REVEAL3
城島家への交通道路、午後10時21分
隠れ家を出たクロトは荷物をマックスの車に積み込み、車で自宅へと向かった。
「…………」
「――ねぇ、マックス?」
「なんだ?」
「警察とか政府は、『スキンハイド』について何もしないの?」
「――警察も政府も、権力のある所には必ず『スキンハイド』がいる。そいつらが身内の不祥事を内密に処分してるから、国のお偉いさん方は何も知らない」
「そうなんだ……」
「だが、『スキンハイド』も全員が凶暴というわけじゃない。あくまで一部の者だ。それ以外は人間と妥協しながら付き合っている」
「…………」
クロトは話を聞き終えると、助手席のウィンドウにもたれかかった。
これから自分の家を燃やしに行く。
まだ、なんとなく納得のいかない自分がいた。
(――なにも燃やすことはないんじゃないか?たかだか痕跡を消すために――)
「俺が知っているやつで、『スキンハイド』に殺されたやつがいた」
「え?」
突然話し始めたマックスを、クロトは怪訝な表情で見る。
「そいつは現場で――『スキンハイド』を殺した場所に置いてあった椅子に指紋を残しただけで、自宅まで追いかけられて死んだ。自宅から現場までは20km以上離れていた」
「……!」
「やつらも必死だ。自分の正体を知られたら、二度と人間社会では暮らせないからな」
「…………」
「決心はついたか?」
なんだか心の中を読まれたことがとても悔しかったが、クロトは言った。
「……ついたよ」
「よし――もう少しで到着だ、準備をしておけ」
クロトの家から、少し離れた所に車を停め、二人は家へと向かった。
「お前の誘導が良かったおかげで、早く着いたな」
「それはいいんだけど……このマスク、息がしにくい」
「我慢しろ」
二人の頭上には淡い光をもった月が浮かんでいる。
かすかな光をたよりに歩いて行くと、自分の家の外観が見えてきたのでクロトは言った。
「あそこがうちン家だけど、目立たないように裏口から入ろう」
二人は家に入ってからは、打ち合わせ通りクロトが貴重品を回収しながらガソリンを撒き、マックスが両親の遺体があった場所を入念に調査した。
「……どう?」
クロトがガソリンを撒き散らしながら聞いた。
「――難しいな、『スキンハイド』特有の粗が無い。これは、素人の犯行じゃない」
そこでクロトは葬儀場での言葉を思い出す。
「……そう言えば前に、この家の二階の窓から化け物が飛び出してきたって話してたやつがいたんだけど、そいつによると化け物は屋根から屋根へ飛び移って逃げていったんだって」
「屋根から屋根へ……?」
そう言うとマックスは一人、二階へと上がっていった。
それを見届けたクロトは残りのガソリンを撒くために和室へと移動した。
「……やはりな」
マックスは二階の窓から隣の家の屋根を見つめていた。
(ここに現れたか……)
「――とりあえず俺は全部終わったけど、そっちはなんか分かった?」
気付くとクロトが作業を終え、階段の踊り場に居た。
「ああ。だがその前に一旦、外へ出るぞ」
「俺は恐らく――お前の両親を殺した『スキンハイド』を知っている」
「え、そうなの?」
二人は、家の周囲を警戒しながら外へ出る。
「数年前、ロシアのとある場所で、『スキンハイド』による立てこもり事件が発生した。そして、それをロシアのとある組織が内密に処理するため、十数名の精鋭部隊を送り込んだ」
「で、どうだったの?」
「結果から言うと、失敗だった」
家の周囲にある、塀の裏まで歩く。
到着すると、マックスがポケットからチャッカマンを取り出した。
「送り込まれた精鋭部隊は全滅した。そして、これは後から気付いたことなんだが――部隊を全滅させたやつはたった一人の『スキンハイド』だった」
「一人?」
