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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第2章 黒、銀、茶、赤
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奴隷の少女は公爵に拾われる 19

今回は少し血の描写があります。R15にする程では無いですが、苦手な方は読まない方がいいと思います。

 呼び鈴が三人のいる場所に響く。

「お嬢様、ミーナさん。少し失礼します」

 ツィルはラトに向かって手を動かす。

『わかりました』

 そのあとはまた本の世界に戻る。ラトが一礼して庭から出た。

 ミーナは退屈そうにしながらツィルの髪の毛を手櫛でとき始めた。

「お嬢様、髪の毛きれいですよね」

 ツィルは別にそのことに対して何も言わず、ただミーナのほうに振り向くだけだった。

「私の髪の毛、ちょっと癖毛でしょ。たぶんもっとくねくねし始めるのかなーって思うと憂鬱です」

 ツィルはそれに対して何か伝えようと体を動かそうとした瞬間。

 ツィルの体が固まった。

「どうしたんですか?お嬢様」

 ツツィーリエの目が屋敷を囲む高い壁に向かう。石作りの壁は歴史を感じさせるものの適宜修繕が入り、最悪の場合籠城にも耐えられるような分厚いものだ。その壁には、特に何も異変が起きたようには見えなかった。

 ツツィーリエは本を置きおもむろに立ち上がると、すたすたと公爵邸の庭にある裏口の方へ歩いて行った。

「お嬢様、どこに行くんですか!?」

 突然動き始めたツツィーリエに困惑しながらミーナがその後を追いかける。

 雑草の繁茂した庭を突っ切って目立たない石作りの扉の前に立つ。

「勝手に出たらだめです!」

 ミーナが、裏口の閂を開けようとするツツィーリエの前に立ちはだかる。

「何があったのか知りませんけど、ラトさんも公爵様もいない時に外に出てもしもの事があったらどうするんですか!」

 ツツィーリエは真剣な表情で叫ぶミーナのその言葉を耳に入れながら、ミーナの方に自身の手の平を向ける。

 その手が光り、手の平から僅かに燐光がこぼれた。

 その零れた燐光に反応するようにミーナの足元の草が成長してミーナの足首に纏わり付く。

「え!?な、なにこれ!」

 咄嗟に足を引き抜こうとするがかなり強く纏わり付いた蔓草がミーナの動きを制限し、バランスを崩したミーナが尻もちをつく。

 ツツィーリエはその横を通り抜けて裏口の扉を開いた。

「お嬢様!?だめですって!」

 ツツィーリエを掴もうと伸ばしたミーナの手はツツィーリエにわずかに届かない。追いかけようともがくミーナを尻目にツツィーリエは裏口を扉を閉め、閉まった扉に手を当てて再度彼女の手が光り閂が閉められる。

 そして、先程ツツィーリエが顔を向けた屋敷の壁の向こう側に向かってかなり速足で歩き始めた。

 公爵邸の壁の外側は高い壁と高い壁に挟まれた細い路地になっていて裏口の近くという事で奥まっており人気もない。地面はレンガで舗装されて馬車などが通れるようにはなっているが、殆ど通ったような形跡はない。余り人が通らない場所なのだろう。

 その場所にある土埃の中に、大きな足跡がくっきりと残っている。人間かと疑うレベルで大きな足跡だ。その足跡はツツィーリエの目的地と共通の方向を進んでいるようだ。

 変わらない表情で足元の足跡を睨みながら薄暗い路地を進んで行く。しばらく壁に沿って歩いていると、足跡の数が増え先程の大きな足跡を囲むように幾つもの足跡が展開されていた。ツツィーリエがふと壁を見ると茶色く変色した血液が付着しているのが確認できた。

 ツツィーリエの足がさらに早くなる。

 どんどん足跡の乱れが多くなっていく。歩いて行くうちにどんどん足跡の数が減り、それに応じて壁やレンガの隙間に入り込んだ血の量が増えていく。必然的に周囲に立ちこめる臭いに土埃の臭いから鉄臭に変って行く。

 そしてツツィーリエが路地の曲がり角に差し掛かる所で血の臭いが頂点に達した。

 明らかに飛び散っただけでは無い血の量が近くに流れている。

 ツツィーリエは路地の角を掴み殆ど走るように路地を曲がった。


 そこには血の海が広がっていた。


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