僕とクラスメート3
どうも、作者です。
どうにか1日1更新を保ってましたが、明日は更新出来るか微妙です。
明日更新していなかったら『ああ、飲み過ぎたんだろうなぁ』と思って許して下さい。
では本編をどうぞー。
そうして少し他人から友達に近付いた僕達は格闘ゲームのコーナーに戻る。どうやら晃は完全敗北を喫したようだ。悠々と新しい挑戦者を待つまきるとは裏腹に、コーヒーを片手にうなだれている。
「晃、負けたのか?まあ、あいつ結構強いから、まだ始めて1ヶ月ちょっとのおまえには荷が重かったか。」
「道隆は向島さんの実力を知ってたのか。なら早く言ってくれ。圧勝しそうだったら手を抜こう、とか考えていた俺の思いやりとか優しさごと破壊されたぞ。」
「ふっ、油断したおまえが悪い。」
落ち込む晃を笑い飛ばす。じゃあ次は僕がまきるを粉砕する番かな、と思っていると、水城さんがおもむろにさっきまで晃が座っていた場所に着いた。慌てて近寄る。
「み、水城さん?これはやったことがあるのか?」
「ない。」
そう言ってまたじぃ、と僕を見る水城さん。段々と分かってきた。多分これは教えて欲しい、と訴えているのだろう。まあ、考えてみれば相手はまきるだし、初心者相手に本気は出さないと思う。面白いゲームが見つかれば良い、と言った手前、何でも体験させてみるべきなんだろう。
分かったよ、と頷くと水城さんは100円を匿体に入れた。
New Challenger!
僕はまきるに話しかける。
「まきる、水城さんが挑戦するけど、初心者だから手加減しろよ!」
「分かってるよっ。あたしのキャラの売りの投げと空中コンボは無しにするからっ!」
葉月ちゃんよろしくねー、と向こうから声が聞こえる。返事のつもりか、見えるはずが無いのに水城さんが小さく頷いた。
キャラクター選択画面が映る。
「水城さん、どのキャラクターを選ぶ?外見の好みとか、何でも良いんだが。」
そう訊くと水城さんは、さっきまで晃とまきるが使っていたキャラクターを指差した。
「それ?それはまきると同じやつ………まあ良いか。それじゃ、そこのレバーを動かしてカーソルをそいつに………そうそう。そしたら何でも良いからボタン押して。」
派手な効果音が流れ、筋骨隆々のトラのマスクを被った男が画面に現れた。ステージ選択も適当に選ばせ、画面に同じ男が2人立つ。対戦が始まった。
「これは、そっちのレバーでキャラクターの移動。ボタンで攻撃。組み合わせで技が出るんだ。とりあえず動かしてみてくれ。」
そう言うと水城さんはレバーを動かし始めた。画面左側の男がジャンプしたりしゃがんだり、挙動不審な動きを始めた。まきるは遠くに離れて無駄な大技を出している。
「ガードは向いてる方向と逆にレバーを倒す。下攻撃は斜め下でしゃがむ。でもしゃがむと中段攻撃が当たるから気をつけて。まあ、とにかく実践あるのみ。技は少しだけどここに載ってるから。練習してみると良い。」
そう言って匿体の端に載ってある簡易コマンド表を指差す。水城さんは頷き、画面の男を接近させた。
「おっ、始めて良いのっ?」
「ああ、教えながらやってくれ。」
そう言って晃の所まで離れる。ようやく立ち直ったのか、飲み干した缶コーヒーを捨てた晃が話しかけてきた。
「ふう、次は水城さんがやるのか?」
「ああ、やったことないらしいけどな。」
「誰でも初めは初心者だろう。ふむ、俺はコインゲームでもするか。……道隆、勝負するか?」
そう言って不敵な笑みを浮かべる晃。僕は人差し指を立てて言った。
「千円で30分勝負。30分後によりコインを所持している方が勝ち。先にコインが無くなれば負け。敗者は勝者にジュース一本だな。」
「決まりだ。」
水城さんに技を教えているまきる達を背中に、僕達はコインゲームコーナーへ向かった。
勝負が始まって25分、僕のコインは半分以上に減っていた。対して晃は競馬で一発当てたらしい。カップに山盛りのコインを持っている。
「道隆、諦めろ。人生諦めが肝心だ。」
「くっ、諦めたらそこで試合終了だ!」
勝ち誇った顔の晃。負けたくない。かといって逆転の目は殆ど無い。
晃と同じように競馬に全部つっこむか、と考えていると、肩を落としたまきると相変わらず半開きの目の水城さんがやってきた。
