奴隷の少女は公爵に拾われる 20 (血の描写が多くあります)
血の描写がものすごくたくさんあります。R15指定が後付できないので、申し訳ないですが、苦手な方はもうしばらく待ってください。この話はものすごく血だらけです。
まずまだ酸化していない血の臭いが鼻についてきた。
路地の曲がり角は膨らんで曲がっているので少しだけ他の場所よりも広くなっている。日の光は直接あたらず相変わらず薄暗い。その広くなっている場所に、ツツィーリエが今まで見た事のないような巨躯がうつ伏せで横たわっていた。
体中に刃物で切られたような傷が小さく広がっており、その大きな背中の肩から臀部にかけて刻まれた深い裂傷からとめどなく血が流れていた。
体の大きさはツツィーリエ2人分の縦と、4~5人分はあろうかという横幅をしていた。体格は鍛え抜かれた戦士、筋肉は鋼で出来ているかのような硬さと迫力を持ち、それを包む皮の服を吹き飛ばしそうだ。髪の毛はその持ち主から垂れ流れている血の色、つまり茶色の混じったような赤。その髪がかなり短く刈り込まれている。
驚くべき事はその倒れている戦士が胸部の盛り上がりから女性であるという事だ。
わずかに息をしているように体の上下している。が、あたり一面に血が滴っているような状況で大丈夫なわけがない。
ツツィーリエは靴が血で汚れるのも構わずにその女性に近づくと、少女の体ほどもある首筋に両手を当てる。
「……ぁ……ぅ」
その女性からわずかに声が漏れる。それを確認すると、次に少女の手は背中の大きな傷口に向かった。手の平が強く光り、青みが勝った燐光が零れ落ちる。その手のひらを大きな傷口にあてがう。
が、ツツィーリエの手が燐光ごと強い力に弾き飛ばされ、あたりが一瞬だけ電光のような光に彩られる。ツツィーリエは思わず自分の手を見つめる。
手のひらに先程あてがった傷口と同じような切り傷が一本、そこから自分の血がゆっくりと流れ落ちていた。
ツツィーリエはその傷と女性の背中の傷を見比べ、自分の傷を舌で舐めてから再度自分の手を胸の前に持ってくる。先と同じように手のひらを燐光が包み込んだ。今度はゆっくりと息をつめて手のひらを傷口に近づける。
だが、先程と同じようにツツィーリエの手が弾き飛ばされる。手の平の傷口もさらに深くなり、ツツィーリエの頭に無視できないじくじくとした痛みを送ってきた。目の前の女性の傷はほんの少しだけ血の流れが弱くなっているように見えなくはないが焼け石に水だろう。
ツツィーリエは治癒を諦め、女性の服をつかむと引きずって移動を試みる。
だが
「――――――――!!」
鍛え抜かれた筋肉の塊は、重さも尋常ではなかった。ツツィーリエの小さな体では、この意識のない女性を屋敷の中に引きずっていくのは難しいだろう。
顔を真っ赤にして数メートル引きずったところで少女は手を放した。その額には大粒の汗が浮かんでいる。
数回大きく呼吸をしてから、手の平に集中する。そしてその手のひらを女性の方に向けた。その手のひらに反応するように女性の体が少しだけ浮く。その浮いた状態のまま、少しずつ女性の体が動き始める。その速度はナメクジが這っているくらいの速度だ。遅々として進まない。
すぐに女性の体がぬれた音を立てて地面に落ちた。ツツィーリエもその場にへたり込んで荒い呼吸を整える。
そして、再度この女性を動かそうと試みようとした。まずその巨体の下に自分の体をもぐりこませて、下から担ぎ上げて移動させる。この方法ももう少しツツィーリエに体力があれば何とかなっただろうが、すぐに細い足が女性の体重の重さに負けて、女性の下敷きになってしまう。
「お嬢様!そこにいたんですって、ヒィッ!なにこれ!?」
そこに走り現れたのはミーナだ。足元にまだ蔦がいくつかへばりついている。そのミーナが路地の角を曲がって表れた瞬間、叫び声をあげて血の海に足が突っ込みそうになる直前で止まる。
「お、お嬢様!?大丈夫ですか!?体中血だらけですよ!大丈夫ですか!?」
ミーナは血の海の中で女性の下敷きになっているツツィーリエを見てさらに悲鳴を上げる。
ツツィーリエの体には目の前の女性から流れ出た血がべったりとついて、服はもう二度と着ることができない程真っ赤に染まってしまっていた。顔にも地面からの血が跳ね、髪の毛は下敷きになった時に地面と女性の上下から血を浴びた形になっている。
別にツツィーリエはそのことを気にすることなく、血に濡れる地面に手をついて女性の体を背中に載せて持ち上げようと試みる。
「その人、凄いけが…すぐにお医者様に見せないと」
ツツィーリエは震えたその言葉に頷いて、ミーナに手招きする。ミーナが血の海をよけてツツィーリエのほうに寄る。
ツツィーリエは、まずミーナのほうを指さして、次に血だらけの女性、最後に路地から大通りに向かう方向を指さす。
「とりあえずお医者様を呼んでくればいいんですね?」
ツツィーリエはうなづいて、そのあと自分の口元で何かのジェスチャーをしてから自分のいる位置を指さす。
「えー……ラトさんですか?ここに呼んできたらいいんですね?」
もう一度大きくうなづく。
「わかりました。お嬢様も行きましょう」
それに対しては首を横に振って拒否して、背負っていた女性をゆっくりおろす。




