僕と友人
川沿いの小道に植えられた樹の影。朝の静けさと夏の風。くたびれた公園のベンチ。
「おはよう、ご婦人。とてもいい朝ですな。そちらの犬は飼い犬ですか?」
「あらあら、おはよう。可愛い猫ちゃんね。あなたの猫ちゃん?」
はい、と僕、杉村道隆は、ベンチに座っている白髪のおばあさんに返事を返す。飼い犬らしきダックスフンドが足元でニアを見つめていた。
最初に話し掛けたニアの言葉は通じていないようだ。どうすれば通じるようになるのか、その法則はまだ分からない。
「うう、ちょっと怖い。道隆、ご婦人には申し訳ないが、早く家に帰ろう。」
ニアが後ずさりをしながら言う。犬にびびっているらしい。仕方ない。話もそこそこに白髪のおばあさんと別れ、家に向かった。
塀の上を歩く黒猫。黒く輝く絹のような毛並み。その耳は、ぴん、と立っている。
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昨日は結局夕飯もご馳走になり、そのまままた一泊してしまった。流石に家に戻ろうとニアを連れて向島家を出る時、翔子さんだけ起きていたので帰る旨を話して出てきた。ついでにニアが他の人と喋れるようなったか、実験がてらに遠回りして帰っている途中である。その内、借りたおじさんの服を返さないと。
「ぼーっとしてると危ないぞ。塀の上と違って歩道は危険がいっぱいだ。そこの曲がり角でパンをくわえた美少女にでも激突するかも知れないぞ?」
「そんな馬鹿な事があるか。そういうのは二次元の世界での出来事だろ?」
おまえって結構そういう所あるよな、と言いながら曲がり角を曲がろうとすると、ドンッ、と体に衝撃が走った。
「いたた……。」
誰かにぶつかって倒れる。存外に強く腰を打ったらしい。上手く立ち上がれない。そういえば相手の人は無事だろうか。顔を上げてぶつかった相手を見る。
細身の長身。しかし決して弱くは見えない芯の通った肉体。髪は茶に近い黒。地毛らしく、染めた不自然さを感じ無い。瞳の色も茶色に近く、どこか日本人離れしている。
「いたた……。いけない、遅刻してしまうっ!……ってなんだ、道隆か。つまらん。損した気分だ。」
パンをくわえた美少年(変態)と出くわした。