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僕とクラスメート4



 とにかく早めに終わらせて家に返そう。そう思って僕は女性2人を部屋に招き入れた。




「おじゃましますっ。」


「お邪魔します。」


「ただいま、ニア。」


「おかえり、道隆。ん?見ない顔だが、もしかして恋人でも出来たか?」



 僕達が居間へ入ると相変わら涼やかな佇まいの黒猫、ニアがちゃぶ台の上から振り返りながら言った。水城さんの手前、言葉で返事をせずに目で違う、と返した。鞄を置き、ニアが食べ散らかしたつまみを片付けながら僕は言った。



「とりあえず適当に座ってくれ。」


「はーいっ。」



 返事をしてちゃぶ台の近くのクッションに正座するまきる。同じくちゃぶ台に膝を崩し、俗に言う女の子座りをする水城さん。ニアは既に布団の上に移動している。

 これお茶な、と2人に冷えたお茶を出しながら僕は言った。



「水城さん、お返しって具体的にどうするんだ?僕はそんなつもりで景品とか、コインをあげた訳じゃないから、別に返して貰わなくても構わないんだけど。」



 会釈してお茶を受け取る水城さん。一口飲んでぽつりと言った。



「体で。」


「ぶふっ、けほっ……けほっ。」



 むせるまきる。飲んでいたお茶が変な所に入ったらしい。服に付いたお茶にも構わずまきるが言った。



「葉月ちゃん!そういうのは……………ダメだよっ!」



 何を言っているのか分からない、とでも言うように水城さんは首を傾げた。

 この言葉少ない少女はそのせいで誤解を受けやすい。多分今の言葉は労働で、とかそういう意味合いなんだろう。

 布団の上、ニアの横に座りながら、確認の意味を込めて僕は言った。



「それは労働で、って事だよな?でも、別にやることなんて無いぞ。」


「掃除でも、料理でも。何でもする。」



 やはりそうだったらしい。まきるが安堵のため息をついた。

 さて、早めにお引き取り願うには、素直に仕事を頼んで納得してもらうのが一番の近道だ。今ならまだ明るい。帰すには問題ないはずだ。ざっと部屋を見渡して僕は言った。



「それじゃあ掃除でもして貰おう。掃除機は台所にある。雑巾も今から持ってくる。何か欲しくなったらその都度言ってくれ。」


「分かった。」



 早速掃除を始めるのか立ち上がる水城さん。掃除なら僕達も手伝えばすぐ終わる。僕も立ち上がろうとしたら、いつの間にか目の前に来た水城さんに制された。



「座って。」


「………はい。」



 心なしか水城さんの目が据わっている気がする。いつも同じ様な表情だが、気付きだすと意外なほど彼女の心は動いているらしい。布団に座り直して僕は言った。



「分かった、気の済むまで掃除してくれ。」



 ふい、と水城さんは台所に向かって歩き出した。ニアが隣から話し掛けてきた。



「道隆、結局どういう事なんだ。やっぱり噂の押し掛け女房ってやつなのか?」


「違う。簡潔に言うと、着せたつもりの無い恩を感じられて、無理矢理恩返しされてるんだ。」


「なんというか・・・・・・うん。君は多分、彼女に好かれているんじゃないか?」


「僕が?無い無い。水城さんはちょっと不思議な人だから、借りたモノを返さずにはおけない性質なんだろう。」



 いやいや、と黒猫はかぶりを振った。



「恋とか愛とか。そういうのは何がきっかけか分からないものだからな。」



 反論しようとしたら、掃除機を抱えた水城さんが戻ってきた。ガタン、と掃除機を床に置き水城さんは言った。



「まずは片付け。」



 ああ、掃除機からかけるのか、と思って布団を片付けようと立ち上がる。すると水城さんがこっちを向いて止まった。



「水城さん?」



 どうしたんだろ、と思い声をかけると、水城さんが思わぬ速度で近づいてきた。



「そこは後。座っ・・・っ!」



 掃除機のコードに足を絡めた水城さんが、僕に向かって倒れ込んできた。反射的に僕は彼女を受け止めた。



「いたた・・・・・・。」



 幸い背中には布団があったので、どこかを打ちつけたりはしていない。ただ体の前面に柔らかいものを抱きとめている。その柔らかいものがもぞもぞ、と腕の中で動いた。



「ごめんなさい・・・・・・ありがとう。」



 丁度僕の胸の位置にある水城さんの顔。そこから見上げる彼女の唇がそう動いた。変わらない表情。ただその頬だけが僅かに紅く色づいていた。感じるのは、男には絶対に無い綿菓子のような感触と、嗅ぎ慣れないシャンプーの香り。女の子って柔らかいんだな、と頭のどこかで考えた。

 慌ててまきるが近づいてきた。



「だ、大丈夫?怪我とか無いよねっ!?」


「ああ。水城さん、大丈夫か?」



 起き上がり、水城さんは小さく頷いた。ニアがからかうような口調で話しかけてきた。



「ふふふっ、青春でラブコメだな。おめでとう、道隆。母さん今日は赤飯炊くよ、この手で。」



 ニアが僕の腰辺りをぽんぽん、と叩いてきた。うっさい、と目だけでニアに念じていると、水城さんが首を傾げて言った。



「赤飯がいい?それなら作る。」






 待て。大きく待て。赤飯なんて誰も言っていない。言ったのはニアだけだ。

 えっと、とまきるは困惑した表情のまま僕を見た。ニアも僕を見ている。僕はまさか、と思いながら水城さんに言った。



「あー、水城さん。何で赤飯なんだ?」



 水城さんはいつもと変わらない表情で言った。



「そこの彼女がそう言った。」



 その瞳になんの変化も無く、水城さんはニアを指差した。

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