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婚約破棄された公爵令嬢ですが、浮気した元婚約者と略奪女を地獄に落とし、隣国王子に溺愛されて人生逆転します

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/03/28

 ――ああ、そう。

 それが貴方の答えなのね。

 煌びやかな舞踏会の中央で、私はただ静かに立っていた。

 周囲のざわめきが耳に痛いほど響く。

「エルフィリア・アルディナ。君との婚約は破棄する」

 そう言い放ったのは、私の婚約者――王太子レオンハルト。

 そして、その腕にしなだれかかる女。

 ミレイナ・ローゼン。

 ……ええ、知っているわ。貴方が最近“忙しい”理由も、その女と逢瀬を重ねていたことも。

「彼女こそが真に愛する女性だ。君のような冷たい女ではない」

「は?」

 思わず声が漏れた。

 冷たい?

 誰が?

 私が?

 ――笑わせないで。

「冷たいのではありません。貴方が愚かなだけです」

 会場が静まり返る。

 ミレイナがわざとらしく涙ぐんだ。

「ひどい……やっぱりこの人、怖いですわ……!」

 いや、その芝居、下手すぎるでしょ。

 私は一歩踏み出す。

「では確認させてください。婚約破棄の理由は“私の性格”ですか?」

「ああ、そうだ」

「違いますよね? 本当はその女と不倫していたからでしょう?」

 ざわっ、と空気が揺れた。

 レオンハルトの顔が一瞬だけ歪む。

 図星ね。

「証拠ならありますけど? 夜会の裏口、庭園の東側、離宮の寝室。全部記録済みです」

「なっ――!?」

「全部、見てましたから」

 私は微笑む。

 静かに、冷たく。

 もう、何も失うものなんてない。

「……ですが、婚約破棄は受け入れましょう」

「な、何?」

「その代わり」

 私はドレスの裾を払って、はっきりと言い放った。

「貴方の人生、終わらせて差し上げます」

 ――その瞬間、空気が凍った。

 数日後。

 王都中に噂が広まった。

 王太子の不貞。

 そして、その相手であるミレイナの数々の男遍歴。

 証拠は完璧だった。

 手紙、記録、証人。

 全て、私が揃えたものだ。

「エルフィリア様、さすがです……」

 侍女が震えながら言う。

「まだ終わっていないわ」

 私は窓の外を見つめる。

 ――これは始まりに過ぎない。

 その時だった。

「面白い女だな」

 背後から、低く落ち着いた声が響く。

 振り返ると、そこにいたのは――

「隣国の王子、アレス・ヴァルディア様……?」

「初対面だが、君のことは知っている」

 彼は迷いなく私の前に立つ。

 そして、いきなり――

「結婚しないか?」

「は???」

 思考が止まった。

 いや、ちょっと待って。

「話が飛躍しすぎてますが?」

「いや、合理的だろう。君は有能で、しかも復讐心が強い。私の妃に最適だ」

「褒めてるんですかそれ!?」

 何この人。

 頭おかしいの?

