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僕とおば……翔子さん4



前回のあらすじ。



過去に色々辛いことがあった翔子さん。


家族のおかげで幸せだけど、諦めた夢がある。



自分に自信をつけて、家族の隣に胸を張って立つために、あたしは魔法使いになる!



魔法を使って喋っていると勘違いしたニアに頼み込む翔子さん。


勘違いは、まだ解けていない。



魔法少女翔子ちゃん、爆誕!?





では本編をどうぞ!





「……はっ!お、お母さんっ!?魔女っ!?ってかニアちゃんが喋ったっ!?」



 まきるも硬直から復活した。だが色んな事が一度に起こって混乱しているのか、翔子さんを見たりニアを見たり、こっちを見たりとせわしない。

 翔子さんが、ガバッ、と顔を上げた。



「ちょっと待ってろ!すぐに戻るっ!」



 そう言って翔子さんはリビングから出て行ってしまった。残された僕、おじさん、まきる、ニアはとりあえずテーブルに集まった。僕が先陣を切って話し出す。



「えーと、何から話したものやら……。とにかくニア。本当に通じているかどうか、何か挨拶してみてくれ。」



 ニアも状況が読み込めていないらしく、戸惑いながら喋り出す。



「あー、もしもし。聞こえているか?一応初めまして、と言っておこう。ニアという者だ。」



 聞こえているかー?、と自信なさげにこっちをちらちら見ながら言うニア。本当に驚いた顔をしておじさんが言う。



「いやはや、なんともまあ……。こういう事って本当にあるんだねぇ、小説みたいな事が。……人間とは根本的に体の造りが違うのにどうやって喋ってるんだろう?」



 それこそ魔法なのかな、と冷静に言うおじさん。立ち直りが早い。小説家だけあって、こういう事への耐性は高いらしい。まきるが、恐る恐るニアに話しかけた。



「うう……、ニア……ちゃん?」



「なんだ?」



「ひゃっ!?あの……あ、あたしの事、食べたりしない……よね?」



 呆れた様子でニアが言った。



「するか、馬鹿者が。」



「ば、馬鹿じゃ無いもんっ!ちょっと勉強が苦手なだけだもんっ!」



 安心したのか、まきるが調子を取り戻してきた。その様子を見た後、おじさんが喋り出す。



「それで、聞きたいんだけど。結局ニアちゃんはどうして喋れるんだい?妖怪とか、そういった類?それとも本当に魔法があって、それで喋れるようになったのかい?」



 猫と話すのはまだ戸惑いがあるのか、おじさんの視線は僕とニアを行ったり来たりしていた。ニアが話し出す。



「実は、私も今のこの状況があまり分かってないんだ。」



 とりあえず説明しておくか、と続けるニア。前の飼い主が死んだ事、家を出た事、僕と出会ってからの事、元々は前の飼い主と僕しか喋れなかった事等を簡単に話した。おじさんはそれを聞いて言葉を選びながら切り出す。



「それは……大変だったね。……しかし、急に私達と言葉が通じるようになった、か。」



 口に手を当て、考え込みながらおじさんは続ける。



「『特別』か…。何か……周波数のようなものがあるのかもね。それがたまたま、合うようになったのか………。」



 うーん、とおじさんが頭を捻っていると、まきるがハイハイ、と手を挙げて喋り出す。



「ニアちゃんって、もしかして他の動物と話せたりする?」



 もし話せたら……うふふ、とトリップしかけるまきるに、ニアがため息をつきながら答える。



「いや、他の動物とは話せない。同じ猫すら通じなかった。……それとまきる。あんな風に動物と戯れるのは止した方が良いぞ。絶対嫌がってるから。少なくとも私は三途の川まで観光してきたからな。」



「えーっ、そんな事無いよー。たぶんニアちゃんだけだよ?」



 そんな風に思ってるのはー、と脳天気な笑顔で言うまきる。その自信はどこから来るのか。考えがまとまったのか、おじさんが顔を上げて話し出した。



「確かに、ニアちゃんは普通の猫とは違う。とても理性的だし、どちらかと言うと猫より人間に近い気がするよ。」



 うん、とおじさんが一つ頷く。



「その、出来ればで良いんだけど、前の飼い主さんの事を教えてくれないかい?もしかしたら何か共通点があるかも知れない。」



 少し迷って、ニアは答えた。



「それは……言いたくない。」



 ニアが珍しく歯切れの悪い答えを返した。


 ニアの前の飼い主の事。死んだ事ももちろん二人にも話している。けど詳しい事は僕も知らない。あまり好奇心で聞くような事じゃ無いと思っていたし、聞かなくてもいいと今でも思っている。だけど、少しだけニアとの距離を遠く感じた。


