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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第2章 黒、銀、茶、赤
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奴隷の少女は公爵に拾われる 13

 公爵が台所に至る扉を開けて、部屋の中を物色し始める。

 台所は、あるべきものがあるべきところに整然と立ち並び、またあらゆるものが清潔に保たれている。様々な香辛料や調味料が所狭しと並んでいる棚、鍋が積まれているスペースに、お玉や菜箸、普段使いの皿が置かれている場所。客用の杯や皿をしまっている小さな棚が隅の方に置かれている。

 水場には乾かされているまな板や、よくとがれた包丁、水気を拭われて干されている鍋。かなり大量に食事を用意することになっても十分対応できるだけの設備と広さがある立派な台所だった。

「何があるかな。あんまりいらないんだけど」

『食糧庫に果物があると思う』

「果物か。いいね」

 男は台所の奥にある扉を開く。

 その中は薄暗い空間、一段低いところに作られたひやりとする空間が広がっていた。大きく息を吸い込めば、鼻から食欲をそそる食材の良い匂いがまじりあって、空腹を抱えたものには至福の一時をもたらす。

 手前には言った通り果物が保管されていた。日持ちのする果物を中心に、いくつかは旬の質の良い柔果が大きなボウルの上に積まれている。

 奥には小麦粉が詰まった麻袋など、保管の効く類の粉類、そのさらに奥に保存のきく塩漬けの肉がぶら下げられていた。

「この量を一人で管理してるからすごいよね」

『自分の家の食糧庫も兼ねてるって言ってた』

「知ってるよ。マーサは家から通ってるからね。ま、いいんじゃない。こんなに広い食糧庫あってもマーサがいなかったら使われないわけだし」

 ツィルは食糧庫の入り口近くにある果物の群れのほうに進むと、一番大きいざるを持ち上げて公爵のほうに持ってきた。

「この中から選ぶのかい?」

 ツィルは両手に余るほど大きいざるを力いっぱい持ち上げながらうなづく。

「じゃあ、これをもらおうかな」

 公爵は赤い、果汁の多さと甘さが特徴の果実を一つとる。大きさは公爵の握りこぶしほどだ。

 ツィルは公爵がとったことを確認するとざるを持ったまま台所に移動し始めた。

「それ全部食べるのかい?」

 ツィルは返答せず、台所の作業台の上に持っていたざるを置く。

 公爵は特に気にした様子もなく置いてあった包丁をとると、器用に果物の皮をむいていく。

 台所に新鮮な果実の匂いが広がる。

 滞りなく皮を剥き終えたとき、少女が公爵のシャツを引っ張っていたことに気づいた。

「ん?」

 公爵が作業を終え少女のほうを見ると、少女が手話で『上手』と言っていた。

「ありがと」

 果肉がむき出された果実を4等分すると、そのうち一つを公爵は自分の口に入れ、残りの二つを少女の手に渡す。

「はい、口開けて」

 残った最後の一つを公爵は少女の口のほうに寄せる。少女はおとなしく口を開けると、その中に果物が放り込まれる。

「美味しい?」

 口をもぐもぐさせている娘に男が問いかけながら、口の中の果物を咀嚼する。

 少女は変わらない表情でうなづきながら手の中の果物も口の中に入れる。

「余り大量に頬張ったらだめだよ」

 少女が頬をいっぱいに広げながら首をかしげる。

「マナー違反だ。誰もツィルの食事をとったりはしないよ。ゆっくりお食べ」

 剥いた皮をくず入れに入れて手を洗う。

 少女の方はざるの上にある柔果の方に手を伸ばす。

 先程の赤い果実よりもさらに果汁が多く柔らかい果実だ。

「皮は剥くんだよ」

 そう言われた少女は柔果に爪を立てて皮を破ると、かなり乱雑に皮をむく。

「貸して」

 男は少女の手から柔果をとると、器用に皮を剥き始める。

 剥き終わった果実をまた4等分して、一つを少女の口に寄せる。

「はい」

 口を開けた少女の口の中に入れ、残ったうちの一つを自分で、二つを少女に渡した。

「今日はこれでやめておこう」

 もう一つの果実に手を伸ばそうとした少女が公爵のほうへ向き直った。

「ツィルは際限なく食べてしまうからね」

 果汁でぬれた手を洗うと、水場に手が届かない少女のために台を持ってくる。

『ありがとう』

「どういたしまして」

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