「それに」

 彼はふっと微笑む。

「君の顔が、好みだ」

「軽い!!」

 思わずツッコミが出た。

 ……でも、その目は冗談じゃなかった。

「君は、あの程度で終わる女じゃないだろう?」

「……当然です」

「なら、共に来い。復讐も、未来も、全部手に入れろ」

 ――その言葉は、あまりにも真っ直ぐで。

 私は、少しだけ笑った。

「……いいでしょう。乗ってあげます、その話」

 それからの展開は早かった。

 アレスの後ろ盾により、私は完全に守られた立場となる。

 一方で――

 レオンハルトは王太子の座を追われた。

 ミレイナもまた、社交界から完全に追放。

 だが、それで終わりではない。

「まだ甘いですわね」

 私は呟く。

「どうするつもりだ?」

 アレスが楽しそうに聞く。

「二人とも、二度と這い上がれないようにします」

「いい顔だ」

「褒め言葉として受け取っておきます」

 私は書類を差し出した。

「これで、彼らの資産も全て凍結されます」

「徹底してるな……」

「当然です」

 私は静かに言った。

「私を裏切った代償は、高くつきます」

 そして、最後の日。

 没落した二人は、私の前に跪いていた。

「た、助けてくれ……!」

「エルフィリア様……お願い……!」

 みっともない。

 本当に。

「お断りします」

 即答だった。

「貴方たちは、私の人生を壊そうとした」

 私は冷たく見下ろす。

「だから、私は貴方たちの人生を壊した。それだけの話です」

 ミレイナが泣き崩れる。

 レオンハルトは何も言えず、ただ震えていた。

「さようなら」

 私は背を向けた。

 もう、振り返ることはない。

「終わったな」

「ええ」

 アレスが隣に立つ。

「で、結婚は?」

「しつこいですね!?」

「いや、もう決定事項だろ?」

「誰が決めたんですか!」

「私」

「横暴!!」

 ……でも。

 不思議と嫌じゃなかった。

「まあいいです」

「いいのか?」

「その代わり」

 私は彼を睨む。

「浮気したら、同じ目に遭わせますから」

「安心しろ」

 アレスは即答した。

「私は君しか見ていない」

 ――ずるい。

 そんな真顔で言われたら。

「……バカ」

「知ってる」

「開き直るな!!」

 思わず笑ってしまった。

 ああ、本当に。

 人生って、何が起こるかわからない。

 でも――

「悪くないですね」

「だろう?」

 私は、彼の手を取った。

 復讐は終わった。

 そして、ここからは――

 私が幸せになるための人生の始まりだ。




◆ ◆ ◆ ◆



「エルフィリア」

「はい?」

「子供が欲しい」

「唐突すぎる!!朝の挨拶より先に言うことそれですか!?」

 ある日の朝食。

 パンをちぎりながら、アレスは真顔でとんでもないことを言い出した。

「いや、計画性は大事だろう」

「その前に段階ってものがあるでしょうが!」

「例えば?」

「例えばって……えーと……こう……普通の夫婦っぽい会話とか!?」

「してるじゃないか」

「してません!!」

 この男、本気でズレている。

 いや、知ってたけど。

「じゃあ今のはなかったことにする」

「そうしてください」

「改めて」

「やめなさい」

「子供が欲しい」

「リピートすな!!!」

 机を叩く音が屋敷に響いた。

 数分後。

「エルフィリア」

「まだ何か?」

「手を繋いでもいいか?」

「……普通に聞いてくると逆に調子狂うんですけど」

「嫌か?」

「嫌じゃないですけど! なんでそんな真顔なんですか!」

「真剣だからな」

「温度差!!」

 私はため息をつきながらも手を差し出す。

 すると――

「……柔らかいな」

「感想がジジイ!!」

「いや、純粋な感想だ」

「もっとこう!ロマンチックに言えないんですか!?」

「じゃあ」

 アレスは少し考えてから言った。

「君の手は、戦場で握る剣よりも心地いい」

「例えが物騒すぎる!!!」

 その日の午後。

「エルフィリア」

「今度は何ですか」

「料理をしてみたい」

「え?」

 嫌な予感しかしない。

「任せろ。妻のために腕を振るう夫、完璧だろう」

「その発想はいいんですけど不安しかない!!」

「大丈夫だ」

「何を根拠に!?」

「料理本を読んだ」

「それフラグ!!!」

 一時間後。

「……これは何ですか?」

「スープだ」

「色がおかしい!!!紫って何!?」

「栄養価は高そうだろう」

「毒っぽさも高いです!!」

「試食してくれ」

「イヤです!!」

「愛があればいける」

「愛で毒は無効化できません!!」

 アレスは真剣な顔でスプーンを差し出してくる。

「ほら」

「圧が強い!!」

 私は恐る恐る一口。

「…………」

「どうだ?」

「……まずいです」

「正直だな」

「優しさを出す余裕がないレベルです!!」

 夜。

「エルフィリア」

「まだあるんですか……」

「今日も一日、君が好きだった」

「日報みたいに言うな!!!」

「明日も好きだ」

「それはまあ……知ってますけど……」

 なんだろう。

 この人、本当に。

 バカみたいに真っ直ぐで。

「……私もですよ」

「知ってる」

「そこは照れなさいよ!!」

「なぜだ?」

「普通は照れるんです!!」

「なら」

 アレスは少しだけ考えて――

「……照れた」

「遅いわ!!!しかも棒読み!!!」

 思わず笑ってしまう。

 もう、本当に。

「エルフィリア」

「はいはい、今度は何ですか」

「幸せだな」

「……そうですね」

「だから」

「だから?」

「子供が欲しい」

「話戻すなああああああ!!!」

 屋敷に再びツッコミが響き渡る。

 ――そんな毎日が、続いていくのだった。

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