REVEAL2
マックスの隠れ家、午後7時18分
「――それで、学校には連絡したのか?」
「したよ。俺が知っている限りの親戚の人、全員にも連絡した」
「なんて言ったんだ?」
「……両親が死んだので、しばらく遠い親戚の家に行きますって」
「……そうか」
クロトは学校から出た後、マックスの隠れ家に来ていた。
しかし隠れ家といってもそこは、壁に大型のファンが取り付けられており、どこから持ち込んだのか分からないテレビや椅子で散乱している地下室のような場所だった。
マックスは身近にあったリクライニングチェアーに座る。
「クロト」
「ん?」
「これからお前に色々と説明するわけだが、その前にまず、言わなければならないことがある。聞いてくれるか?」
「うん」
そう言うとクロトはマックスに促され、近くにあったパイプ椅子に座った。
「俺とお前はあくまで、ビジネスの関係として付き合いたい」
「ビジネス?」
「そうだ」
「え、どういうこと?」
「まず最初に聞くが、お前の目的は何だ?」
「質問を質問で返すのはやめてよ」
「いいから言ってみろ。お前の目的は何だ?」
「………俺の目的は、俺の両親を殺したやつを――」
「殺すことだな?」
「…………」
「まあとにかく、お前の目的はそれだ。そして俺の目的は、日本にいる情報提供者との接触だ」
「情報提供者?」
「ああ、俺はそいつと会って必要な情報を手に入れるつもりだ」
「それがマックスの目的?」
「そうだ」
そこまで一気にまくし立てると、マックスは冷蔵庫からコーラを取り出した。
「そこでビジネスの話に戻るが、俺とお前は運命共同体だ」
「運命共同体?」
「そうだ。俺はお前の目的が達成される時まで、協力してやる」
「…………」
「ただし、そのかわりお前も俺の仕事に協力するんだ」
「……分かった。でも、何すればいいの?」
「簡単なことだ」
マックスはコーラのプルを引くと、クロトに手渡した。
「俺の足手まといにならなければいい」
「……分かった。けど、その前に俺、色々聞きたいことがあるんだけど?」
「ああ」
そう言うとマックスは、背もたれに寄りかかり腕組みをした。
「何が聞きたい?」
「ありすぎて分からないんだけど……、まずは………そうだな。俺の両親を殺したやつについて聞きたい」
「お前の両親を殺したやつは、『スキンハイド』だ」
「『スキンハイド』?」
「普段は人間の皮を被って生活している連中だ。だが、一部の連中や危機的状況に陥った『スキンハイド』は皮を破り、襲ってくる」
「え? ちょ、ちょっと待って、連中ってことは、他にもいっぱいいるの?」
「ああ、世界中にな」
「マジかよ……」
「だが、この国はまだマシなほうだ」
「何で?」
「法律に縛られている」
「……確かに、そうかも」
「で、他には?」
「ええと……、じゃあ、さっき言った『スキンハイド』についてもう少し詳しく」
「分かった」
そう言うとマックスは、古いホワイトボードを持ってきた。
「いまから描くのが、『スキンハイド』が皮を破り捨てた姿だ」
マックスは丁寧に描いていく。
するとそこには――仮面ライダーをもっと醜悪にしたような姿の人型が現れた。
「――これが『スキンハイド』?」
「そうだ」
マックスは、そこで一旦ペンを置く。
「やつらにとって人間の皮は服のようなものだ。だから、これがやつらにとっての本当の姿だ」
「この鉄のような部分は?」
クロトはホワイトボードに描かれている人型の、腕と脚のような部分を指差す。
「それは例えて言うと、人間の骨の部分に値する」
「え? じゃあ、あいつら骨が鉄で出来てるの!?」
「いや、鉄に限りなく近いもので出来ている」
「マジ?」
「ああ、だから骨の部分を攻撃してもダメージは与えられない」
「弱点は? やっぱ頭?」
「いや、頭はもっとも堅い部分のひとつだ。やつらの弱点は――関節だ」
「関節?」
「そうだ」
マックスはペンで、『スキンハイド』の肘と膝の部分を囲む。
「どうして関節なの?」
「関節は骨が無い、唯一の場所だからだ」
「……若干はあると思うんだけど?」
「ああ、だが密度は小さい」
そういうとマックスは、部屋の隅に置いてあるジュラルミンケースのところまで歩いて行く。
「人間の骨はすべて合わせると約二百個だ。それらすべてが自分の体を守るために出来ている。しかし、関節の部分はどうしても骨を密集させることは出来ない。唯一、可動する部分だからだ」
「へぇー……」
気付くと、マックスはクロトの前にジュラルミンケースを置いていた。
「だが、『スキンハイド』の最大の弱点は関節ではなく、顎だ」
「あご?」
「正確には、顎の下にある骨に囲まれていない部分だ」
「そんなところどうやって攻撃するの?」
「方法は色々ある」
そこでマックスはジュラルミンケースを開ける。
するとその中には、あの路地裏で見た拳銃が入っていた。
「――銃を見るのは初めてか?」
「……うん。映画の中じゃあしょっちゅう見てたけど、本物は初めて」
「そうか」
そう言うとマックスは銃を手に取りながら説明した。
「この銃はPC356といって、アメリカが開発した自動拳銃だ。装弾数は15発、口径は専用のもので.356TSW弾を使う。重さは約1,2㎏だ。ちなみに弾薬のサイズは9㎜パラベラム弾と同じだがその威力は――」
そこでマックスは、半分分かったような分かっていないような顔をしているクロトに気が付いた。
「まあ、今説明する必要は無いか……」
「ごめん俺、前半わかったけど後半がちょっと……」
「気にするな。どうせ本格的に教えるのは向こうに行ってからだ」
「そう言えば外国って、どこに行くの?」
「アメリカにあるニューヨークだ」
「ニューヨーク……」
「初めてか?」
「海外に行くことすら初めてだよ」
「英語は話せるのか?」
「多少ね」
「なら、安心だな」
マックスは拳銃を腰にしまいながら言った。
「それからクロト」
「ん?」
「今からお前の家に行くぞ」
「え? なんで?」
「お前の両親を殺したやつの痕跡を追う」
「あ……、うん、分かった」
「あと、これを着けろ」
そう言われて手渡されたのが、手袋にサイズの合っていない靴、フード付きの大きな黒いコート、それからまるで銀行強盗が被るような、黒い覆面だった。
「何? これ?」
「なるべく痕跡を残したくない」
「ここまでやるの?」
「ああ、やつらから追跡されないようにする」
「――分かった」
「それから部屋の奥にあるガソリンタンクを持ってきてくれ」
「うん。でも、何に使うの?」
「お前の家を燃やす」
「はあ!? 何で!?」
「言っただろう、痕跡を残したくないと」
「いくら何でもやりすぎだろ!」
そんなクロトの叫びを無視し、マックスは外へと続く階段を上っていく。
「何か問題があるのか?」
「大ありだわ!」
「そうか? 俺はてっきり死んだ家族との思い出が残る家なんて、心苦しいだけだと思っていた」
「…………」
家族との思い出――
確かに、そうなのかもしれない。
両親が死ぬ前は家に帰ることが全然苦ではなかった。いや、むしろ家に帰るたびにいつも何かの期待を寄せていた。
それが、今では――
「――行くぞ」
マックスはそう言うと、外へと続く扉を開けた。
「たぬき寝入り」を英語で言うとfox sleepでキツネ寝入り
WEBサイト『雑学・豆知識700連発』より