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SKIN HIDE  作者: ノベオ
日本
9/10

REVEAL7

アリサの祖母の家、午前6時2分


 クロトはアリサにありのままのことを話した。

 両親が死ぬ前に『スキンハイド』に追われたこと、それを用務員のおじさん――マックスが助けてくれたこと、両親を殺した相手を追っていることなど全ての出来事を説明した。


 それを黙って聞いていたアリサは、混乱した顔で言った。

「ええと………話が飛び過ぎてよく分からないんだけど………」

「気持ちは分かるよ。でも、嘘は吐いてない」

「まあ、信じられないのも無理はないがな……」

 アリサは考え込んだ顔をした。その間、二人は黙って待つ。

 しばらくすると、アリサが言った。

「でも、嘘を吐いてないのは分かるよ。……『スキンハイド』っていうのが居ることがまだ信じられないけど」

「……ありがとう、分かってくれて」

「……うん」

 どうやら分かってくれたらしい。

 しかし、そこで疑問に思ったことをマックスが言う。

「だが――どうして嘘を吐いていないと分かるんだ?」

「う~ん……、直感、かな?」

「ほう。まあ、男に比べて女は嘘に敏感だしな」

 クロトは驚く。

「そうなの?」

「ああ、女は人間の吐く嘘にどうも敏感らしい」

「へぇ~」

 クロトが感心していると、アリサが言った。

「そんなことよりも――クロト?」

「うん?」

「さっき、アメリカに行くって言ってたよね?」

「そうだよ」

「どうしてアメリカに行かなきゃならないの?」

「え? それは……」

 言われてみれば考えていなかった。

 マックスはもう日本には居られないと言っていたが、具体的な理由は聞いていなかった。だいたい、海外に行くこと自体簡単な話では無い。ましてやクロトはパスポートを持っている覚えはなかった。

 クロトが答えに行き詰っていると、マックスが代わりに答えた。

「それは、クロトの両親を殺した奴――『リベリオン』の次の目標がアメリカに居るからだ」

「え……!?」

 初耳だった。てっきりスキンハイドに追われないためにアメリカに行くのかと思っていたが――

 アリサが聞いた。

「次の目標って?」

「アメリカにあるニューヨークシティに住む男だ。名前はボブ・ローウェン。それ以外の詳しいことは分からない」

 クロトは思った。

(殺し屋の次の目標ってことは――)

「じゃあ……次はそのボブ・ローウェンって人が殺されるの?」

「恐らくな」

「大変だ! じゃあ、早く助けに行かないと……!」

「落ち着け。言っただろう、次のアメリカ行きの便は一週間後だと」

「そんな悠長な……」

「それにまだ、日本でやることが残っている」

 詳しい説明を受けていないアリサはマックスに聞く。

「やることって?」

「日本にいる情報提供者との接触だ。それと――」

 マックスはクロトを見る。

「――こいつのトレーニングがある」

「え? 俺のトレーニング?」

「そうだ。向こうで何かあったら困るだろう? その前にここである程度、奴らへの対処方法を教えておかないとまずいことになる。まあ、本格的なのはどうしても向こうに行かな――」

