ゆうしゃのなみだ
「グスッ……グスッ……」
「おお泣かないでくれ! ほら、水じゃ。まずは水を飲むんじゃ!」
「ママ……パパ……」
「お主の名前は?」
「グスッ……ヒヨコ……」
「何歳じゃ?」
ひよこは指を五本立てた。
「6……」
「そうか6歳か……指が一本足らんぞ」
しくしくとベッドの上で泣く少女、ヒヨコは老人から水の入ったコップを手渡された。震えながらそれを受け取り、勢いよく飲もうとしてむせ返る。ごほごほと水で服を濡らしながら泣いているので、老人は可哀想に思い、背中を擦って慰めた。
「10年、眠り続けたお主にワシは祈り続けた。するとどうじゃ、お主の身体はきちんと成長した。筋力は衰えておるじゃろうが、16歳となんら変わりない」
「グスッ……」
「しかし……」
少女は空になったコップを握りしめたまま、身体を小さく丸めて泣き続ける。目が溶けそうなほどに、肌の皮膚がふやけそうなほどに泣いても止まらない。
「そうじゃな。中身はまだ6歳のままじゃ。なんと可哀想に」
老人はふさふさの真っ白い眉毛を下げてそう言った。
彼はヒヨコを拾った日のことを思い出していた。魔物に襲撃されたその村を弔うために訪れていた老人は、偶然にも地下の入り口を見つけて、そこで倒れる少女を見つけたのだ。かろうじて息はあったが、いつ死んでもおかしくない少女の傷を癒し、目が覚めるまでの10年間、老人は面倒を見続けたのだ。
「……ズビッ」
「少し落ち着いたか?」
「……ママは?」
「……ヒヨコ、よく聞くんじゃ」
老人はヒヨコの背中を擦りながら、しっかりと目を見た。潤んだ瞳からはまだ涙がこぼれ落ちそうになっている。
6歳の少女にこれを伝えて良いのだろうか。老人は迷っていた。しかし、ヒヨコの肩に刻まれた紋章の意味を老人は知っている。
これは勇者の紋章だ。ヒヨコのは少しだけ欠けているが、確かに勇者の紋章で間違いないのだ。であれば、この子は魔王を倒すために生まれてきた子どもだ。
知らねばなるまい。この運命を。老人は、覚悟するように握りこぶしを震わせた。
「お前の両親はお前を守って死んだ」
「……」
「お前は勇者じゃ。これから旅に出て、魔王を倒さねばなるまい」
ヒヨコは、真ん丸の大きな瞳を戸惑うように震わせて、老人の瞳をじっと見つめていた。