「まきる、どうしたんだ?まさか負けたのか?」
冗談混じりにそう訊くと、まきるは落ち込んだ表情で答えた。
「……恥ずかしながらその通りだよ…。」
「はははっ、手加減し過ぎたな。」
僕が言うとまきるは首を横に振った。
「ううん、最初は手加減してたんだけどね。途中から空中コンボとか教えたりしたらいきなり強くなって、最終的に本気で行っても返り討ちにされちゃった。」
「マジで?」
そう聞き返すとマジで、と返された。あの格闘ゲームは初心者が、ましてやレバーを初めて触ったような人が勝てるゲームじゃない。ましてや相手はまきるだ。強さは僕も良く知っている。
確認の意味を込めて水城さんを見ると、彼女は小さくVサインを作って言った。
「面白かった。」
「……水城さん、後で僕と対戦しよう。」
彼女はコクン、と頷いた。
「道隆、良いのか?後3分で俺の勝ちだぞ。」
重たそうなカップを見せながら晃が言った。そうだ、今は勝負の途中だった。勝ち、という言葉に反応してまきるが僕に言った。
「何か勝負してるの?」
「ああ、後3分であれより増やさないと僕の負けだ。」
そう言って晃のカップを指差す。流石に3分じゃ無理だよー、とまきるが苦笑いした。
競馬に行くか、と動こうとすると、服の裾を引っ張られた。水城さんだ。
「あれが良いと思う。」
水城さんがジャックポットの付いた落下式のコインゲーム機を指した。
コインを奥に打ち出し、手前に元々積んであるコインを落とすタイプ。ボーナスゾーンがあり、稀にそこに入ると中央画面で抽選が始まる。見事当たればジャックポットで、今まで挑戦して敗れていった人の分のコインが全て払い戻される。
現在の保留コインは2000枚。確かに当たれば余裕で一発逆転だが……。
「水城さん、流石に当たらないって。」
そう、ジャックポットが当たるのは非常に稀だ。精々1日に1人。下手したら当たらない日もある。あと数分の現状では夢を見過ぎだ。
無理だ、と水城さんを見ると、彼女はじぃ、と見返してきた。裾は掴まれたまま。まあ他にアテは無いか、と思い水城さんの指したゲーム機に向かった。
「晃、せっかくだから水城さんにも手伝って貰って良いか?」
「む、構わんよ。どうせ俺の勝ちは揺るがん。」
ありがたい。ゲーム機の椅子に座る。2人用らしく横に広い。未だ裾を掴んでいる水城さんが隣に座った。
「水城さん、この際だから後2分。全力でこれを使ってくれ。そこの穴に入れたら向こうにコインが出るから。」
「分かった。」
掴んでいた裾を離し、水城さんはコインを入れ始めた。僕もとにかくコインを飛ばす。
瞬く間に僕のカップは空になった。
「………残り2枚か。」
手元に残った2枚のコイン。晃が後ろから声をかけてきた。
「道端、時間だ。ラストそれまでは許してやる。」
僕の負けか。一枚を水城さんに渡す。同時に投入。
奇跡は起こらず、コインは他の大勢のコインに紛れて見えなくなった。
「いやーっ、遊んだねー!久しぶりだったから楽しかったよっ。」
ゲームセンターから出て大きく伸びをするまきる。晃が携帯で時間を確認しながら言った。
「ん、もうこんな時間か。俺はそろそろ帰るか。」
僕も時間を確認する。夕方5時過ぎ。家が遠方の晃は早めに帰らないといけない。
「そうか。そういえば晃、遊園地の日取りは日曜日で良かったよな?」
「ああ、俺は一向に構わん。」
「あたしんちも大丈夫だよっ。」
晃とまきるが頷く。この前のチケットの期限は今週の日曜日までだ。ぎりぎりだが問題はないだろう。
じゃあな、と駅の方向に去る晃。手を振って返す。まきるはじゃあねー、と全身を使って見送る。最近、晃がまきるに慣れる間隔が早くなってきた。この分だと緊張しなくなる日も近いかもしれない。
「さてと僕達も……………あれ、水城さんは?」
「えっ?」
周りを見渡すがいない。どうしよう、と思っていると、自転車を押す水城さんが見えた。彼女が近くまで来るのを待ってから僕は言う。
「じゃあ水城さん、そろそろ僕達は帰るけど……。」
水城さんはコクン、と頷いた後に小さな声で言った。
「家は?」
家の方向は?、と言うことだろうか。あっちだよっ、とまきるが家の方向を指差した。
「そう。」
