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僕と晃の極秘指令3

 まきると一緒に教室に入る。



「じゃあ、また後でねっ。」



 そう言ってまきるは自分の席に向かった。同時にまきると仲の良い女子が群がる。質問漬けにされているらしい。零れてくる言葉の端々に『杉村君』とか『もしかして』とか『朝から熱々』とか聞こえる。まあ前ほど噂にはならないだろう。僕も席に向かう。晃はいつもぎりぎりに登校してくる。話すのはどうせ休み時間だ、と思って机に勉強道具を広げたら低めの艶のある声が聞こえた。



「道隆、やっと来たか。待ちくたびれたぞ。」



 そう言って周防晃は僕の席に近付いてくる。いつも通り髪も瞳も黒と言うより茶に近い、どこか日本人離れした容姿の晃は僕の机の前に立った。



「晃、今日は随分早いな。もっとぎりぎりに来るかと思ってたんだが。」


「何をバカなっ。」



 晃はかぶりを振った。



「何をバカな。」


「二度言うな。」



 晃の話を聞くために勉強道具は鞄へ直す。教室を出よう、と言う晃に誘われるままついていった。



「時に道隆、さっきはご苦労だった。次なる任務を頼みたい。」


「まあ、特別だ。今日だけは聞いてやる。」


「助かる。とりあえず俺の計画表を渡しておこう。」



 晃はそう言って自分の鞄からプリントを取り出し僕に渡した。



※向島さんをデートに誘う48のプロセス

~どうして彼女は天使なの?~




「なあ晃、破いて良いか?」


「まあ待てそう焦るな、内容を読んでくれ。朝早くから図書館で作ったんだ。」


「朝早くからって……だからあんなに返信が早かったのか。」


「そういう事だ。」


 うむ、と頷いて早く読めと促してくる晃。とにかくプリントに目を通してみる。



〇その1 まずは予定が空いているか聞こう!


〇その2 さりげなく場所は遊園地で良いのか確認しよう!


〇その3 次は向島さんの目の前でハンカチを落とそう!


〇その4 そうしたら心優しい向島さんは拾ってくれるはずだ!眩しい笑顔で礼を言おう!


〇その5 次は偶然にも街角で再開!向島さんの私服にドッキドキ!街でショッピングを楽しもう!


