都市伝説たちの日常
「うむ・・・・」
今日は記念すべき第3回目のホラー会議だ。
ホラー会議とはいわゆる花子さんやらこっくりさんやらメリーさんなどの都市伝説に登場してくる怪奇な者たちが集まって、いかに人間を怖がらせることができるか。という会議だ。
今日もいかにして人間を怖がらせようかとみんな集まっていた。
「えー、じゃあ、始めますか、会議」
ざわざわと他の怪奇たちがうるさい。
せっかくこの俺が呼びかけてやっているのだ、少しは静かになってもらいたい。
これだから最近の妖怪は・・・。これがゆとりというものなのだろうか。
「あの、こっくりさん・・・・」
「ん?なんだメリー」
この少女はメリー。
人間にはメリーさんと呼ばれている。
彼女の仕事はおもに特定の人間に電話をかけ、最終的にその人間を殺すということなのだが・・・。
「あの、あの、すみません、今日も、あの、人間を殺めることができませんでした・・・」
「ふむ、またか・・・これで殺せなかった人間は・・・2897364人じゃないか・・・?」
「すみません!すみません!あのあの、私、やっぱりお母さんみたいに人をその・・・殺めることなんて・・・」
そう、この「メリーさん」は怪奇なのだがかなり優しいのだ。
その優しさがあだとなって仕事が全くこなさせていない。
かれこれもう100年は「メリーさん」によって殺されることがなくなった。
しかし、殺さなければならない。
嫌でも、「メリーさん」とはそういう存在なのだから。
でなければ・・・。
「しかしだね、メリー」
「わ、わかってます!わかってます・・・けど・・・でも私・・・」
「ふぅむ・・・そうか・・・だがなぁ、このままだと、君の噂、都市伝説は消えてしまうことになるんだよ・・・そのことは解っているだろう?」
「・・・・」
そう、我々怪奇は、人に覚えてもらえていればいるほどその存在は強くなるのだ。
逆に、誰にも覚えてもらえなくなった時点でそれはゲームオーバー。要するに消えてしまうのだ。
人間で言うなら死ぬということになる。
そのためにも我々は自分の仕事を全うしなければならない。そうしなければ、死んでしまうのだから。
「はあ、もういいよ、わかってる、君は人間が好きだものね」
「はい・・・すみません・・・」
「大丈夫、気にすることはない。俺も最初はやはり抵抗があったよ。ただの「こっくりさん」という遊びみたいなことを、一人でやってはいけないというルールを破っただけでその人間を殺さなければならなかったからね。馬鹿馬鹿しいとは思ったが、やはり自分の身には代えられん。仕方ないんだよ。この世は弱肉強食。やるしかないさ」
「はい・・・わかってます・・・」
「・・・まあ、君もまだ若い。そんなに気にすることはないさ」
そう言って彼女の頭に手をポンとおき、そっとなでる。
「そういえばメリー、君は今年で何歳になったんだっけ?」
「えっと・・・290歳です・・・・」
「そうか・・・」
290歳と言っても怪奇の中ではかなり若い年齢だ。
人間で言うとまだ10歳にもなっていない。
そんな子供に人を殺せなど、やはりひどい話だった。
「あ、そこにいるのはこっくりさんとメリーちゃんじゃないっすか!どうもー!」
意気揚々とあふれんばかりの笑顔で小走りに駆けてくる彼女は、「ひきこさん」と呼ばれている。
なんでも、昔いじめられて自殺した子供が、強い怨念により幽霊として蘇り、いじめっ子を殺してまわるという恐ろしい話で生まれたのが彼女だ。
設定もあり、家でひきこもっていたからひきこさんだとか。
だが当の本人を見ていると、とても引きこもっているような性格に見えない。
むしろオープンな性格で、ちょくちょく人間界に遊びに行っている。
ひきこさんといえば都市伝説の中でもかなり恐れられている怪奇なのだが、本人に自覚がないのか、そういうことは一切しない。
ゆえに仕事もしない。つまり人を殺さないのだ。
忘れらて存在が消えてしまうぞと一度注意はしているのだが、
「そのときはそのときっすよ先輩!」
と言われてしまった。
彼女を見ていると寧ろ清々しい気分になれるものだ。
「いやぁほんとまいちゃったっすよぉ!電車が遅れてしまって!遅刻しちゃいましたぁいやぁほんとにすみません!」
