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第十五話 新米刑事、報告する。

 遅れてすみません。

 本当は踏み込みまで書きたかったんですが、思ったより報告が長引いたので分けます。


 騎士団本部に着いた瑠依たちは副団長、通り魔の現場に来ていたあの綺麗な女性の部屋へと通された。

 ただ彼女は今、訓練所で他の騎士たちに稽古をつけているということで部屋にはいなかった。代わりに見習いだという魔術師の少女が瑠依たちに席をすすめ、副団長を呼びに行った。

 すすめられた席に座り瑠依は室内を見回した。その様子を表すとしたら、とても掃除をしたい、か。分厚い本に、机から出た幾枚もの報告書、請求書。あちらにテーセットが転がっているとすれば、そちらには理科の実験に使うようなビーカーやごとく、乳鉢が放ってある。それはリヴィウスの研究室より酷い有様である。

「……」

「魔術師は研究好きな人間が多いし、それに団長が机仕事のしない奴だからな。必然的にこうなる。やたらに触ったら爆発する物もあるというから、あの子も掃除ができん」

 そういってアゼルはお茶を注いでいる少女に目を向けた。瑠依は彼女が取り扱う紅茶らしい茶葉の瓶と、その横にしまってある「危険」とラベルの貼られた瓶を二度見した。

「でもせめて茶葉と薬品みたいなのは違うところに保存しましょうよ。そういえば、団長さんって何やってるんですか? 挨拶をした方がいいですかね」

「……いや大丈夫だ。今あいつは部屋に閉じ込められて溜まった書類仕事させられているだろうから。それに、うん」

「お待たせいたしました」

 アゼルが言葉に詰まったとき、タイミングよく副団長が現れた。ヘレナと名乗った副団長は瑠依たちに待たせたことを謝ると、早速本題に入った。

 伝えたいのは三つ。薬物、刃物の概要と麻薬の探知方法、そして次行われる取引の情報だ。探知方法ではシバの手を借りながら実際にやって見せ説明した。

 瑠依が話し終わるとヘレナは面白そうな表情を一瞬見せてから、少し難しそうな顔をした。

「あの白い粉や葉が危険な薬物であるということは分かりました。この子()その"まやく"の匂いを嗅ぎ分けることが出来るということも。ですが見回り班の編成には少し時間が掛かると思います。今現在はシバ君しか嗅ぎ分けられることは証明できません。種族差個人差が影響するかもしれませんので。所属者を一通り確認をしてから」

「そのあと上層部の承認を得ないといけないのか」

「はい」

 騎士団の情勢に精通しているアゼルとヘレナは揃って息を吐いた。

(ここの上層部ってそんなに権限があるんだ。話を聞く限りほとんどのことに『上層部の』が付くし)

 どこの世界にも重くのしかかる権力を感じて瑠依までため息をつきそうになった。世間の鬼たちを知らないシバだけは不思議そうに三人を眺めていた。

「それと、密売取引の踏み込みも協力できかねます。丁度その日王城での夜会がありますから大半の隊員たちはそちらの警備にあたることになっています。そのせいで、残っている人員でも皆見回りにつくので精一杯なのです」

「はあ? 王城での夜会って、何かあったか?」

「海向かいの公国と通商が成立したことを祝う会だと聞いております。主な出席者はダンディール公爵やエルド伯爵などの南方領主の方々ですね」

 夜会やら公爵伯爵など馴染みのない言葉が躍り、今隣に座っている人物が王子であることを思い出した。全く王子らしくないので完全に忘れていた。

 対する王子は少し険しい顔をしていた。嫌なことでもあるのだろうか。

「まあわかった。なら踏み込みは俺とこいつと、あとリヴィウスの三人で行く。見たところ戦力的にはごろつき並みの素人そうだったから戦力的には大丈夫だろう」

「貴女も?」

 ヘレナは不安そうに瑠依を見た。ヘレナから見たら瑠依はあまり戦闘が得意そうではないらしい。

「大丈夫だ。こいつは鎧を着ている男を投げ飛ばしたし、一発の蹴りで気絶させた。それにかなりの威力を持った武器も持っている。簡単にはやられないだろう。……いざとなればリヴィウスが守る」

