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第八話 新米刑事、王都へ上る。

 遅くなり、また説明が多くなりましたすみません。


「なにかみえてきました! あれが“おうと”ですか!?」

「おう、そうだ。この調子なら夕方までには着くな」

 甲板でうたた寝をしていた瑠依は、はしゃぐシバの声で目が覚めた。

 視線を巡らせば船首の辺りにシバと、彼の質問に答えるこの船の船員がいた。

 瑠依はスマフォを充電していたソーラーパネルを服のポケットに隠し、二人に近付いた。

「あ、おねえさん。おこしてしまったですか?」

「そこまで真剣に寝ていなかったから大丈夫だよ」

「全く大変だったんだぜ。息抜きしようとしたらそのちっこいのが欄干に上がってるのが見えて。もう少し気付くのが遅かったら川に落ちてたもしれないぞ」

「そ、それはすみません。迷惑をかけてしまって……」

 シバの身の危険だけでなく、助けるために他の人、船の運航に迷惑をかけてしまうかもしれないことだ。

「いいっていいって。子供や初めて乗ったヤツはみんなそうだからな。でも次からは気を付けてくれよ」

 「んじゃ、仕事戻るわ」と言って船員は自分の持ち場へと戻っていった。

 それを見送り、瑠依はシバの方を向いた。気を付けようと決心した瑠依とは逆に注意の言葉は左から右へと流れていったらしく、すでに彼は欄干に上がろうとしていた。

「その気持ちはわからなくもないけどさ」

 瑠依は途中まで上っていたシバを抱き上げた。欄干より視界が広がったのが嬉しいらしく、さっき以上にはしゃぎ始めた。

「あそこにみえるのが“おうと”です! ゆうがたまでにはつくのです!」

 あの町を出発してから二日。今瑠依たちはこのサンクレット王国の首都に当たる王都へと船で移動していた。あの町での捜査が行き詰ってしまったこと。また協力してくれているリヴィウスたちが騎士団としての任務「魔物討伐」を完了させたため、王都へと戻らなくてはならなくなったことがその理由だ。

 彼らがいなくなってしまったら進まない捜査はさらに困難を極めるだろうし、彼らとしても異世界から来たというイレギュラーを野放しにしておきたくはない。そう利害が一致し、瑠依は騎士団の面々と王都へ向かっていた。シバも瑠依の事情を知っているということで形式上はアゼルたち二番隊が引き取るということになり、瑠依と一緒にいる。

 交通機関が船であるのは、こちらの方が圧倒的に移動が速くできるからだ。

 こちらの世界の航海術は瑠依が想像していた以上に発達していた。船体と川底に編まれた魔法陣によりほぼ自動操縦が可能となり、海では魔術具によるモーター、羅針盤、照明を使うことによって一定の速度、夜間走行もできるようになっている。

 川の場合、船を浮かべられるほどの幅、水深がある川があまりないため、使えるのは騎士団などの国家機関、木材鉱石、生鮮食品を運ぶ業者だけでたいての人は陸の街道を使って移動をするのだという。ただし緊急時の時はその制限が外され、各集落に交付された魔術具を持っている人間なら誰でも使えるようになる。

 船を動かすのは専門業の人たちだ。航海術用の魔法陣の扱いは難しく、川ではほかの船とぶつからないように随時魔法陣を変えていかなくてはいけない。そのためどの団体にも航海専用の人員を配置するように定められている。さっきの船員も騎士団所有のこの船の担当になっている人だ。

(多分、元の世界の船事情より詳しく知っているよね……)

 これはリヴィウス大先生(・・・)のおかげだ。

 事の始まりは瑠依が不用意にフェリーのような船を見て「すごいですね」と言ったせいだ。初めはこの世界の一般常識的なことを教えてくれていた。だが途中から専門的な話が始まり、荷物の詰め込みが終わり船が出発した時には食堂の一部を借りて講義が始まった。

 メンバーは教授リヴィウス、学生瑠依、シバ、たまたま食堂に来たら捕まったアゼル、真面目に話を聞いている船員とその見習い数人。専門用語を知らないため講義の途中からは抱いていたシバの毛づくろいをしていた。可哀そうなアゼルは逃げられないとわかると即決で寝ることを選択した。話が理解できる船員たちは教授にとって優等生だったらしく、彼の気分は良さそうだった。

 だがそのせいで伸びた講義時間。逃げることも叶わない無限の時間は、“あること”が起こったことにより唐突に終わりを告げた。

 その時のことを思い出しながらのどかな田園風景を見ていた瑠依は、突然の船の揺れに面喰い「のわっ」と変な声を上げた。

 体勢を整え、周りにほかの誰もいないことを確認した瑠依は、さっきの揺れの原因がある船の一角を見た。常時警備兵二人が立っている扉の奥には、廃坑道から運んできたあの遺体が安置されている。王都で詳しく調べるため輸送しているのだが、この遺体“あること”を起こすためここまで厳重な警備が行われている。