 バタンッ、と扉が開いた。



「これならどうだっ!」



 膝下まである黒いローブ、頭に大きな赤いリボン、体に比べて長い白い脚が眩しい。長く豊かな金髪が本物とは違うが……―立派な魔法使いがそこにいた。



「……しょ、翔子さん?」



 魔女というより魔法少女、魔法というよりトリックオアトリートな翔子さんに、僕は質問した。



「……その格好はどうして?……というより、なんでそんな衣装持っているんです?」



「ばっきゃろう!」



 翔子さんが大きな瞳でこっちを睨みながら言った。



「魔法使いと言えば、この格好だろうがっ!」



 小さな拳を突き上げた翔子さんを見て、おじさんはぐはっ!、とダメージを受けた。幸せそうである。キラキラと目を輝かせてまきるが言う。



「お母さんっ、その服どうしたのっ!?すっごく似合ってて可愛いよ!」



「あぁ?この服はこんな事もあろうかと、前に自分で作ったんだ。」



 使う事になるとは思わなかったけどな、と頬を掻きながら言う翔子さん。ニアに向かって魔法少女は言う。



「これでどこからどう見ても魔法使いだ。頼むっ!あたしを魔法使いにしてくれ!どんな修行にも耐えてみせるっ!」



 僕が誤解を解こうと翔子さんに話しかけようとしたら、ニアがそれより早く喋り出した。



「ふむ、魔法使い……か。どうして、あなたは魔法使いになりたいんだ?」



 まるで本当に魔法が使えるような口振り。話しかけるタイミングを失ってしまった。翔子さんがゆっくりと話し出す。



「どうして、か。……昔からたまに思うんだよ、どうしてこんなあたしの隣に居てくれる人達が居るのか、ってな。」



 頭をガシガシ、と掻きながら続ける。



「あたしは何も渡せてない。その人達に寄りかかって生きてる。それは、幸せだと思う。」



 けど、と翔子さんはニアを見る。



「あたしはもう充分に貰った。返せるようになりたいんだ。あたしは何も取り柄がないから……。魔法が使えればあたしはこいつらに今まで貰った分を返せる。そしたら胸を張って隣に」



 立てる、と言う途中、まきるが翔子さんに抱き付いた。



「お母さん、そんな事無いよ。」



 慈しむようにまきるが言う。



「あたしはお母さんから沢山貰ったよ?うん。魔法で貰えるものよりもっと大切なものを、いっぱい。すごいだろ、これがあたしのお母さんだ、っていっつも言ってるよ。」



 おじさんは穏やかな笑みを浮かべている。だから、ね、とまきるが言う。





「お母さんは、あたしの自慢のお母さんだよ。」






 その後は翔子さんも落ち着き、普通の向島家に戻った。ニアが喋れるのは魔法ではないことを説明したら、そうか、と残念がっていた。だけどすぐに立ち直り、まあいいか、とりあえず着替えてくる、とリビングから出ようとした。それをおじさんとまきると僕で必死に止めた。翔子さん愛してる、お母さん似合ってるからっ、どうせだしそのままでほらうどん伸びますよ、と。翔子さんは戸惑ったが、そこまで言うなら……、と少し照れながらテーブルに着いた。可愛いは正義なのだ。僕達は正義の為に戦った、それだけだ。


 食べかけだったうどんは少し伸びていた。だけど美味しさは少しも失われていない。流石、魔法使いは凄いな、と僕は思った。



「へぇー、お父さんとお母さんって、昔そんな事があったんだー。」



 未だ魔法少女の翔子さんは、まきるとニアにソファで話をしている。さっきまで僕も座っていたが、今からガールズトークだよ、とまきるに追い出された。喋り慣れない話題なのか、恥ずかしがっている翔子さんの声は小さくて聞こえない。ちょっと気になる。



「道隆君、ちょっとこれを読んでくれないかい?明後日に出す原稿なんだけど、感想を聞かせて欲しい。」



 テーブルで肘を突いていると、おじさんがプリントアウトした紙の束を渡してきた。おじさんの小説はどちらかと言うと玄人向けで読む人を選ぶ。僕はおじさんに聞いた。



「あんまり小説の事は分からないんですけど、いいんですか?」



「ああ、私の小説はちょっと難しいからね。今度のは、出来るだけ分かり易く、をテーマに書いてみたんだ。もし読み辛かったら教えてくれ、次回の糧にするから。」



 一応自信作だよ、とおじさんは笑った。多分、暇そうにしている僕に気を使ったんだろう。では遠慮なく、と僕は小説を読み始めた。






 読み終えて、気付けば随分時間が経っていた。小説に没頭していたらしい。おじさんがこっちに気付いて、ノートパソコンを打つ手を止め話しかけてきた。



「どうだった?」



「凄く面白かったです。難しいのに惹きつけられるというか何というか……。うまく言えないんですが。」



「いやいや、ありがとう。そう言って貰えるのが一番嬉しいよ。お偉い評論家の小難しい評価より、そっちの方がよっぽど身に染みる。」



 ははは、と笑うおじさん。ニアがトントンッ、と身軽にテーブルに乗ってきた。



「やっと読み終わったか、こっちは随分暇だったぞ。」



 ニアの言葉にソファの方を見る。話し疲れたのか、翔子さんとまきるは眠ってしまっていた。こうして見ても、やっぱり姉妹のようだ。



「あの後はまきるが『もうこの際ニアちゃん、お母さんの使い魔になってウチに住んじゃいなよっ』とか言い出して大変だったんだぞ。翔子も翔子で『あたしの事は翔子でいい……………ちょっと呼んでみ?』とか期待した目で言ってくるし。まったく、こんな騒がしい家に四六時中居られるか。」



 まあ面白い話も聞けたがな、とニアが満更でもなさそうに言う。



「なかなか愛されてるじゃないか。」



 眠ってしまった二人にゆっくり毛布をかけていたおじさんにニアが言う。かけ終えてテーブルに戻って来て、おじさんはまあね、と言った。



「実は、翔子さんは本物の魔法使いだから、本人は知らないけど。」



 確かにあの容姿、神懸かったスタイル、鬼にも勝てそうな腕力はまさか本当に……と思っていると、おじさんが続けて話し出した。





「だって、高校の入学式のあの日。一目見た時に、私は解けない魔法にかかったんだから。」





 内緒だよ、と口に指を当てて笑いながら言うおじさん。





 黒い使い魔はトン、とテーブルから降りてご主人様の枕元に立って、ポンポン、と金色の髪を叩いた。






 小さな魔法使いの紅く染まった頬は、毛布に隠れて見えなくなった。









僕とおば……翔子さん 了

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