 そう言いアゼルは瑠依に視線を向けた。強力な武器を言うのは拳銃のことだろう。まだそれはリヴィウスが預かっている。

「そうですか。ですが歳は? 外部の人間はあまり若いと捜査協力も出来なくなりますから」

「え……今年で二十四ですが駄目ですか?」

 空気が固まった。

「え、ええ。二十四歳なら十分規定を満たしていますから大丈夫です」

「お、同じ年かよ」

 アゼルは裏返った声で瑠依に聞いた。漂う空気に瑠依は首を傾げたが、すぐ思い当たることは浮かんだ。

「日本人は、私たちの民族は童顔でよく幼く見られるんですが、それでですか?」

 日本人あるあるを思い浮かべ、瑠依は苦笑しながらアゼルたちを見た。しかしアゼルは頭を抱え込んだままぶつぶつと言っていた。

「…………初めは成人したての男だと思ったら女で、しかも同じ年だと……!?」

 もしかしたら彼の何かを壊してしまったかもしれない。

 そんなアゼルに同情の眼差しを向けてから、ヘレナは話を締めるように言った。

「捜査協力ありがとうございます。これからよろしくお願いします」 

 先ほどの驚きはすでに去ってしまったようで、元の様子に戻ったヘレナが凛と告げた。ヘレナの声に思わず背筋を伸ばした瑠依だが、緊張すると同時にその心地よさを感じた。まるで元の世界の刑事としての生活が戻ったかのようだった。


 その騎士団本部からの帰り道、瑠依たちは橋上神殿に寄った。月明かりに照らされた神殿は壮美で、これぞファンタジーといえるような物と化している。

 その美しい神殿を眺めながら瑠依はスマフォのアドレス帳を開いた。坂岡にメールと連絡を入れるためだ。

 まずはリヴィウスが預かった刃物や薬物類の写真をメールに添付し送る。その次に電話で昼間から今にかけての状況を報告するのだ。

 それに一つ伝えたいことがある。

 瑠依たちが発見した密売人たちは「納品が遅れている」と言っていた。彼らの手元にまだ麻薬がないということだ。そうなるとまだローブの人物はローブの人物が向こうの世界に潜伏している、もしくはこれから行くのだろう。ならば坂岡たちに情報を流し麻薬密売場所などの張り込みをしてもらっていた方がローブの人物を取り押さえ出来る可能性がある。

 そのように考え、瑠依はまたもや神殿の物陰に隠れスマフォを取り出した。大容量の添付メールを作り送信ボタンを送ると、瑠依が電話番号を選択する前に坂岡からの呼び出し音が鳴った。

『実物の写真が手に入ったんだな?』

 見ればいいのに、メールを確認するよりも瑠依に電話をかけることを優先する。なんだかそのことは気恥ずかしく心地よい。

 瑠依は深呼吸をしてから今まであったことを一気に話した。そう簡単に止まらない話を珍しく坂岡は黙って聞き、全ての話を聞き終わってから口を開いた。

『お前の考えは分かった。だがなぁ』

「だめですか……?」

 坂岡の濁すような言い方に瑠依は少し不安を感じ、自信なく聞き返した。

『俺たちがローブ男――須子峰(ボウズ)の目撃証言から一応、男だということは分かった――を捕まえるのはそこまで難しいことじゃない。似顔絵も出来上がったし、この前検挙した売人たちにそれを見せたら、そいつに定期的に売ってたということも証言した。売人たちが捕まったとローブ男が知らなけりゃ、麻薬(ヤク)を買いにそいつが店に来ることは考えられる。だからそこに張り込んどけばいい。だが、ここで捕まえちまうとお前たちに支障が出るだろ? そっちの売人たちに麻薬(ヤク)が届かなくなるわけだからな。現場を押さえても証拠が出なきゃいくらでも言い逃れされる。特に麻薬(ヤク)を使用したかどうかを調べることが出来ないところじゃな』

