僕とクラスメート2
彼女、水城葉月は非常に無口な女性だ。意図せず男女が2人づつになった僕達は自然と男同士、女同士で話しながら目的地へ向かった。その間、まきるはずっと喋っていた気がする。少なくとも水城さんの言葉でうん、とかそう、とかそれ以上長い単語は聞こえてこなかった。
ゲームセンターのある駅前。目的地まで後少し、という所でまきるが水城さんに話しかけた。
「ねえねえ、葉月ちゃん。葉月ちゃんって、こういう所に良く来るの?」
ふるふる、と水城さんは首を横に振った。ゲームセンターと彼女。あまりにも突飛な組み合わせ。僕は水城さんに話しかけた。
「ええと、水城さん?それなら面白いゲームが見つかると良いな。」
じぃ、と眠たげな瞳で僕の目を見てくる水城さん。一拍おいてコクン、と頷く。
ゲームセンター特有の電子音が聞こえて来る。僕達はその騒音の中に入って行った。
「周防君、甘いよっ!ワンダフルメキシカンコンボッ!」
「ぬうっ!?ここでそう来るかっ!」
ガチャガチャ、とレバーを鳴らし、まきると晃は格闘ゲームに熱中している。この格闘ゲームは僕もまきるも家庭用を持ち、良く対戦している。若干まきるが優勢だが白熱した試合だ。同じキャラクターを使う者同士、譲れないものがあるんだろう。
「水城さんは何かしないのか?」
ま、負けた………もう一度だ向島さん!と熱くなる晃をよそに、僕は隣で同じ様にまきる達を見ていた水城さんに声をかけた。水城さんはきょろきょろ、と周りを見た後、ゲームセンターの一角を指差した。
「あれ。」
周りの音のせいで聞き取り辛いが、水城さんはそう言った。細い指の先にはUFOキャッチャー。僕が歩き始めると水城さんはその後ろについてきた。
UFOキャッチャーゾーンに入る。水城さんはどれをするんだろう、と振り向くと、水城さんは止まって、アクセサリーの取れるUFOキャッチャーを眺めていた。近付いて話しかける。
「それをやるのか?」
「うん。」
水城さんは頷いてUFOキャッチャーのボタンを押した。
「……………。」
当然お金を入れて無いので動かない。何で?、と首を傾げて僕を見る水城さん。
「もしかして、ゲーセンに一度も来たことない?」
「うん。」
まさかな、と思いながら訊くと水城さんは肯定した。この歳になって珍しい。あまり深く訊くのもマズいか、と思ったのでやり方を教える事にする。
「ほら、丁度隣が始めるから。あんな感じにするんだ。」
台にコインを入れている隣のカップルをそれとなく指す。水城さんはじぃ、とそれを見た。カップルの男性が挑戦しているらしい。気合いを入れてアームを動かすが失敗した。視線を外した水城さんがこっちを見た。
「あんな感じで動かすんだ。こっちが上向きでこっちが横向きの動き。一度づつしか動かせないから、失敗したらアウト。」
手元のボタンを指しながら説明すると、水城さんは頭をコクコク、と縦に動かした。僕は財布を出しながら言った。
「一度、僕がやってみるから。それで大体分かると思うよ。」
水城さんが頷くのを見て僕はコインを投入した。
とりあえず狙いは取りやすそうな猫の顔の付いた髪留めタイプの髪飾り。UFOキャッチャーなんて久しぶりで取れる気はしない、ダメ元でいこう。そう思ってアームを動かす。すると偶然にも良い場所に入ったらしい。上手い具合に引っかかり、見事一発で髪飾りは落ちてきた。それを拾い水城さんに渡す。
「っとまあ、こんな感じ。かなり運の要素が強いから多分今のは偶然。やり方は分かった?」
水城さんは頷いた後、手に持った髪飾りを見て言った。
「これ、いいの?」
「ん?だって僕が持っててもしょうがないだろ?」
「でも、あなたのお金。」
「水城さんにやり方を教えるためのお金だから、気にしなくて良い。」
僕がそういうと水城さんは少し沈黙した後、変わらない眠たげな瞳でありがとう、と言った。
「まあ大体やり方はみんな同じだから。もし分からなかったら、やってる人を見て真似すれば良い。」
「分かった。」
そう言って僕を見る水城さん。全然始める気配は無い。頬を掻いて僕は言う。
「水城さん、やらないのか?」
水城さんはコクン、と頷いて言った。
「私が欲しいのはこれだったから。」
まあ欲しいものだったなら良かった、と思っていると、水城さんは唐突にまきる達のいる方向に歩き始めた。非常にゆっくりとした歩み。僕も戻るか、と思い水城さんを追いかけて歩く。さっきのカップルの男性は再度挑戦しているらしい。アームがぬいぐるみを掴んだ。水城さんが止まってそれを見ている。何となく僕も止まって見た。
ぬいぐるみが落ちる。
出てきたぬいぐるみを取り出し、女性にプレゼントする男性。嬉しいのか男性に抱き付く女性。
見せつけてくれるなぁ、と思っていると水城さんが話しかけてきた。
「杉村君、私も抱きついた方が良い?」
「そんな訳あるか。どんな思考回路だ。」
そう、と水城さんは読めない表情で言った。そして右手に持っていた髪飾りを前髪に付け、さっきよりはっきり見える眠たげな目で僕を見て言った。
「冗談。」
そう言って水城さんはまた歩き出した。一瞬何を言われたか分からず固まる。その後、早足で水城さんに追い付き言った。
「水城さん、あんたの冗談は分かりにくいぞ。」
「そう?」
「そうだ。」
「そう。」
相変わらず何を考えているか分からない。だけど水城さんの口元が、少しだけ上がった気がした。