開ける。



 そこには、決然とした表情で両膝を付き自身の脚の根元に拳を置くモヌワの姿があった。

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