ゆうしゃのけつい
神父は、シスターと同じく物腰柔らかで優しい人だった。
10年ほど前に高齢の神父と変わるようにやって来たらしく、ようやく町に慣れてきたと話す彼は、おどおどしているヒヨコにも丁寧に接してくれた。
シスターも熱心にその様子を見ているので、ハルも抜けるに抜けられず、教会内に留まってヒヨコの話を聞いていた。とはいっても退屈で、うっかりうとうとしそうになるが、シスターの目の前だと思い、どうにか欠伸を噛み殺した。
「それで、ヒヨコさんの旅の目的は何なのでしょうか?」
神父が問うと、ヒヨコはうーんと考えるように視線を斜め上に動かして、それからしっかりと声を出して答えた。
「マオウ、タオス!」
「……え?」
驚きの声を出したのはハルだけだったが、シスターも驚いた顔をしていた。見た目より随分と幼く見える彼女の口から、まさか魔王という単語が出るとは思わなかったのだ。
神父は相変わらず落ち着いた調子で、再びヒヨコに問う。
「非常に苦しい旅になるかと思われます。時には、命を落としかねない」
「ヤ、ヤダー……」
「その覚悟があなたにはありますか?」
神父の声は静かながらも、どこか圧があった。近くで聞いているハルの顔が強張るくらいに。シスターは、黙ったまま、少しだけ心配を滲ませてヒヨコの顔を見ていた。
「……ン」
「あるんですね」
「アル!」
「痛い思いも、怖い思いも、乗り越えられますか?」
神父から目を離さずに、少女は頷いた。
「ヒヨコ、ガンバル……」
どこか自信なさげだが、首を横に振るつもりはないらしい。そんなヒヨコに神父はにっこり笑って、よいでしょうと頷いた。
その様子を見ていたハルは、いやいやと神父を止めにかかる。
「神父様、待ってください。ヒヨコはすぐに泣きますし、声も小さいし、本当に小さな子どもみたいなやつなんですよ。そのヒヨコがこの先一人で旅に出たら、魔王にたどり着く前に死にますよ」
「では仲間を作ったら良いのではないでしょうか」
神父の目が今度はハルに向いた。ハルはビクッと肩を震わせて咄嗟に神父から目をそらす。冷や汗が滲むのを感じながら、ハルはヒヨコの方を見た。
「ヒヨコさん、あなたの魔王を倒すという勇気は立派です。ですがそれは、一人で成し遂げるには厳しい。仲間を作られてはいかがでしょうか」
「ン」
「よかったです。もう外も暗いですし、今夜は宿を取られては?」
神父に言われて、ヒヨコはこくりと頷いてから、何故かハルの方を見た。
「え? 何?」
「……」
謎の無言の時間が流れ、ヒヨコとハルは見つめあう。その様子をくすくすと笑ったシスターが、助け舟を出した。
「ハルさん、ヒヨコさんはこの町をよく知らないでしょうから、宿まで案内して差し上げたらどうでしょうか」
「へっ!? お、俺がですか?」
「ヒヨコさんはハルさんを信用しているようですから」
麗しのシスターに言われてしまっては、断ることも出来ない。ハルは引きつった笑いをしながら、ヒヨコに来いと促し、教会を後にしたのだった。