「おい! 今日の分が出て来たぞ!」

「早く倒せ!」

 この遺体、一日に一度魔物を生み出すのだ。

 リヴィウス曰く魔術具が魔物を生み出すのと同じ原理らしい。魔術具に絡まりが生じ魔物という形で解消されても、編まれている魔術が間違っているため使うたびに絡まり魔物が生まれていくというサイクルが発生するのだという。

 危険極まりないことですぐにでも遺体を火葬した方が良さそうだが、研究したいリヴィウスは止まらず。この隊の最高責任者であるアゼルを「突然魔物が現れた時に素早く行動するための訓練が出来るではないのか」と説得し保存、船に乗せてしまった。

 この「対トロイの木馬戦訓練」の効果は良さそうだ。皆が魔物の、そして対応が悪かった時のアゼル隊長の鬼畜訓練の餌食になりたくない一心で動いている。おかげで船の大きな破損やけが人が出ていない。

 隊員たちの迅速な行動は見ていて素晴らしいものだが、残念なことに鬼畜訓練は行われそうだった。昨夜船酔いで風に当たりに行った瑠依は楽しそうに訓練内容を考えているアゼルとすれ違った。ちらりと聞いただけで隊員たちが恐れるほどの訓練を理解でき、ありがたいことに船酔いはきれいさっぱりと治った。

 隊員たちの無事を祈り、前を見据えた。

 もうすぐ王都に着く。そこに手がかりはあるのだろうか。


 アゼルは上へ提出用の報告書を書き終え伸びをした。文章を書くことが得意ではないのでいつも時間と書き損じた紙代がかかる。こういうのは得意な奴(リヴィウス)がやればいいのだが、彼には船を動かす魔法陣の管理補助という仕事が任されているため頼めない。

 外の空気でも吸いに行こうとアゼルは部屋を出て甲板へ向かう。

 もう少しで甲板に出れるといったところでアゼルは謎の集団に遭遇した。

「やっべーどうしよ。ルイちゃんと話しちゃったよオレ!」

「な、ずりぃ! おれなんか合って何日もしてるのにまだ『おはようございます』しか言われてないぞ!」

「てかあの組み合わせ反則じゃね!?」

 男たちが盗み見る先を見てみれば瑠依が憂いた瞳で王都の影を見ていた。その腕にはシバを抱いている。絵になるんだかならないんだか不明な構図を見て、男たちは謎の熱気を発していた。

 謎が多い。が、予想は出来る。瑠依が人に、特に男にもたらす効果はとても高かったということだ。

 髪は短くとも元の容姿や性格はいい。成人のそれなりにガタイの良い男を投げ飛ばす、蹴り飛ばしても、むしろ「されたい!」と願う人間も数人いる。

 隊の士気と技能を上げるため、一度瑠依に対人技の講義をしてもらった方がいいのかもしれないとアゼルは考えている。

「……貴方たちは一体何をしているのです?」

 静かな冷たい声がアゼルの思考を制した。声の主は見なくてもわかる。

「昨日も言いましたが、盗み見は犯罪になりますよ。それ以前に相手に不愉快な思いをさせます」

 バチバチと弾ける音がするのはアレだろう。彼の得意な雷系の魔術でも準備しているのだろう。

「もう二度と同じことを言わせないように。わかりましたね?」

 一段と弾ける音が大きくなると共に、謎の集団組員の顔が恐怖に引きつった。

 「「わかりました!」」と大きな声で返事をし、彼らはやっと自分の仕事の持ち場へと散っていった。

「…………め、珍しいな。お前が上に出て来るなんて」

 緊張した空気をほぐすため明るくリヴィウスに話を振った。無言を耐え抜くことが出来なかったのと、いつもなら魔法陣のある部屋に食事以外籠っている彼がこんな所にいる謎を解くためだ。

「今日の分の魔物が現れたと連絡が来たからですよ。あれは自分のわがままで入れたものなので、怪我人や船の損傷が出たら私が責任を取らなくてはいけません」

 アゼルとは異なりいつもの調子のリヴィウスは淡々と答えた。

「でも、そのような問題はなさそうですね。私はこれで戻ります」

 リヴィウスは踵を返し部屋へと戻っていった。

 完全にリヴィウスの姿が見えなくなってアゼルはやっと一息ついた。

 礼儀やマナーにはうるさいが、あとで強制講義会を開くのがリヴィウスのやり方だ。ここで説教するというのはあまりにも珍しい。

 原因はアレだろう。アレしかない。

 甲板に出る気がなくなったアゼルは部屋に戻り、ベッドの上で書いた報告書に不備がないか確認した。

 王都に着けば仕事や王族としての務めがあり面倒なのだが、この時ほど王都に早く着けと思ったことはなかった。

 リヴィウスを良い人にしたいのに、だんだんとトラブルメーカー的な存在になっていきます。

 あとアゼルは戦闘では強いです。その活躍も近いうちに書ければいいなと思ってます。


 後半部分はほぼ好き勝手に書きました。

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