「ああ、そいつは『スキンハイド』に敵対する人間だけを殺す、『スキンハイド』専属の殺し屋だ」
マックスが火のついたチャッカマンを、家から漏れ出したガソリンに近づける。
すると、あっという間に火の手がまわりだした。
「そして――俺は今、そのロシアの殺し屋『スキンハイド』の情報を得るためにここ、日本にやって来た」
「…………」
「だが……、それも少し、手遅れだったな」
「――俺の両親は、殺し屋に殺されたって言うのかよ……」
「分からん、だがやつの次の標的がアメリカだとすると、もうここには――」
そこでクロトは信じられない光景を見た。
今まさに、自分達の手によって火をつけたこの家に、誰かが玄関から入っていったのだ。
「マックス! 今の――」
「分かってる、行くぞ」
二人は燃え盛る家へと入っていった。
「おい、誰かいるなら返事しろ!」
クロトがそう叫んでも、炎が物を焼く音しかしない。
「くそ、なんだって燃えてる家になんか入ってくるんだ!」
「気をつけろ、ここもすぐに崩れ落ちるぞ!」
その声にクロトはうなずき、もう一度周囲を見渡す。
すると、自分の部屋から誰かがむせる音が聞こえてきた。
「ここか!?」
そう考え、クロトはドア蹴破った。
すると驚いたことに、そこにはアリサが居た。
「アリサ!? なんでここに――」
「え? ……きゃあ!?」
「え? あ…………」
そこでクロトは、今自分が全身黒ずくめでマスクを被っていることを思い出す。
クロトは急いでマスクをはずし、アリサに詰め寄った。
「アリサ、これで分かるだろ?」
「え、クロト!? なんでそんな格好――」
「もういいから今は行くぞ!」
そう言ってクロトはアリサを燃え盛る家から連れ出した。
「ハァ……ハァ……!」
「…………」
クロトとアリサは、マックスの車の前まで来ていた。
マックスは二人が家から出てきたところを見ると、一足早く自分の車のもとへ戻っていたらしい。
「――それで、説明してもらいましょうか?」
「…………」
三人の間に、沈黙が流れる。
「……まずは、どうして自分が火のついた家にわざわざ入っていったのか、そこから説明しようぜ」
「クロトのことを探してたのよ」
「俺のこと?」
「そうよ! 学校には連絡したみたいだけど、うちにはなんの連絡も一切無し! そのくせ遠い親戚の家に行くとか言っちゃうし……」
「悪かったよ、アリサの家には後で連絡を入れるつもりで――」
「まあ、いいわ。後でそのことについて私の家でじっくりと話すつもりだから」
「…………」
そこでアリサの目線がマックスを捉える。
「……で、あなたは誰なの?」
「俺はボブおじさんだ」
平気で嘘を吐いたマックスに、クロトは唖然とする。
「嘘つけ!」
「嘘だ」
(……いや、そんな言い切られても……)
「クロト………」
不安そうな表情でアリサがクロトを見つめてくる。
「大丈夫だよ、この人は悪い人じゃない」
「そう……、それならいいんだけど――」
そこまで言って、アリサはマックスの顔を見つめる。
「――え? 用務員のおじさん?」
「そうだ」
「なんだ、そうだったんだ! 安心した……」
(……いや、こいつは得体の知れない化け物に銃をぶっぱなすようなとんでも野郎なんだけど……)
そう教えたくなるのをクロトは抑える。
「でも、なんで二人が一緒にいるのかな? こんな真夜中に?」
そこで、アリサの目が笑ってないことにクロトは気付いた。
「言っとくけど、適当な嘘を言ってごまかそうとするのが無駄だってことはクロトが一番よく知ってるよね?」
「…………」
どうやら帰してもらえそうに無かった。
カレーを皿に盛った時、その面積比はカレー:5ライス3の比率がもっとも綺麗でもっとも食欲をそそるといわれている
WEBサイト『雑学・豆知識700連発』より