隕石様への供物
「もっと本気を出せよ!」
「お前やる気あるの?」
「ったく、言わなくてもわかるだろ? 常識なんだよこんなもん!」
なんかもう疲れてしまった。
上司に呼び出され、説教が始まり30分ほど経った気がする。
実際そんなに経ってないのか、実はもっと経ってるのか、なんだかもうよく分からない。
仕事で失敗したわけじゃない。
多分何かしら上司が気に食わなかったんだと思う。
あー、なんて理不尽。
クソが。
こっちはサビ残で終電間近に帰ってるというのに、上司はお店のお姉ちゃんと遊びたいが為に定時で帰る。
クソが。
「はぁ、こいつの頭に隕石でも落ちてくればいいのにな」
思わずポツリと呟いた。
「あ? 何か言ったか?」
「いえ、何も言ってないです」
危なかった。
バレたら説教の時間が伸びるだけじゃなくて、追加で上司の業務を大量に振られそうだ。
そんなことをされたら堪ったもんじゃない。
あと何分でこの説教が終わるのか、上司の後方にある壁掛け時計を見ながら予想する。
俺の予想では、あと10分かな。
正解だったら帰りにビールを買おう。
なんて、勝手に自分の中で賭けを開始する。
その時だった。
「た、大変です! 今ニュース速報で、隕石が落ちてくるって!」
誰かが言った。
オフィス内がザワザワと騒がしくなる。
「だからどうした! お前ら仕事を続けろ!」
上司が怒鳴りつける。
「で、ですが、隕石の落下予想地点が、東京で、避難警報が──」
瞬間、俺は動いた。
拳を硬く握り、上司へと一気に近寄る。
そして、右脇腹に左フック、上司の体がくの字になったところに、左頬に右ストレートを喰らわす。
上司は鳩が豆鉄砲喰らったような表情を浮かべながら、その場で倒れた。
オフィス内もシンと静まり返る。
「紐持ってこーい! 早く!」
俺は大きな声をあげた。
「隕石様に、供物を捧げる!」
瞬間、数人の同僚が俺がやろうとしていることを察知し、上司を抑え込む。
後輩が持ってきたビニール紐を受け取って、俺は上司の両足を縛り、両手を後ろで縛った。
「何しやがるお前ら! これを外せ!」
上司が芋虫のようにクネクネと声を上げるが、俺達が従うはずがない。
日頃の鬱憤を、ここで、解消する。
「よし皆、一応避難しよう! あ、すんません俺達行きますね。無事だったら様子見にきますんで」
そう言って、俺達は上司を置いてオフィスから出ていく。
「ちょっ、待って! これを外せ! は、外してください! お願いだから!」
そんな上司の声を背中で聞きながら、俺はオフィスのドアを閉めた。
その後、よく分からないけれど、隕石は落下途中で爆散したらしい。
もしかしたら、誰かが隕石を撃ち落としたのかもしれない。
なんて、そんなマンガみたいな話はないか。
オフィスに戻った俺達は、何がとは言わないけれど、ちびっていた上司の写真を撮り、以降穏やかに仕事をすることができるようになったのだった──
日頃の行いは大切ですね。ええ、本当に。




