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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第2章 黒、銀、茶、赤
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奴隷の少女は公爵に拾われる 16

 子爵は汗をだらだらと流しながら辛うじて言葉を発する。

「そ……それは…何かのまち…」

 その言葉を公爵がかき消した。

「君が直営で管理してる複数の店の利益に紛れ込ませてる。とても手の込んだやり方だ。意図的に所得を隠したね」

 口をパクパクさせて何か言葉を紡ごうとしていた。

「国富の公爵は私が知る前からこのことを知っていたけどね」

「え!?」

 子爵は無意識にその場で思いっきり音を立てて立ち上がった。後ろの傭兵は主人の動きを細めた眼で見つめている。

「当然だろ?彼はこの国の金の流れに関して王族財産担保権益から子供のお小遣いまで逐一把握している人だ。不自然な金の流れに気付かないような愚か者では無い」

 一枚の書類を彼の前に差し出す。

「君がローゼンヌで得た利益を含めた実際の君の純利益だ」

 そこには、15000という数字が踊っていた。

「非常に優秀だ。君はその年で自分の爵位を引き継いで数年で利益を2倍にしたんだ」

 公爵がゆっくりと腕を組む。

「私がこの金の流れに気付いたのは偶然だ。だから国富の公爵にかけ合って、君が犯した罪をある条件を満たせば今回だけは大目に見て貰える事になっていた」

「そ、その条件は…」

「私の警告に気付いてさっさと本当の純利益を国富の公爵に提出することだ」

「警告?……あ!」

「今回の防衛設備拡充費用負担。この12%は、君が出した本当の利益のだいたい1/3だ。本来はそこまで負担させることはしないが、ペナルティーという事で多めに負担してもらう事になった。君が提出した利益からは明らかに考えられない負担率。それを私が課した訳に気付けばそれでよかったんだ」

 公爵の声の温度が少しだけ下がる。

「もうたぶん国富の公爵が君の財産を解体して国富の共通財産に取り込んでいる所だ」

「えぇぇぇぇ!?」

 すでに彼の顔にはやり手の商人の表情はなかった。

「国富の貴族が一般の商人に比べて税制上非常に優遇されているのは、この国の財政を負担してもらうからだ。だからこそ、国富貴族による多額の所得隠しは重罪だ。悪質なものは国家反逆罪が適用される。知っていた筈だ」

 公爵がまた少しため息をつく。

「今回は単なる所得隠しだったから、罰を与えるのは国富の公爵に委任した。彼は君の稼いだもの、得たもの、引き継いだもの。全て自分のものにする。もちろんローゼンヌの権益もね」

 子爵の身体中が瘧のように震えた。

「子爵位だけは残してあげる。ゼロからのスタートという事だ」

 一瞬でなすすべもなく自分の得たものを失って行く。その雇い主の様子を見た傭兵は机の上に抱えていた書類を置いた。

「何を…」

「その様子だと、俺との契約もなしってことか。」

 見てくれの理知的な雰囲気をかなぐり捨て、傭兵のさばさばした口調を前面に押し出していた。子爵は信じられないといった表情で雇われ秘書をのほうを見る。

「あ、とりあえず今月の給金とかは良いわ。なんか大変そうだし、先月までの分はたんまりもらってるから」

 子爵が何か声をかける前に、衣服の内ポケットから一枚の書類を取り出す。

「これ俺の契約書。契約破棄の手続きよろしく」

 傭兵の変わり身の速さに改めて自分が一切を失ったということを実感したのか、呆然とした表情で契約書の所定の位置にサインをする。

「どうも」

 それを確認した傭兵は子爵の手から取り上げるように契約書を手にすると、振り返りもせず颯爽と部屋を出て行った。

 子爵は、目の前を見てはいるがどこに焦点が合っているのか分からない。歯を喰い締め、息が荒くなっている。その様子を公爵は特に感慨を抱いた様子もなく観察する。

「子爵君。屋敷の外まで送ろう」

 公爵が腰掛から立ち上がろうとする。

「………い、いいえ。結構です。…道は覚えていますから……」

 まだ精神の揺れに対応できないまま、それでも最後の矜持を振り絞って公爵の方を向く。

「失礼、します」

「ラト」

「お呼びでしょうか」

 応接室のドアから、燕尾服姿の執事が現れた。

「子爵君を玄関まで送って差し上げて。体調があまり良くないようだから」

「かしこまりました」

 ラトは子爵に近づいて、体調を気遣う言葉をかけながら玄関まで先導していった。

 子爵が出て行った後、応接室に一瞬の静寂が広がった。

 その静寂がそこまで大きくならないうちに、お茶の用意を持ったマーサが現れた。

「あれ?お客様は?」

「もう帰ったよ」

「あっら。しまったわ。こんなに早く帰るなんて思わなかったから」

「別にいいよ。出してても飲める様な状態じゃなかったし」

「まァ、それならいいんですけど。……公爵様、ツィルお嬢様、飲みます?」

「もらおうか」

 ツツィーリエは、放置された書類の束を少し見つめてから、マーサに向かってうなづいた。

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