手のしわとしわを合わせて謝るひきこだった。
本当に、すがすがしいというかなんというか。
彼女にいやな印象を持つ者はおそらくいないだろう。
「ところでひきこよ、お前、また仕事をさぼっただろう?」
「え?ああ、はいまあそりゃそうっすよ。だっていじめっこを殺すとかマジわけわかんないっすもん。そんなことしてなにになるんだーっつのみたいな?しかも知ってます?人間界でいじめって毎日起きてるんですよ?しかもいろんなところで。そりゃあもうやってらんないっすわ。労働死しちゃいますわ」
確かに人間たちの間でいじめは毎日起きている、しかも半端じゃない数が。それはわかっているのだ。が、それを言うのなら俺だって毎日こっくりさんこっくりさんと呼ばれているのだ。
たまったものじゃない。
しかも呼び出されて行ってやったは良いが勝手に自分たちで10円玉を動かし始める輩も最近はかなり増えてきた。
本当にやめてほしいものだ。
必要でないのに呼び出されてもこっちは迷惑でしかないのだ。
「おや?どうしたんですか先輩、そんな難しい顔しちゃって」
「いや、なんでもない、おまえが気にすることではない」
「あら、そうですか、わっかりましたー!ところで先輩、ひとつ聞きたいことがあるんですけど」
「うん?なんだ?言ってみろ」
「はい、あのですね、なんでこんな大切な会議なのにファミレスで会議してんすか。しかも人間界の」
「・・・・・・」
ひきこは若いながらもしっかりと痛いところを突いてくる奴だ。
「いや、だって、ここドリンクバーあるし・・・」
「いやだからそれ完全にアウトでしょ。仮にも私たちは怪奇なんですよ?怖がられる対象なんです。それがファミレスに屯して会議だなんて・・・呆れて声も出ませんわ・・・」
「貴様、黙っておけば調子に乗りおって。大体お前だって仕事してないだろうに」
「ああ、私はいいんですよ。現代っ子の設定ですし。それに私は普段から仕事なんてしてませんし、そもそも怪奇でありたいとも思ってないっすから、でも先輩たちは自分が怪奇であることに誇りを持ってるでしょう?だったらこんなところで会議とかしてちゃ駄目だと思うなぁぁぁあああ???」
ニヤニヤと笑いながらひきこはそう言った。
なかなかに腹の立つ奴だった。
そろそろ殺してもいいだろうか。
だがひきこの言っていることのほうが正しいのも事実だった。
「うむ・・・・そうなのだが・・・うむぅ・・・」
言い返すこともできずに黙りこんでしまった。
情けない。
「まあ、私はいいと思いますよ。なんたってドリンクバーありますし」
「だよな」
雑談をしてる間に他の怪奇たちも集まってきて、会議が始まった。
「えーというわけで、最近の子供は都市伝説をさほど怖がらなくなってしまった。私がマスク付けてわたしきれい?って聞いても無視してどっか行ってしまうか、きれいと言われてこれでも?ってマスクはずして口が裂けてるの見せても即効ポマードポマード言われる始末だ・・・。実際そんなの言われても痛くもかゆくもないんだけどさぁ・・・決まりだしさぁ・・・ねえ、こっくり、どう思う?」
口裂け女が俺に振る。
口裂け女は人間には口が裂けてる女だと思われているが、実際は口が裂けていない。
あれはちょっとした妖術を使って一時的に口が裂けているように見せかけているだけだ。
ちなみにこの前、なぜそんなことするのかと聞くと
「だって本当に口が裂けてたら気持ち悪いじゃん」
だそうだ。
「どう思うといわれてもなぁ・・・実際に俺も遊び感覚で呼び出されるしなぁ・・・」
「だよなぁ・・・もう私たちってそんな怖いイメージなくなってるよねぇ・・・」
「なあ、テケテケはどう思う?」
「ふぇ?ああ、私ですか、私ですか。私に聞くんですか。そうですか、うーんとねぇ、私が思うにさ、やっぱりメディアが問題だと思うのね、最近テレビやらネットやらが盛んだし、なによりホラー系の映画とか番組とかすごく増えてるじゃん?しかも新しいお化けとか考えてそれを映画とかで流すでしょ?知ってた?貞子!すっごく怖いの!私この前貞子の映画の新しい奴見に行ったんだけどね!すっごく怖いの!私ですらちょっと漏らしちゃったんだから」
テケテケ。
