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隕石様への供物

掲載日:2026/10/28

「もっと本気を出せよ!」

「お前やる気あるの?」

「ったく、言わなくてもわかるだろ? 常識なんだよこんなもん!」


 なんかもう疲れてしまった。

 上司に呼び出され、説教が始まり30分ほど経った気がする。

 実際そんなに経ってないのか、実はもっと経ってるのか、なんだかもうよく分からない。

 仕事で失敗したわけじゃない。

 多分何かしら上司が気に食わなかったんだと思う。

 あー、なんて理不尽。

 クソが。

 こっちはサビ残で終電間近に帰ってるというのに、上司はお店のお姉ちゃんと遊びたいが為に定時で帰る。

 クソが。


「はぁ、こいつの頭に隕石でも落ちてくればいいのにな」


 思わずポツリと呟いた。


「あ? 何か言ったか?」

「いえ、何も言ってないです」


 危なかった。

 バレたら説教の時間が伸びるだけじゃなくて、追加で上司の業務を大量に振られそうだ。

 そんなことをされたら堪ったもんじゃない。

 あと何分でこの説教が終わるのか、上司の後方にある壁掛け時計を見ながら予想する。

 俺の予想では、あと10分かな。

 正解だったら帰りにビールを買おう。

 なんて、勝手に自分の中で賭けを開始する。

 その時だった。


「た、大変です! 今ニュース速報で、隕石が落ちてくるって!」


 誰かが言った。

 オフィス内がザワザワと騒がしくなる。


「だからどうした! お前ら仕事を続けろ!」


 上司が怒鳴りつける。


「で、ですが、隕石の落下予想地点が、東京で、避難警報が──」


 瞬間、俺は動いた。

 拳を硬く握り、上司へと一気に近寄る。

 そして、右脇腹に左フック、上司の体がくの字になったところに、左頬に右ストレートを喰らわす。

 上司は鳩が豆鉄砲喰らったような表情を浮かべながら、その場で倒れた。

 オフィス内もシンと静まり返る。


「紐持ってこーい! 早く!」


 俺は大きな声をあげた。


「隕石様に、供物を捧げる!」


 瞬間、数人の同僚が俺がやろうとしていることを察知し、上司を抑え込む。

 後輩が持ってきたビニール紐を受け取って、俺は上司の両足を縛り、両手を後ろで縛った。


「何しやがるお前ら! これを外せ!」


 上司が芋虫のようにクネクネと声を上げるが、俺達が従うはずがない。

 日頃の鬱憤を、ここで、解消する。


「よし皆、一応避難しよう! あ、すんません俺達行きますね。無事だったら様子見にきますんで」


 そう言って、俺達は上司を置いてオフィスから出ていく。


「ちょっ、待って! これを外せ! は、外してください! お願いだから!」


 そんな上司の声を背中で聞きながら、俺はオフィスのドアを閉めた。




 その後、よく分からないけれど、隕石は落下途中で爆散したらしい。

 もしかしたら、誰かが隕石を撃ち落としたのかもしれない。

 なんて、そんなマンガみたいな話はないか。

 オフィスに戻った俺達は、何がとは言わないけれど、ちびっていた上司の写真を撮り、以降穏やかに仕事をすることができるようになったのだった──

日頃の行いは大切ですね。ええ、本当に。

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