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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第2章 黒、銀、茶、赤
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奴隷の少女は公爵に拾われる 25

 女が目を覚ますとすでに朝になっていて、鳥のさえずる声が頭に響いてきた。頭痛のため回ってくれない頭を少しでも働かせようとゆっくり目を開けると、すぐ近くに大きな赤い目が二つこちらを見つめていた。朝の鳥の鳴き声を聞きながらその瞳をぼーっと見つめ、女はしばらく薄い目を開けたままひどい頭痛にさいなまれた頭をどうにかしようと目をぐるっと回して、もう一度赤い目と見つめあう。

「…………ぅお!?」

 女は至近距離に人がいるという事態にようやく気付いて咄嗟に身を引こうとするが体が動かない。体が無様に震えるだけだ。

 少女は女がびくっと震えたのを確認して、持っていた紙に文字を書いていく。

『読める?』

「読める。って、なにがだ?」

『文字』

「私は傭兵だぞ。傭兵が文字読めなくてどうやって契約書にサインするんだ」

 少女はその説明に納得したように数回うなづくと、再度文字を続ける。

『モヌワさん、起きた?』

「見りゃわかるだろ」

 ツツィーリエは数回うなづいて、近くの台に載せていたお椀を持ってくる。

『起き上がれる?』

「無理だ」

 ツツィーリエはモヌワの服をつかむと、まるで大きい丸太を転がすようなイメージで、うつ伏せの状態から仰向けの状態に転がす。背中の傷が少し痛むのか、モヌワの顔がゆがむ。

 そして肩のあたりに回って服の肩部分をつかむと、少女の渾身の力でモヌワの背中を大きな枕の上に引き上げた。

「おいおい、無理するな。私の体は重いぞ。寝てれば治るから」

 少女はその言葉を無視すると、ベッドから降り、先程持ってきたお椀を引き寄せる。

『これ飲んで』

 お椀からスプーンを使って中身をすくい取ると、女の口元に持っていく。

「なんだこれ」

『スープ』

「見りゃわかる。なんのスープかって聞いてんだ」

『鳥』

「鳥は食わない」

 少女が首をかしげる。

「鳥は神の使いだ。だから食わない」

 モヌワはツツィーリエから顔をそむける。

『鳥は食べ物だよ。ちゃんと飲んで』

「食わんといってグモッ!」

 反論しようと顔を向けた瞬間に頬に手を当てられ、あいた口にスプーンを突っ込まれた。とっさに吐き出そうとするが、口が勝手に入れられた液体を嚥下する。

「!?」

 そのまま抵抗できずに、モヌワの口が勝手に開く。その口にまたスプーンを押し込まれ、薄い塩味の液体を飲みこんでいく。

『飲まないと死ぬから』

 勝手に動く自分の口に目を白黒させるモヌワの前に文字が躍る。

 その文字を見てモヌワの獣のような目がツツィーリエを睨み付ける。その眼光を歯牙にもかけず、頬に手を当てたままツツィーリエが少しずつ鳥のスープをモヌワの口の中に入れる。

 小さなお椀が半分ほどになったところで、ツツィーリエが手を離す。モヌワは咄嗟に吐き出そうとするが、嘔吐する体力がわきあがらない。むやみな空咳だけが口から出る。

「お前も魔法使いか」

『体、気持ち悪い?』

「鳥を食べたから気持ち悪い」

『体は元気?』

「元気じゃねぇよ。よくも無理やりムゥグ!?」

 再度頬に手を当てられ、また少しずつ強制的にスープを嚥下させられる。なおも抵抗しようとわずかにあがくモヌワの顔をツツィーリエが自分の顔のほうに無理やり向けて、目の前に紙を示す。

『食べ物を残したらだめ』

 いつになく太く書かれた文字を示した後、スープを口の中に放り込まれていく。

 お椀の中の液体がすべてモヌワの体内に取り込まれた後、ツツィーリエはもう一つ小さなコップを持ってくる。

『これも飲んで』

「こっちはなんだ」

『傷の治りを早める薬』

「断オゥゥ!?」

 モヌワが逃げる前に再度ツツィーリエの手がモヌワの頬に触れる。

『飲んで。薬も食べ物も残したらダメ』

 赤い目がモヌワの顔に触れるくらいまで近づいて、じっと見つめる。今度は無理やり飲ませようとせず、緑のどろっとした液体が入ったコップを近づけてくる。苦い臭気にモヌワの目が潤む。

「う……い、いや、だ」

 ツツィーリエは頬に手を当てたままモヌワの口元にコップを持っていく。口元にコップの縁が触れるが、それを傾けようとはしない。

 ツツィーリエの目がおびえるモヌワの目を見据える。

 両手がふさがっているので文字で訴えることはないが、その眼が明確にツツィーリエの意思を伝える。


 ―――飲め―――


 迫力のある顔でモヌワを見つめるツツィーリエは恐ろしいくらいの迫力があった。ましてや弱って無理やりスープを飲まされたモヌワにとっては、迫ってくる剣よりも恐怖を感じさせられた。

「の……飲む……」

 ツツィーリエは頬に手を当てたままゆっくりとコップを傾ける。モヌワが涙目になりながら薬を含むと、ものすごい苦さのために吐き出しそうになる。咄嗟に吐き出そうと顔をそむけようとした瞬間、ツツィーリエの目がぐいっと近づいてきた。思わず口に含んだ分を飲み込む。

 いったんコップが口から離れ、口元をツツィーリエに拭われる。

「やめろ、子供じゃないんだ」

 と、嫌がるがツツィーリエが再度コップを口元に近づけると子供のように嫌がるそぶりを見せる。だが、それも再度ツツィーリエに見竦められてしまえば飲まざるを得ない。

 しっかり時間をかけて苦い薬を飲み終える。

 モヌワがぐったりしているとツツィーリエが頭をなで始めた。もうそれに対して何かを言おうとする気が失せたらしい。抵抗せず背中にもたれかかり、強烈な傷の痛みに体を起こす。ツツィーリエがそれを見て、モヌワの体をうつぶせにする。

「うぅ。鳥も薬も体に入れてしまった…」

『よくできました』

 背中の傷の部分をやさしくなでると、食器を片づける。



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