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ゆうしゃのたびだち

 それから、月日は流れた。










「ヒヨコ、いよいよじゃな」


 身にまとった旅立ちの服は動きやすく、耐久性にも優れたものだ。小柄なヒヨコにもぴったりと合っている。荷物にはたくさんの傷薬を入れて、何かあった時のための用意もしっかり出来ている。


「気分はどうじゃ?」

「グスッ……グスッ……」

「……やっぱり明日にするか?」

「イヤッ!」

「おお、そうか……」


 プルプルと震えながらヒヨコは玄関の前に立っていた。今日旅立つことはもう数か月前から決めていたことだ。そして決めたのはヒヨコ自身。彼女は幼い精神ながら、勇者として戦わなければならないことを理解していたのだ。


 老人は震えるヒヨコの手を、しわくちゃの手で握りしめて宥めた。老人とて、孫のように面倒を見続けた少女を戦地に送りたくはない。目覚めたヒヨコの面倒を見るうちに、この子を外に出したくないという気持ちでいっぱいになったのだ。

 しかし、ヒヨコは勇者である。勇者の旅立ちを止めるわけにはいかない。


「オジイチャン……」

「何じゃ? 昼ご飯、食べてから行くか?」

「チガウ……」

「ん?」

「…………」


 少女はぽろぽろと大粒の涙を溢しながら、老人の手を握りしめた。


「グスッ……ヒヨコ、ガンバル……!」

「お、おお! ヒヨコならやれるぞ! ワシは信じとる!」

「グスッ……グスッ……バイバイ……」

「で、でも、何かあったら帰って来るんじゃ! ワシはずっとここで待っとるからな!」

「カエラナイ……ヒヨコ、ユウシャ、ダカラ」

「ええから帰って来てくれ! ワシが死ぬ前に!」


 こうしてヒヨコは老人の元から旅立った。

 木々に囲まれている老人の家を出て、一歩進むごとに振り返り、老人が見えなくなるまで後ろ髪を引かれるように振り向き続けたヒヨコだったが、やがて振り向いても老人が見えなくなってしまったのに気づくと、涙を袖で拭った。


「ガンバレ……ガンバレ……グスッ……」


 そうして自分を慰め続けて、ヒヨコは林から出る。

 ひゅうっと、心地よい風が吹いた。広大な土地が広がっている。遠くには岩山が、ずうっと東には大きなお城が見えた。


 いつか、あなたが冒険に出るとき、きっとこの世界がより一層好きになるわ


 いつの日か、母親に言われた言葉を思い出しながら、少女は一歩、踏み出したのだった。

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