奴隷の少女は公爵に拾われる 14
「すいません、待たせちゃいましたか」
ツィルが手を洗っているところにマーサが現れた。
「別にまってないよ。適当に食べたし」
そうですか、と安心したように息をつく。
「お客さんは何か食べていかれるんですかね?」
「別に聞いてないけど、たぶん私と話した後に食欲がわくとは思えないね」
「わかりました、じゃあ、お茶だけにしときますね」
マーサは手際よくお茶の準備をし始める。
「マーサ、ラトがどこにいるか知ってるかい?」
「ラトさんですか?いいえ。自室におられないんですか?」
「いや、知ってるならそっちの方が早いかなと思っただけだよ」
「この時間は公爵様に用事を仰せつかってないときは自室で仕事してますけどね」
「そうだった」
男は軽く頭を掻く。
「じゃあ、とりあえずラトを探しに行こう」
「お呼びですか」
その噂のラトが、脇に書類を抱えた格好でドアを開けた。台所のドアを開けて入ってきた。黒い燕尾服を隙ひとつなく着こなし、公爵よりもさらに白いものが多い髪を後ろになでつけている。整えられた口髭が一層その執事の有能さを増長させているようにも見える。
「呼んだわけではないけど探そうと思ってたところだ」
「子爵の業務内容と利益率純利益などに関する報告書、整いました」
「悪いね、急に頼んでしまって」
「いいえ。これが仕事ですから」
「ラトさん、何か食べますか?」
お茶の用意を済ませてしまったマーサが手持無沙汰になったのか食糧庫のほうに体を剥けながら聞いてくる。
「いいえ。いりません。私は後でそこにあるお茶菓子をいただきます」
「あら、これはお客様のですよ」
「おそらく公爵様とお話をされた後で子爵がお茶菓子を召し上がることはないと思うので」
「あら、そんな食欲の失せる話をされるんですか?」
「あっちからしたいといってきたんだ。しょうがない」
書類を確認しながらかすかに肩をすくめる。
「お嬢様は何か食べられますか」
ラトが少女に尋ねる。
『食べたいけど、子爵が来たらお父さんと一緒にいかないといけないから』
「おや、公爵様。ツィルお嬢様も同席されるのですか」
「そうだよ。勉強がてらね」
「何の勉強ですやら」
「ま、たまにはいい所を見せないと」
ラトが苦笑いを浮かべる。
鐘が鳴る音がした。
呼び鈴だ。
「生贄羊のおでましだ」
公爵はほんの少し微笑みながら書類を指でついていた。




