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真夏の夜は寝苦しい



こんな適当な小説を見て頂きありがとうございます。感謝の気持ちでいっぱいですよ!





一応、前の話の続きですが三人称で、番外編に近い話です。




あ、大分前ですが1万PV達成しましたー。嬉しい限りです。



ヒット記念編を書こうと思いますが、何かこういうのが見たいー、とかそういうのがあれば気軽に言って下さいね!





なければ18禁の壁に挑戦すると思います。




では、どうぞー。







 時刻は既に深夜の2時を過ぎている。


 いつもつけっぱなしのエアコンは今夜は休みだ。代わりに開けた窓から生温い風が時折入る。




 杉村道隆は夢の中。




「……………た、俵が………すぅ。」







□□□□□□□□□□□□□






 そもそもこの部屋は、大人数が快適に過ごせる様に出来ていない。食器も数人で使えば予備まで全て使わなければいけないし、さあ眠ろうとなっても寝具の余りなどは無いのだ。


 夕飯をみんなで食べ、まだ全員が起きているとき、道隆は言った。



「問題がある。」


「問題?」



 食べ盛りの食欲を満たしたせいか、やや脚を崩しだらしない恰好で向島まきるは聞き返した。


 家から持ってきた寝間着は、通気性の良い半ズボンのジャージと昔買った適当なシャツ。そのズボンの裾から伸びる脚は、美よりも実を追いかけたが故に更に美しくなった、そんな印象がある。顔立ちも整っている。だがその大きな瞳と小柄な体、さらに小動物的な動きが重なって彼女を実年齢よりやや低く見せている。小さな胸が目下の悩みだ。


 昔買ったシャツがまだ入る辺りにまきるは悔しさを覚えているが、大きめのシャツを貸した水城葉月の胸が苦しい発言には思わず涙した。そんな人物だ。


 まきるに聞き返された道隆は、自分の座る布団を手で叩きながら言った。



「寝ようにも布団は一式しか無い。僕は床で寝れば良いけど、まきる達はどうする?1人用だから2人で寝るには狭いぞ。」


「私も床で良い。」



 猫の髪飾りで前髪を分けて留め、変わらない表情で水城葉月は言った。


 まきるから借りたシャツとジャージ。若干小さいせいでぴたりと体のラインが出ているが、本人に気にした様子は無い。この年齢の女性の平均的な体型。肩まである髪の毛は、彼女の性格にしては意外なほど綺麗で傷みが無い。美人、と形容出来る容姿だが、いつも眠そうな瞳とやや遅い動作のせいでその印象は打ち消される。


 心が読める、という難儀な能力のせいで苦労したが、最近友達が出来てちょっとハッピーな少女だ。


 あっ良いこと思い付いたっ、とまきるが手を挙げた。



「じゃあさ、みんなで雑魚寝しようよっ。こう、布団を横に敷いて。エアコン切ったら掛け布団無くても風邪ひかないと思うし。」


「それで良い。」



 葉月は肯定した。それはマズいだろ、と反論しようとした道隆は渋々引き下がる。

 まきるは葉月の手を取り、ひまわりの様な笑顔で言った。



「葉月ちゃん、せっかくだから色々お話しようねっ。」


「………うん。」



 表情は変わらないが瞳の奥に嬉しさを浮かべ、葉月は頷いた。

 仕方ないか、とため息をつき、道隆は言った。



「それじゃ僕は一番端に小さく寝るから。真ん中からこっちには来るなよ。特にまきる。おまえは寝相が悪いから絶対だ。」


「えー、そんなに悪くかなー。ちょっと朝起きたら上下が逆になるくらいだよ?」


「昔ベッドの上から眠ったままボディプレスをかまされた恐怖は忘れない。」


「いや、あの時はほら…………ごめんなさい。」



 じゃあ準備するぞ、と道隆はちゃぶ台を片付け始め、2人の女性もそれに習って寝床を作る。


 黒猫は黙っていた。


 そして夜は更けていく。







 人間達が寝静まった部屋で小さい影が立ち上がる。夜の闇より更に黒く輝く毛並み。長いしっぽには小さな赤いリボンがついている。その影は堪えきれない笑みをこぼした。



「くっくっくっ、道隆め。最近私の扱いが酷いじゃないか。まきるに襲われても助けてくれないし。ここらでやっぱり定番の悪戯攻撃をするべきだな。…………べ、別に構って欲しいとかそういうのじゃ無いんだからねっ!?」



