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ゆうしゃのしんぱい

「グスッ……」

「ヒヨコさん、もう大丈夫ですよ。ハルさんの怪我は治りましたから」


 教会の、病人が休むためのベッドに寝かされているハルは、グズるヒヨコをじっと見つめていた。


 明らかに強いモンスターだったはずだ。少なくとも俺が単独では敵わないくらいに。


 ハルはあの時の出来事が夢ではなかったかと疑うが、しかし同じ光景をシスターも神父も見たはずだ。

 ヒヨコが、雷のような光を纏って蛇のモンスターの頭を一突きにした。あの泣き虫からは想像が出来ないくらいの、強者の振る舞いだった。


「お前……」

「ン……」

「一体、何者なんだ……?」


 その問いにヒヨコは戸惑ったのか、視線をキョロキョロさせて、それから思い出したかのように武器を下ろした。ごとん、剣から重そうな音が立つ。


 それから何故か、服をはだけさせた。


「……おいおい、何脱ぎ始めてんだよ……」

「ヒヨコさん? どうしていきなり服を」


 突然のことにハルは困惑し、シスターも慌ててヒヨコを止めようとするが、ヒヨコはそれでも脱ごうとする。それから、ん、と2人に何かを見せた。


「……この痣は……?」


 どこかで見たことのある痣の形に、ハルとシスターは顔を見合わせた。すると、ヒヨコの背後からやって来た神父が目を見開き、ヒヨコのそばに駆け寄った。


「これは、勇者のしるしではありませんか」

「ええっ!?」

「勇者……? ヒヨコが?」


 こんな弱そうなヤツが勇者なはずないと、ハルは信じられなかった。しかしあの時見たモンスターを倒すハルの強さなら、たしかに、あり得ない話でもないのかもしれない、とも思ってしまう。


「あなたは、勇者様なのですね」


 神父の問いに、ヒヨコは迷いなく頷いた。


「……勇者は、村ごと滅ぼされ、人間は蹂躙されゆくのだと思っていました」

「……」

「よかった……まだ、希望はあったのですね。あの人の言うことは、間違いではなかった」


 神父は目尻を指先で拭って、それからヒヨコの手を力強く握った。ヒヨコはびくっと肩を震わせる。


「まずは、町を救ってくださりありがとうございました。ハルさんも」

「いや俺は……」

「お二人が出会われたのは、きっと運命に違いありません」

「はあ?」


 思わず不満の声をもらしたハルだったが、そばにいたシスターが笑顔に変わり、きっとそうですよと肯定したために、言葉を失ってしまう。


「あなた方はきっと、魔王を倒し、世界に平和をもたらすでしょう」

「ま、待ってくれ」

「お二人に神のご加護があらんことを……」


 何故か勝手に、ヒヨコと一緒に旅立つことにされたハルは、ふざけるなと思いながらヒヨコの顔を見る。

 ぱちっと、ヒヨコの丸い瞳と目があった。ヒヨコは相変わらずぽやっとしていてよく話を聞いていなそうだったが、ハルと目が合うと嬉しそうに笑った。


 その笑顔を見たハルは、どうしてか否定も出来なくなり、視線を下げてしまった。2人のことなどそっちのけで盛り上がる神父とシスターの賑やかな声を聞きながら、ハルは拳を強く握りしめたのだった。



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