〇その6 あれれ?向島さんが不良に絡まれてしまったぞ?ここで不良を叩きのめし、向島さんに頼もしさをアピールしよう!




~~~~~~~~~~~




その48 向島さんは俺の隣で微笑んでいる。その笑顔は今は俺だけのものだ。これまでいくつもの障害や困難が俺達を襲ってきた。だが時に競い合い時に支え合ってそれらをくぐり抜けた俺達に、もう怖いものなど無い。向島さん、君は綺麗だ。今こそ、この胸の中の焼き付けるような思いを解き放とう。向島さん……―




……―遊園地に行きませんか?





「そこまでいったら告白しろよっ!」



 僕は※向島さんをデートに誘う48のプロセス ~彼女はなんで天使なの?~を地面に叩きつけた。途中からツッコミどころしか無かったがこんな言葉しか出なかった。自分のツッコミ能力を今日ほど呪った日は無い。晃は※向島さんをデートに誘う48のプロセス ~彼女はなんで天使なの?~を拾いながら言った。



「安心しろ、流石に冗談だ。あまりにも早く学校に着いて暇だったんだ。本命はこれ。」



 今度は真面目だ、と別のプリントを渡してくる晃。こいつの冗談は分かりづらい。もう協力するの止めようかな、と思ったがぐっとこらえてプリントに目を通す。




〇その1 まずは予定が空いているか聞こう!


〇その2 さりげなく場所は遊園地で良いのか確認しよう!


〇その3 向島さんを呼び出そう!


〇その4 チケットを渡しそう!これでミッションコンプリートだ!




 比較的まともだ。しかし疑問がある。晃にその疑問をぶつける。



「まあ、後は呼び出して渡すだけだけど、もしかして全部僕にさせるつもりか?それじゃ意味無いだろ。」


「いや、後は俺がする。道隆に頼みたいのは別件でな。」



 問題が発生した、と人差し指をピン、と立てて言う晃。問題?、と聞き返すとああ問題だ、と晃が話し始めた。



「実はな、まだその遊園地のペアチケットが手に入っていないんだ。」


「それはマズい……か?約束だけ取り付けて後で買えば良いじゃないか。」


「いや、情けない話だが、チケットという切り札が手元に無いと向島さんをデートに誘うなど、とてもじゃないが出来る気がしない。先に購入している、という背水の陣で望まねば俺は逃げてしまうだろう。」



 向島さんに関しては全く自信が持てん、と少し肩を落とす晃。仕方ないやつだ、と思いながら僕は言う。



「……で、僕は何をすれば良いんだ?流石にテストを抜けて遊園地までチケット買う、なんてのは出来ないぞ。」


「やってくれるか、助かる!大丈夫、チケット自体は知人に頼んで購入してある。道隆は一限のテスト終わりの休み時間に、そいつからチケットを受け取ってくれれば良い。俺はその間、向島さんにアポを取ってくる。今日は2限しかテストが無いからな。チャンスはその一度限りだ。」



 そして向島さんにアタックだ、と力強く晃は言った。








 テスト終わりの休み時間。僕は最後の悪あがきを続ける生徒を横目に廊下を歩いていた。僕もあがきたかったなぁ、と思いながら階段に差し掛かる。晃はこう言っていた。



『その知人というは1年5組の周防亜希と言う女だ。ああ、紛らわしい名前だが気にするな。別に親族とかそういう訳ではない。その女がチケットを手に入れてくれている。話は通してあるから心配するな。目印は馬鹿みたいに焼けた黒い肌と男みたいな高い身長でポニーテールだ。恐らくすぐに分かる。』



 1年5組は他のクラスと違い2階で、階段を登るとすぐ横にある。階段を登りきると5組の扉の前に一人知らない女子生徒が腕を組んで立っていた。その女子生徒はこちらに気付くと、にぱっ、と明け透けな笑みを浮かべ近寄ってきた。



「アンタが杉村道隆かい?」


「ああ、もしかしてあなたが周防さん?」


「亜希で良いよ、堅っ苦しいのは苦手だし、晃と同じ名字だからね。分かりづらい。」



 よろしく、と手を出された。とりあえずその手を取り握手する。非常に背が高い。僕は男の中でも低い方ではないが、それでも僕より僅かだが高い。そして褐色、と言っていいほど焼けている肌の色。翔子さんの様にしゃべり方が雑というよりは、さばさばしている姉御調と言うべきか。ポニーテールを揺らす彼女と手を解き、僕は切り出す。



「亜希、でいいか?えっと、チケットの受け取りに来たんだけど……。」


「ああ、それで良いよ。こっちも道隆って呼ばせてもらうからさ。話は聞いてるよ。お金は貰ってるからこれを晃に渡してくれ。」



 そう言って周防亜希はチケットを二枚取り出した。それを僕に渡しながら亜希は言った。



「いや―ホントはね、朝に図書館で渡す筈だったんだけど、すっかり忘れててね。」


「あー、だからあいつは図書館なんかで朝から暇してたのか。」


「しょうがないさっ、あたしが朝に弱いの知ってるのに頼んだあいつが悪い。そのまま遅刻寸前まで寝てたのは失敗だったけどね。」



 まいったまいった、とカラカラ笑いながら亜希は言った。もうチケットは手に入れたが、少しこの女子生徒に興味が出てきた。

 晃に異性の友達は非常に珍しい。容姿が良いので近寄ってくる女子はいるが、好きになれば晃が遠ざけ、嫌いになれば女子が自分から離れる。最終的には晃の元に女子は残らない、というのが僕の見解だった。しかし例外というのが居たのだ。休み時間は残り半分。もう少し話してみよう。



「亜希は晃の友達なのか?この高校に入学してから晃とは仲が良いけど、今まで亜希の話は聞いた事がなかったんだが。」


「ああ、友達……ってよりは腐れ縁ってやつかねぇ。あたしとあいつは小学校から同じなんだけど、ほら、名前が似てるじゃん?それでみんなから、やれ『結婚した』だの『夫婦だ』だの言われてさ。んなことない!って喧嘩したのが初めての対面だったっけ。」



 教師の様に指をくるくる、と空中で動かしながら話す亜希。



「んで、あたし達の地区って結構遠いじゃん?中学までずっとクラスも一緒で、高校に入ったらやっと別になるー、と思ってたらまさか高校まで同じで。あいつのしかめっ面が面白かったよ。」



 流石にクラスは違ったけどね、と言う亜希。晃はこの人に頭が上がらないんだな、と直感的に思った。だから今日まで言わなかったのか。納得していると亜希が時計を見て、慌てた様子で言ってきた。


「あっちゃー、次の科目あたし苦手だったんだ。ごめん道隆。もうちょっと話したかったけど、今から勉強しに戻って良いかい?中間が赤点だったから期末は点取らないとヤバくてさ。」


「ああ、そりゃマズいな。長話して悪かった。チケットは確かに受け取った。じゃあ勉強頑張れよ。」



 あいよー、と手を振りながら教室に戻る亜希。それに振り替えして僕も階段を降りる。晃はどうなっただろう。ポケットのチケットを手で確認しながら教室に戻る。まきるは友達と必死に最後の勉強をしていて、晃は机に突っ伏していた。自分の机に座り、後ろの晃に声をかける。



「晃、そっちはどうだったんだ?」



 晃は非常にゆっくりな動作で顔を上げた。その表情は、無。一切感情の見えない茶色の瞳で晃は言った。



「……テストが終わった放課後に時間を取って貰えるようになった。」


「良かったじゃないか。なのにどうしてそんなに無表情なんだ。」


「初めは嬉しかったんだがな。道隆が戻って来ないんじゃないか、とかチケットが取れなかった、とか悪い方にばかり思考が偏ってきてこんな顔になった。」


「そうか。ほい、お待ちかねのチケットだ。2枚確かに届けたぞ。」


「おお……!あの女もしっかり仕事をしてくれたか。……嬉しいが顔が戻らん。」



 うりゃあ、と無表情で気合いを入れる晃を無視して、僕は勉強道具を机に広げた。と同時にチャイムが鳴る。諦めて鞄に戻す。



 さて、決戦は放課後、か。



 皆一斉に問題を解き始めた。

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