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僕と遊園地と友人の知人3



「うわー、観覧車が見えてるよー!あれには絶対乗らなきゃね!あ、お父さん見て見てっ。ジェットコースターのレール!」


「こらっ、まきる。嬉しいのは分かるけどもう少し静かにしなさい。周りに迷惑だよ。」



 後ろからそんな会話が聞こえる。僕は揺れる車内から窓の外に見える観覧車を横目に見る。この空気もどうにかして下さいおじさん、と思いながら、膝で丸まるニアの作り物の鼻を指でなぞった。



「あっ、……えっと。……こ、こここれ食べるかいっ!?」


「むっ!?……いやそのっ………そ、そうだな、ひとつ貰おうか。」



 一口サイズのチョコを亜希が晃に渡す。一瞬、指と指が触れ合った。



「あっ。ご、ごめん。」


「い、いや、気にするなっ。今のは事故だっ。」



 晃と亜希の間には、変な空気が流れ続けている。




 僕達が西の改札口に着いたとき、晃は遅れた事の謝罪と列車の切符を僕達にくれた。当然と言えば当然だが、誰一人晃を責めたりはせず笑って目的地への列車に乗り込んだ。

 この列車は2人掛けの席を向かい合わせ、4人単位で座れるようになっている。はしゃぐまきるをなだめながら向島夫妻が席に着き、残りの僕達3人+1匹はそのすぐ後ろの席を陣取った。

 このふたりも初めは普通だったのだが、途中こんな会話があった。


『そういや、あんたが誘ってくれたんだってね。ありがとさん。』


『なっ、何故ばれたっ!?………………まあ、その何だ。今回の件は感謝している。そ、その礼だとでも思ってくれっ。』


 亜希にとってこの反応はかなり意外だったらしく、自分が言った事を自覚して顔を赤くする晃を見て驚いた後、つられて黒い肌に赤みが差していた。その後から、このなんだかむずがゆい空気が続いている。




 亜希が視線を宙に浮かせながら言った。



「あっ、も、もうすぐ着くみたいだねっ。た、たのしみだな~。」


「そ、そうかっ!よし、き、今日は目一杯たのしみゅじょっ。」


「何かもうおまえら幸せだな。」



 僕が若干辟易していると、ニアが小さく言った。



「仲良きことは良き事かな。道隆にもこれ位の可愛げが欲しいな。」



 うるさい、とデコピンする。指先に硬い感触が返ってきた。









 この遊園地『プラネットワールド』は宇宙をテーマに据えたアトラクションや商品を売りにしている。園内では宇宙船にちなんだマスコットキャラクター『ライフ君』とその愉快な仲間たちが主役のパレードやグッズなども展開しており、楽しみの一つだ。


 休日の家族連れやカップルで賑わう中、僕達は入場口から入ってすぐの通りを歩いていた。

 僕の腕の中でニアが言った。



「いやー、余裕だったな。私の演技力も捨てたものじゃないと思わないか?道隆。」


「演技なんて言っても全く動かなかっただけじゃないか。まあ、まさか猫が微動だにせず翔子さんの頭に乗ってるとはスタッフの人も気付かないだろ。別の意味で視線を集めたけど。」



 僕は仲良く雑談しながら前を歩く5人を見た。晃と亜希はようやく普段通りになりつつある。まきるは今日も元気いっぱい。普段より3割増しではしゃいでいる。

 おじさんが集団を抜け、僕達の近くに来て『宇宙空間体験館』と大きく書かれたドーム状の施設を指した。



「道隆君、とりあえず最初はあれからで良いかい?まきるが見たいらしくてね。」


「良いですよ。むしろルートは任せます。」


 ありがとう、とおじさんは笑った後、ニアに向かって話しかけた。



「流石に危ない乗り物には乗せられないけど、今から行くのは激しく無いからきっと楽しめると思うよ。」


「なに、私も危ない事はしないさ。ただ遊園地に来るのは初めてでな。少し興奮している。」


「はははっ、そうかい。今日はニアちゃんも出来る限り楽しめると良いね。」



 おー、と超高性能ぬいぐるみロボットは手を挙げた。





 この『宇宙空間体験館』は宇宙の知識や宇宙食の紹介、実物の宇宙服を見れたりと宇宙尽くしの内容だ。アトラクションと言うより博物館、という方が近いかも知れない。入り口に近いこともあり土産物屋も兼用している。

 つまり何が言いたいかと言うと、普通ここはそんなにはしゃげる場所ではないのだ。



「うっわー、凄いよこれ!見て見て道隆君っ。月の石だってー!ロマンだよー!」


「道隆っ、これが宇宙から来たのか!空に浮かぶ月の表面にこれがあったと思うと…………っ!か、体が震えてきた。」



 そんなセオリーはお構いなしに大いに騒ぐまきるとニア。宇宙のロマンが分からない残りの女性陣は土産物屋に行ってしまった。おじさんと晃は少し離れて宇宙食の心理学的見地からの変遷について熱く語っている。かくいう僕も月の石とやらにさっきから見入っている。

 石の紹介プレートを眺めながら僕は言う。



「なんて言うか凄いよな、宇宙って。たまに晃と宇宙の話とかするとかなり楽しいし。宇宙の果てって何?とか言い出したら朝まで語れる気がする。」


「あー、分かるな。よしっ、道隆。今日は帰ったらちょっと宇宙について話すぞ。私の小宇宙コスモがそうしろと叫んでいるんだ!」


「ふっ、僕の小宇宙コスモに耐えられるかな?」



 若干気分が高揚しているのを自覚しつつ僕は順路を歩き出した。

 僕の少し後ろからついてくるまきるが話しかけてきた。



「道隆君っ、そろそろアレに行こうよ!あたし、それが楽しみでここに来たかったんだっ!」


「そうだな。あんまり翔子さん達を待たせちゃ悪いし、さくっとここのメインイベントをこなすか。」



 腕の中のニアの作り物の瞳が僕を見上げた。



「今からどこに行くんだ?」


「ん?入るときに見えなかったか?看板があっただろ。」


「この頭は視界が悪いんだ。それで、一体何があるんだ?」



 僕達の会話を聞いていたまきるが僕の隣に来る。腕の中のニアに自慢するような笑みで言った。



「んふふー。ニアちゃん、ここの名前は何だか覚えてる?」


「ああ、それなら分かるぞ。『宇宙空間体験館』だろう?」


「そう『宇宙空間体験館』だよ。」



 まきるの表情は笑みから満開の笑顔に変わった。



「だから、宇宙を体験しに行くんだよ。」




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