「匂いも……まだそれだけじゃ証拠にするのは難しいですね」

 いい案かと思っていたが穴があった。まだまだ刑事としての経験が乏しいためか計画はずぼらになるのだ。

『いや、まあ、一応方法はある』

 瑠依が落ち込んだことがわかったのか坂岡は慌てて付け足した。

『ローブ男にGPSをつけて泳がせる。奴が来たら俺たちが売人に化けて麻薬(ヤク)を売る。そのとき奴の持ち物なり奴自身にGPSをつけて送り出すんだ。そうすればそっちに麻薬(ヤク)を送ることもできるし、定期的に来ているようだから次ローブ男が来た時には追える。GPSが壊れたり落とされたりしない限りな」

「でも、そういうのって合法なんですか? 下手すればプライバシー侵害で訴えられたり」

『薬物関連の犯罪なら通信傍受は許されている。携帯電話やカーナビのGPSを使った捜査も最近はよくやってるだろ』

『それに、アメリカじゃ事件関係者の車にGPSつけて追跡したりするのはよくあることよ。相手はこっちの知識に乏しくて弁護士もいない。黙ってればバレなければ大丈夫よ。捕まえるのが大事なんだから』

 七緒が急に坂岡の電話を奪い発言した。普段の七緒からは想像できない、あまりにも警察官らしからぬ発言には坂岡でさえ言葉を失った。

『……七緒、お前そういうのは堂々と言うもんじゃねえだろ』

『今誰もいないんだしいいじゃない。調べたけど盗聴盗撮も問題なし! 今ならあの里見の悪口も言えるわよ!』

「そういう意味じゃないと思います……」

 いつに増して七緒のテンションは高い。テンションが高すぎて前から嫌ってる捜査主任の里見の悪口をまるでマシンガンのように言い始めた。

 そんな彼女に流されないように気をつけながら、瑠依と坂岡は事の話し合いを進めた。

 簡単に話が出来ない今は少しでも多くのことを話し合わなくてはいけない。一つのミスや予想外な事態から動けなくなることで、やすやすとチャンスを逃がす訳にはいかないのだ。

 数十分ほど話して、ようやく話はまとまった。夜は更け、一緒にいるアゼルたちや研究室にいるリヴィウスたちをあまり待たせてはいけない。

 「じゃあまた明日」と通話を終わりにしようとすると、坂岡は何か思い出したように待てと言った。

『出来上がった似顔絵を送る。消すんじゃねえぞ』

「そんな坂岡さんみたいなこと、しませんから大丈夫です」

『よく言う。前誤って捜査資料シュレッダーにかけただろ。誰が謝りに行ったと思ってんだ』

「それは……」

 そんな軽口のようなものを言っていれば、七緒の方からメールが届いた。添付ファイル開き確認すれば、坂岡が言ったような特徴の人物が描かれた画像が現れた。

『届いたな。じゃあな。気をつけろよ』

「はい、坂岡さんも」

 通話を終了する。それを見て、少し離れて遊んでいたシバと付添いのアゼルが戻ってきた。

「やっと話は終わったか」

「すみません。時間かけてしまって」

「別に構わん。それよりも帰るぞ」

 とアゼルは若干焦り気味に言った。

「リヴィウスの説教は聞きたくないんだ」

 悲壮な表情で言われれば瑠依はうなずくしかない。先行くアゼルを追いついた瑠依は、何か知らないかと彼にローブ男の似顔絵を坂岡に見せた。

「こういう人、見たことありますか?」

「これがお前たちの言うローブの人物か? んー見たことはないが、思ったより」

 若いな。そうアゼルは言った。

 瑠依も改めて似顔絵を見直した。確かに若い。似顔絵には十代前半、最低十歳前後ではないかと思われる少年が描かれていた。

 活動報告で今後の予定とか書きました。

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