上半身だけの恐ろしい怪奇。
彼女に捕まったものは殺され、同じテケテケにされてしまう。
というのが表向きの姿で、実際は下半身もしっかりとある。
口裂け女と同じように妖術を使って下半身がないように見せているだけなのだ。
「あ、ありがとうございます・・・先輩にそう言ってもらえるとうれしいです・・・」
テケテケに褒められ、照れながらお礼をいう彼女は貞子だ。
最近生まれた新しい怪奇だ。
怪奇は人間が考えたものであればいつでもどこでもどんな怪奇でさえ生まれる。
俺たちだってもともとは人間たちが考えた都市伝説から生まれたのだから。
「いんやぁ!だって本当の事じゃん!貞子ちゃんすっごく怖かったよ!!」
「そ、そんなぁ、照れます・・・」
「照れた貞子ちゃん可愛いです」
「や、やぁやめてくださいメリーさん!」
「うふふ!貞子ちゃんいい匂い~」
「ふぁ・・・」
貞子は人間だけでなく同業者にもかなり人気のようだった。
確かに容姿はかなり良い。
髪もテレビに出ている時以外はしっかりと手入れしてあり、髪型も変えてある。今日はポニーテールだ。
しかもかなりオシャレだ。
こないだ貞子と一緒に人間界を歩いていたらタレント事務所から声がかかったほどだ。
そうこうしているうちに今日の会議は終わり、皆それぞれ自分の家へ帰っていく。
ちなみに俺は人間界に住んでいて、アパート暮らしだ。
他の怪奇達も人間界に住むやつらが多い。
なんたって人間界は楽しい。
すこし歩けばコンビニもある。
100年前では考えられないことだ。
「あ、あの、先輩?」
「ん?」
家へ帰っている途中、貞子とでくわした。
「あ、やっぱり先輩でした!せんぱああい!!」
そういうと貞子は走り出し、抱きついてきた。
「うおっと・・・やめろよな、こういうことするの・・・」
「だって、先輩に会ったの久しぶりだったんですもん、今日の会議で会ってなかったらもう二度と会えないかもしれないじゃないですかぁ・・・」
「お前なぁ・・・最近会ってないって言ってもたかが30年ほどだろ?それくらい待てと・・・」
「いやですー先輩といたいんですー」
「とりあえず離れろ。なかなかに邪魔くさいぞ」
「ああ!ひどい!」
貞子は実はかなりの怪力で、ずっと抱きつかれていると痛いのだ。
この前なんてあざができた。
「だいたいお前、ファミレスでもそんなことしてこないだろうが」
「みんながいる前でできるわけないじゃないですか!しかも、その・・・あれですよ、先輩ってかっこいいですし・・・みんなの前でそんなことしたらきっと他の先輩に殺されちゃいますよ・・・」
「ああ・・・いや、ないだろ・・・」
「ありますもん、先輩モテるんですよ!?気づいてないんですか!?」
心当たりはない。
まず怪奇がモテたってうれしいことなんて一つもないのだ。
「いや、知らんな」
「うぇぇ・・・ウソでしょう・・・だって先輩、毎日メリー先輩から電話来るでしょう?」
「ああ、まあ確かにな」
しかも何回かに分けて電話してくる。
徐々に家に近づいてくる。
それを人間にやれよと言いたくなる。
「口裂け女先輩からもいっつも「わたしきれい?」って聞かれるでしょう?」
「ああ、まあそれはあるな」
うんきれいきれいと答えて流しているがな。
「テケテケ先輩だって先輩と会うときはいつも下半身あるでしょう?」
「いや、あいつは普段はあるだろ下半身・・・」
「違いますよ!先輩と会う時だけですよ妖術使ってないの!それ以外だと「怪奇としても威厳がうんぬん」とか言ってお風呂入るときと寝るとき以外は妖術つかって上半身だけで生活してるんですからね!?」
「それは知らなかったな。確かに妖術使った状態のあいつを見たことがないな」
「でしょう?だからまあ、先輩はモテるんですよ・・・うん・・・」
だからモテたところでどうにも困るだけだと・・・。
気にしないことにした。
「だから、あの、先輩」
「ん?」
「私も、ほかの先輩みたいに先輩にアプローチしたいんです!もっとアタックしたいんです!」
「いや十分してるじゃん。今とか」
「というわけでですね、私考えたんです」
思いっきりスルーされたのだが。
「私、これからちょくちょく先輩のテレビから這い出ますね!!!」
「やめて」