 小芝居はこれくらいにして、とニアは動き出した。


 ニア。まごうことなき黒猫で、ただの喋れる黒猫だ。体を覆う体毛は絹よりも上質で、黒曜石の様な大きな瞳は理性を宿している。


 佇まいは涼やかに、振る舞いは面白可笑しくがモットーの自称上から85・58・82のスペシャルビューティフルキャットである。



 部屋の中央からどけた荷物のひとつ。ティッシュを取り出し、ニアは猫の手で器用に丸め出した。



「まずは定番のこよりだ。これは外せないな。」



 楽しいのか、しっぽがいつもよりふらふら動く。完成したこよりを口にくわえ、ニアは道隆の顔の付近に移動した。





 こちょこちょ







「………………ふぁ、ふぁっくしょんっ!!……あー。……ニア、何をしてるんだ?」


「えっ!?い、いや、深夜にこよりを鼻に入れると一年を健康に過ごせる、という迷信があってな。」


「迷信は迷信だ。」


「あいたっ!」



 ニアにデコピンをくらわせ、道隆は再び眠りについた。予想以上に痛かったのか、ぬあぁ、とのた打った後に動かなくなるニア。

 暫くしてひょこっ、と小さな影は立ち上がった。



「痛かった………。寝ぼけて手加減無しだったな、さっきのは。ふっ、しかしこれくらいで諦めるニアちゃんじゃ無いのだ!」



 次の策だ、とニアは懲りずに道隆の耳の近くまで忍びよった。



「僕の名前は杉村道隆。夢はでっかく10両力士だ!さあ、今日もしっかりちゃんこちゃんこ!でも、最近気になる人が出来たの……。彼女の名前は俵 俵子。ずっしり重い存在感と荒い表面がチャームポイントさ。夜な夜な修行部屋を抜け出して俵をお腹の上に乗せる毎日。そこをライバルの変態周防山に見られて…………!」



 ご、ごっちゃんです、と道隆が寝言で言った辺りで止める。まあ、道隆はこんなものか、と額の汗を拭いたニアは次なるターゲットを見つけた。


 道隆が越えるな、と言っていた真ん中を豪快に越え、その陸上で磨かれた艶やかな脚を道隆の腹部の近くまで放り出している。そう、向島まきるだ。


 ニアは日頃の恨みを晴らそうと、変な体制で寝ているまきるに近づいた。


 捲れたシャツから見える脚に比べて白い腹部。ニアは起こさないように注意しながら猫の手でくすぐった。



「………すぅ…………ふふっ…………すう……………んっ……ふぅ……。」



 起きる気配は無いが、ちょっと変な声が混じり始めたのでニアは手を止めた。



 だが面白いので変わりにしっぽで続けた。



「……んんっ……すぅ……はぅ…………はぁ…………だ…め………変なっ……んっ………!」


「はあはあ………………っ!と、マズい、これ以上はR18だな。ついついやりすぎてしまった。」



 反省反省、とくすぐりを止めるニア。寝ているまきるはまだ呼吸が荒い。


 次はどうしようか、とニアが考えていると、まきるがガバッ、と跳ね起きた。



「…………………んー………………やったらーっ………ふりゃ………。」



 まきるは道隆にボディプレスをかました。寝ぼけているらしく呂律が回っていない。道隆は深い眠りに入ったらしく、眉をひそめただけで起きない。2人の過ごした15年は伊達では無いらしい。



 ふぅ寝たか、とニアは安堵のため息をついた直後、暗闇に浮かぶ半開きの瞳を見つけ凍りついた。






 さっきのボディプレスで起きた葉月が、兄妹のように折り重なって寝る2人を羨ましそうに見た。


 水城葉月は目に見えないモノが見える。子供の頃から見えたせいですっかりひねくれた人間になった、と葉月自身は思う。

 高校に入る前に、やっと意識して見ないようにする技術を身に付けた。少し遅い、と思ったがそれでも平穏が訪れた。今日、行ったことの無いゲームセンターに無理について行ったのは、気まぐれにこの2人を『見た』からだ。


 彼女の目には2人の間の見えない絆のようなものが見えている。今まで見たどれよりも強く綺麗なそれ。初めての光景に、初めてもっと見たい、という感情が起きた。



 ひねくれた、それなのに真っ直ぐな男の子と、どこまでも眩しい光の女の子。その絆に少しでも近付きたい、と葉月は思って、とりあえず自分も寄り添って寝ることにした。





 ニアは自分に気付かなかった事に安心し、仲良く固まって寝ている道隆達を見た。







 なんだか眠くなってきた。



 黒猫は誰ともなくそう思い、自分も飼い主の頭の近くで丸くなる。悪戯が思いのほか楽しかったせいであくびは出ない。暇なのでしっぽを飼い主の頭に乗せた。





 だらしない、安心しきった寝顔で体の上に乗っている向島まきる。


 いつも半開きの目を閉じ、隙間を縫うように寄り添い、遠慮がちに自分の手を乗せる水城葉月。


 未だ眠れず、窓から吹く僅かな風を感じながらしっぽを乗せるニア。






 そして我らが主人公。







「……………た、俵が………すぅ。」







真夏の夜は寝苦しい     了





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