水城さんはそう言ってまきるが指差した方へゆっくり歩き出す。恐らく家の方角が一緒なんだろう。僕とまきるは目を合わせ、水城さんに追い付くように早足で歩き始めた。
夕陽が道を朱に染める。それでも気温が下がる様子は無い。夏の気配は強まるばかりだ。
道中、殆ど僕とまきるが喋っていた。たまに僕達は水城さんに話を振るがそう、とかうん、とかいいえ、でしか返ってこない。水城さんが気にした様子が無いのが救いだ。
そうして僕の家の前まで来た。
「それじゃあ僕はここまでだ。まきる、しっかり水城さんを送ってやれよ?か弱い女の子だからな。」
「失礼なっ、あたしも女の子だよっ!もう、そんな事言ってると水城さんにあることないこと吹き込むからねっ?初恋とか。」
「すまん、悪かった。今は反省している。」
くっ!この前の温泉は失敗だった。しばらくまきるをからかうのはよそう。
しきり直して僕は言った。
「こほん。とりあえず水城さんはまた来週な。まきるは日曜日を忘れるなよ。」
「分かってるよっ。じゃあねっ!」
そう言って歩き出すまきる。僕も家に入ろうか、と背を向けようとすると、水城さんは動かずにじぃ、とこっちを見ていた。
「あれ、水城さん?」
不思議に思って声をかけると、水城さんは姿勢を変えずに言った。
「ここが家?」
「ええと、そうだけど………。」
質問の意図が分からず困惑しながら返すと、水城さんはすぐそこにある駐輪場に自転車を置き始めた。
「ちょっとちょっとっ!水城さん!?」
ワケが分からないがコレだけは分かる。絶対変な事になる。
焦りながら声をかけると、自転車を置き終えた水城さんが戻ってきた。ぱんぱん、とスカートに付いたらしい汚れを叩き、やはり変わらない表情で言った。
「貰ってばっかり。まだ何も返せてないから、これから返す。」
「葉月ちゃん!探したよっ。」
水城さんが居ない事に気付いたまきるが戻ってきた。自転車を置いたのを理解したらしく、まきるが水城さんに言った。
「葉月ちゃん?道隆くんの家に行くの?」
「うん。」
「で、でも、もう結構遅いよ?家、遠いんだよね?」
「四木谷町。」
「「四木谷町!?」」
僕とまきるは同時に声を上げた。四木谷町はこの町から駅を跨いで反対側。しかもかなり遠い。加えて山を越えた場所なので、日が落ちるとかなり危険だ。
僕は混乱したまま水城さんに言った。
「み、水城さん?それなら早く帰らないとマズいんじゃないか?」
ふるふる、と水城さんは首を横に振る。まきるが慌てながら言った。
「葉月ちゃん、あ、あれだよ?……ほ、ほら道隆くん一人暮らしだから、2人っきりだと危ないよっ?」
「大丈夫。」
「誰が危ないだっ!……水城さん、もうすぐ暗くなるし、帰り道が明るい内に帰った方が良くないか?」
「大丈夫。暗くなったら泊まる。」
「「それはダメッ!」」
とにかく帰らせないと。一人暮らしの部屋に女性を連れ込むのは気が引ける。泊めるなんてもってのほかだ。
次の言葉を紡ごうとすると、水城さんが小さな声で言った。
「迷惑だった?」
「そういう訳じゃないけど……。」
眠そうな目が僅かに揺れる。僕を見る瞳に、初めて不安の色が見えた。
実際は迷惑と言うより困惑や心配の方が強い。どうする僕、と考えているとまきるが突拍子の無いことを言い出した。
「分かった!じゃあ、水城さんが帰るまであたしも道隆君の家に居るっ!泊まる時はあたしも泊まれば問題解決、いっきょりょーとく、だよっ!」
「問題は何も解決してないし、何も得してないぞ!」
これだ、と手を挙げたまきるに言い返す。ダメだろう、常識的に考えて。水城さんの親御さんだってそんな事を許す訳がない。
そうだ、親御さんだ!
コレなら流石に帰るだろう、と思いながら僕は水城さんに言った。
「いや、水城さんの親御さんが許さないだろ?男の部屋に遅くまで居るとか、ましてや泊まるなんて。」
水城さんは言った。
「私の親は、何も言わない。」
10秒前の自分を殴りたくなった。完全に失敗だ。触れるべきでは無い所に触れてしまった。まきるも固まっている。
僕達の変化を気にした様子も無く、水城さんは言った。
「それは気にしなくて良い。私は貰った分を返せたらすぐ帰る。…………ダメ?」
「…………分かった。まきるさん、お願いします。」
「………うん。」
僕に断る、という選択肢は無かった。