「あー……、そのことなんだけどマックス?俺、パスポートとか持ってないんだけど……」

「大丈夫だ、俺も持ってない」

『はあ!?』

 クロトとアリサが驚いていると、マックスが言った。

「心配するな、パスポートは使わない」

 その発言を聞いてアリサは疑問に思う。

「でも……、パスポートを使わないでどうやって外国に行くの?」

「まさか、危ない方法を使うんじゃ……」

 二人のそんな疑念を、マックスは一蹴――

「ああ、もちろん不法入国する。六日後に空港で仲間と落ち合い、そこからニューヨークまで飛ぶ」

 しなかった。

「犯罪じゃん!」

「そうよ! 絶対捕まるわ!」

「大丈夫だ。空港の作業員や警備員にも仲間がいるし、管制塔にもコネがある。航空会社にも――本当のことは言ってないが、一応話は通してある」

「そんなこと言っても、犯罪は犯罪でしょ」

 アリサのそんな意見に、マックスは答える。

「それに俺達は普通の旅客機に乗るわけじゃない。あくまで軍用の輸送機だ」

 予想の斜め上を行く発言にクロトは驚く。

「軍用?」

「そうだ。C-17と呼ばれる軍用輸送機だ。まあ、燃料の関係で一度ハワイに寄って給油しなければいけないがな」

そんなマックスの発言を聞いてアリサは別の意味で感心した。

「何から何まで想定済みってわけね……」

「そうだ。後は――」

 そう言ってマックスはクロトの目を見ながら言った。

「お前次第だ、クロト」

「…………」

「恐らく、当分は日本には戻れなくなる。――ここで怖気づいて日本に残るか、それとも親の仇を追って海外に渡るか、後は自分で決めろ」

 マックスにそう言われ、クロトは考える。

 今を――今までのことを。



 考えてみればおかしな話だ。

 ついこの前までは自分が普通の人と変わらない人生を送ると考えていた。

 高校を卒業し、就職か、進学へ。就職だったらコツコツと真面目に働き、進学だったら自分の夢を見つけるため――自分の夢を叶えるために必死に勉強をしている自分。

 そしていつか好きな人が出来て、結婚――出来るかどうか分からないが――し、子供が出来て、育てる。家族のために働き、子供が一人前になったら年金を貰い、老後を自由に暮らす。そんな人生だと思っていた。


 しかし、現実は違った。


 わけの分からない化け物に襲われ、両親は殺された。しかも一度関わった自分は、もう後戻り出来ないらしく、一生化け物に追いかけられるハメになった。そして自分の家を燃やし、今度は外国に飛ばなければならないという。

 ふざけるな。

 理不尽だ。

 普通なら、

「どうでもいい」、

「俺には関係ない」、

 と言うところかもしれない。

 たとえ化け物に追われることになっても、それならそれで残りの人生を謳歌してやると開き直ることも出来たはずだ。

 だが、自分はそうしなかった。

 理由は分かっている。

 家族だ。

 いや、家族を奪った者への憎悪か。

 クロト自身、両親の仇である『リベリオン』を目の前にしたらどうなってしまうか分からない。

 マックスやアリサの前では隠しているが、自分の中では身体の奥底の、深い闇の部分でいつでも復讐の炎が煮え滾っている。


 端から答えは決まっていた。


 だが、マックスは答えを求めている。


 なら、改めて言おう。


 やることは、一つだ。



「俺は――」

「行くわ」

「は?」

 クロトは一瞬、アリサが何を言ったのか理解出来なかった。

 マックスも同じように面食らった顔をしている。

「ちょっと待て、お前には何も聞いていないぞ」

「分かってる。でも私も一緒に行く」

「ピクニックに行くわけじゃないんだ。やめておけ」

「今更やめろって言われても、もう私は巻き込まれてるんでしょ?だったら巻き込んだ責任取ってよ。断ったら二人を警察に突き出すまでよ」

 クロトもこのままアリサを暴走させるわけにはいかないので反論した。

「警察に言っても信じちゃくれないよ」

「二人組みの男……内一人が外国人の二人組みが国外脱出をしようとしてるって言えば目には留まるんじゃない?」

「大げさ過ぎて誰も信じないね」

「なら……、一人の外国人が不法入国、不法滞在しているってのはどう?」

「俺かよ………」

「はあ…………」

(どうしていつもこうなるんだ……)

