ゆうしゃのむら
町は、活気に満ちていた。
町の入り口には兵士がおり、にこやかにヒヨコたちを迎えた。魔物が入ってこないよう見張っているらしい。ヒヨコはハルに掴まれていたはずの腕を、いつの間にか自分からハルと手を繋ぐようにして、ハルの後ろに隠れながら兵士を窺った。
ハルはそんな様子のヒヨコに気が付いていたが、一旦は知らないふりをして好きにさせていた。しかし兵士は気になったようで、ハルの背中からこちらを窺うヒヨコを見て首を傾げた。
「彼女、どうかしたんですか?」
「さあ、モンスターに襲われて頭がいかれちまったんだろ。俺は拾っただけだ」
「なんと……この町でゆっくりしていってください」
同情するような顔をした兵士だったが、ヒヨコはぴゅっとハルの後ろに隠れた。ハルは面倒くさそうにしながら、教会まで歩く。がっちりとハルの手を掴んだまま離さないヒヨコを、ハルはちらっと見てから言った。
「なあ、ガキじゃねえんだから1人で歩いてくれないか」
「……」
ヒヨコはポカーンとして固まった後で、そっとハルの手を離した。ハルは特に何も言わず、そのまま教会へと向かう。
「どこから来たんだよ。あの森は危険だ、普通は通らないはずだろ」
「エット……」
「何?」
教会の扉の前で、ハルは思わず立ち止まった。
ヒヨコが口にした村の名前を、ハルも聞いたことがあったからだ。
「……馬鹿言うなよ。その村は何年も前に滅んだって聞いたぞ。有名な話だ」
「……」
ハルがそう言うと、ヒヨコは大きく目を見開き、それから唇をぎゅっと噛んでハルを見た。滅んだ、それは老人からも聞かされていたこと。だというのに、何度聞いても信じられないことだ。ヒヨコは村が滅んだことをまだ実感できていなかった。
「……何だよ。お前、さっきから変なやつ……」
「ああ、ハルさん。いらしていたんですね」
ギイ、と教会の扉が開き、シスターが出てくる。誰もが見蕩れるような美しいシスターにハルの表情が和らぎ、にこやかに挨拶をする。
「あら、そちらの方は?」
「実は、町の外で倒れていたので、どこか怪我でもしたんじゃないかと、連れてきたんです」
「まあ、大変。こちらにいらしてください。神父様に診ていただきましょう。ハルさん、ありがとうございます」
「いえいえ」
先ほどのぶっきらぼうから一変して優しい対応をするハルを、ヒヨコはポカンとして見つめていた。動かないヒヨコにシスターが首をかしげると、ハルがほら来いよ、とヒヨコに促す。ハッとして、ヒヨコはハルのところに駆け寄った。
厳かな雰囲気の教会内には誰もいない。ヒヨコはぽけーッとしてキラキラ輝くステンドグラスを見上げていると、シスターが名前を尋ねてきた。ぽやっとしているヒヨコの代わりに、ハルが答える。
「お名前は……ヒヨコさんですね。うふふ、とても素敵な名前です」
「アリガト……」
「もうすぐ神父様が来ますから、少しお待ちくださいね」
そう言ってシスターが奥に引っ込むと、ハルはぽすっと痛くないくらいの強さでヒヨコの頭を叩いた。
「シスターに迷惑かけんなよ」
「……?」
「馬鹿みたいにボケっとしてんなって話。ちゃんと話聞けよ」
ハルはシスターに対する態度とはうってかわって、どこか雑にそう言った。
ヒヨコはわけもわからないまま頷いて、それから奥に飾られている女神像を見た。ヒヨコのいた村にもあった像だ。
「……さっきは悪かったな」
「?」
「村のことだよ。本当にお前があの村の出身だったなら、その、嫌な思いしただろ」
「……」
どうして謝るのか理解できずに、ヒヨコは首をかしげた。ああもう、とハルは苛立った声を出して、それからそっぽを向く。
「お前、本当に何なんだ……」
背中を向けられてしまったヒヨコは、どうしていいかわからず、ハルがこちらを向いてくれるのを黙ってじっと待っていた。




