僕とクラスメート
ここは娯楽の空間。
主張の激しい派手な電飾と、混ざり合って喧しい音楽。所狭しと置かれた機械は見知らぬ誰かのコインを待つ。
格闘する人もいればドラムを叩く人もいる。銃を撃つ人もいれば車を運転する人もいる。だが傷つく人はいない。
いわゆるゲームセンターに僕はいる。
日頃の鬱憤を晴らす人。普通じゃ出来ない願望も、ここならワンコインで叶えてくれる。
ここは日常を忘れる場所。恋人らしき2人組。ぬいぐるみを貰った女性が男性に抱きついた。
「杉村君、私も抱きついた方が良い?」
「そんな訳あるか。どんな思考回路だ。」
……―でも忘れちゃいけない事もあると思うの。
そう、と彼女は読めない表情で言った。わからない、とでも言うように、猫の髪飾りは気の抜けた顔だった。
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話は少し遡る。
今日は金曜日。テストは5日目で最終日。学校内は緊張から解放されたせいかどこか騒がしい雰囲気だ。
僕、杉村道隆はテストが全て終わった事に一息つき、帰り支度を始めた。
「道隆、せっかくテストが終わったんだ。時間も早いし、ゲーセンにでも行かないか?」
僕の友人、周防晃が隣に来て言った。茶色に近い髪と瞳は、今日も美少年と言っていい彼の容姿を彩っている。帰り支度を終えた僕は立ち上がりながら言った。
「そうだな。久しぶりに格ゲーでもするか。」
「む、今日こそはベルウッドスペシャルコンボを決めてやる。」
んな大技くらうか、と軽口を言い合いながら教室の出口に向かう。後ろから声をかけられた。
「道隆君!あたし今日まで陸上休みだから、一緒に帰ろうよっ!」
女性にしては短めの髪を元気に揺らし、向島まきるは近付いてきた。僕は言う。
「あー、悪い。今から晃と駅前のゲーセンに行くんだ。」
ゲーセン?、とまきるは大きな瞳を瞬かせた。まきるは少し考えて、僕と晃を交互に見て言った。
「えっと、邪魔じゃ無かったらだけど、あたしもついていって良いかな?」
「向島さん、俺達が断ると思うか?……否!俺の心の叫びを聞いてくれ。1番、周防晃、歌います。曲名は『青天の霹靂 feat.棚からぼた餅』」
「……らしいぞ。んじゃ早速行きますか……っておい晃、せめてボリュームを落とせ。」
やったーありがとー、と喜ぶまきる。いきなり歌い出した晃を抑えながら僕達は校舎を出た。地味に歌が上手いのが嫌だ。
校門を出て数分。歓談しながら坂を下っていると、自転車の駐輪場から出てきた1人の女生徒と鉢合わせした。まきるはその女生徒に見覚えがあるらしく声をかけた。
「あっ、葉月ちゃんだ。やっほー、今帰り?」
「うん。」
その女生徒は無表情で短く答えた。
水城葉月。僕のクラスメートだが、話した事は無い。教室で見かける時は、大体1人で本を読むか、空を見ているかのどちらかだ。標準的な年相応の体つき。美人と言える顔立ちだが、いつも眠そうに半分閉じている目のおかげで輝きがない。そのまま垂らした肩まである髪は意外なほど綺麗だが、やはり全体的に活気がない。喋った所を今初めて見た気がする。
誰とでも仲の良いまきるは、そんな水城さんとも交流があるらしい。眠たげな目はいつものままだが、まきるの話はちゃんと聞いている。
しばらく2人は話した後、少し離れていた僕達の所にまきるは戻ってきた。
「あの………ゲーセンに行くって言ったら、葉月ちゃんが自分も行きたい、って言ってきたんだけど………良いかな?」
そう戸惑いがちにまきるは聞いてきた。
青天の霹靂ってのはこういう時に使うんだぞ晃、と僕は思った。