 クロトは頭を抱えたくなった。

 その時、アリサが言った。

「――私だってね……、クロトと同じ気持ちなんだよ……」

「…………」

「あの二人が殺されたって聞いた時、どれほど怒りが沸いたか……、分からないでしょ?」

 そう言われて、クロトは気付いた。

 両親を既に失っていたアリサにとって、あの二人は実の家族のように感じていた筈だ。

 もしかしたら、アリサの心の中にある憎悪は俺以上なのかもしれない。

「誰にぶつけて良いか判らないこの気持ちを……、持て余してる時にそんな話をされたら、じっとしてる方がおかしい」

「そう……だね」

 クロトもアリサのことを思うと不憫だった。自分もアリサの立場だったとしたら、指をくわえておとなしくしているのは無理だろう

 しかしマックスは、あくまで否定の姿勢を崩さない。

「駄目だ。この件には関わるな」

「……どうしてよ?」

 マックスは腕を組む。

「子供二人の子守りは出来ない」

「馬鹿にしないで!」

 アリサはまだ反論するつもりでいるが、マックスは聞く耳を持たない感じだった。

「だいたい、自分の婆さんにどう説明するつもりだ?婆さんだけじゃない。お前の親戚だって突然居なくなったら心配――」

「あたしのことは、心配せんでぇ、ええよ?」

『!?』

 三人は居間の方に振り返った。すると、いつの間にか目を覚ましたのか、アリサのお祖母さんがそこに居た。

「お祖母ちゃん起きてたの!?」

「まさか、話聞いてたんじゃ……」

「ああ、バッチシさぁ~」

「…………」

 次から次へと問題が起こって対処できない。

 クロトは嫌になりそうだった。

 しかし、そんなクロトの心の中を見透かした如く、アリサのお祖母さんは言った。

「でも……あたしの孫がぁ~もし本当にそれを望んでいるんだったら、あたしからもお願いしようか~ねぇ」

 クロトは耳を疑った。

「え?」

「お祖母ちゃん?」

 その二人を無視するかのように、祖母は続ける。

「あたしはね、アリサが自分で決めたことなら何も言わないよ、うん。この子の好きなようにさせたいからね。それにあたしのことは別に放っておいて構わないよ。どうせ老い先短い人生だ。最後にその……、『スキンヘッド』?そいつにやられてド派手に逝ったとしても、それはそれで粋だね」

「お祖母ちゃん、粋だなんて……」

「親戚の人にもこの婆が言っておこう。その人が言うように、みんな心配するだろうしね。なぁ~に、適当な理由くらいすぐ思いつくさ」

「…………」

 アリサのお祖母さんがそこまで言うと、マックスは黙り込んでしまった。

 四人の間に沈黙が流れる。

 しばらくすると、マックスが言った。

「――すげえ婆さんだ」

「お褒めに預かり光栄だね」

 その言葉に苦笑すると、マックスは言った。

「……保護者推薦なら、仕方ないな」

 アリサは驚く。

「本当!?」

「ああ、本当だ。お前も連れて行こう」

 その言葉を聞いた瞬間、アリサは思わずガッツポーズしそうになったが何とか踏みとどまった。

「だが、これで自分の将来は、大幅に限られることになるぞ?」

 クロトはマックスの言葉を聞いて思い出した。

「あ! そうだよアリサ、自分は将来医者になるって言ってたじゃん」

「それはそれで、これはこれよ。医者ならその気になればいつでもなれるわ」

 そう言ってアリサは自分の中で一つ付け足した。

(……学歴にキズがつくけどね……)

 口先だけで言うのは簡単だ。高校ではそれなりにがんばってきたつもりだが、医者になるのは並大抵のことではないはずだ。ましてや今回のことで、高校すら卒業出来なくなるかもしれないアリサが医者になるなんてことは、簡単なことではない。

 でも――

「でも……、今この時を逃したら、一生、二人を殺した奴に仕返しなんて出来ない。それに――私はクロトに全部を任せて、自分だけ夢を追い続けるなんて図々しいことは出来ない。」

 そして、アリサは言った。

「だから………行くわ、私も一緒に」

 アリサの言葉をずっと聞いていたマックスは、

「分かった。自分のするべきことをしろ」

 とだけ言って玄関を開けようとした。しかしそこでマックスは重要なことを聞き忘れていたことに気付く。

「そう言えばクロト、お前の答えは――」

「何してんの?早く行こう」

「………分かった」

 そう返したマックスは、思う。

(……まあ、最初から分かっていたけどな……)

 そう結論付けて、マックスは玄関の扉を開けた。

 









日本の東京から、ハワイのホノルルまでの距離は6210km。

ハワイのホノルルから、アメリカのニューヨークまでの距離は7990km。



『都市間距離計算』ソフト参照

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