ゆうしゃは酒場にいく
数時間ほど歩くと、町にたどり着いた。
ガヤガヤと賑やかな音が聞こえる町だ。店が立ち並んでおり、武器や防具、傷薬などの旅に必要な道具が売られている。
屈強な男たちが真剣な顔でそれらを見ている。ヒヨコは、ほへー、と呑気に旅人達を眺めていた。
「ラッテってのは冒険者たちが最初に目指す町だ」
ハルがそう言うと、ヒヨコは目をぱちぱちさせた。
「武器も防具も揃うし、酒場には仲間を求めるやつらが集まり、パーティーを組むんだ」
「……」
「お前なら、剣の腕がいいし、仲間が見つかるかもしれない。行くぜ」
ハルの後ろを、ハルの服を掴みながらヒヨコは着いていく。お酒のイラストが書かれた看板の店からは、外からでもわかるくらいに賑やかな声が聞こえていた。
ハルが扉を開けると、ヒヨコはあまりの大きな音に肩を跳ねさせた。店の中には屈強な男や、とんがりボウシを被った魔法使いの女、何やら怪しい雰囲気のフードを被った人など、様々揃っている。
「あら、いらっしゃい」
2人の元にやって来たバニーガールは、トレイに乗せていたグラスをハルに渡した。それからヒヨコを見て、バニーガールはクスッと笑う。
「お兄ちゃんに着いてきちゃったのかしら?」
「ワ……ワァ……」
「待っててね。ジュースを持ってくるわ」
目をチカチカさせて戸惑うヒヨコに、バニーガールはウインクをしてカウンター奥へと戻っていった。
ヒヨコはおどおどしながら辺りを見回す。
すると、ドンッと誰かにぶつかる。
「ん?」
「ヒィっ!」
自分よりはるかに大きな、髭を生やした半裸の男にぶつかって、泣きそうになりながらハルの背中に隠れた。ハルは呆れた顔をして、代わりに謝罪する。
「悪いな」
「おう。お前の妹か? ちゃんと見とけよ」
「ははは……まあ、誰もこれが勇者だとは思わねぇわな」
ハルの後ろでそわそわしているヒヨコを引っ張り、カウンターに座るよう促した。
テーブルには既にパーティーを組んだらしい男たちが酒を酌み交わしている。向こうでは綺麗な女の魔法使いを、おそらく戦士であろう男が口説いていた。
「おーおー、選び放題だぜ勇者さま」
「……」
「気になるヤツはいたか?」
グラスをくいっと傾けて酒を飲む。安酒だが、浮かれている冒険者の舌にはぴったりだろう。ハルはテーブルにグラスを置いてから、お行儀よく座るヒヨコの横顔を見た。
「……」
「ん?」
じっくり辺りを見渡してから、ヒヨコはハルを見た。ハルが首をかしげるが、ヒヨコは真ん丸の瞳でハルを見つめ返すだけだ。
「何だよ……俺の顔に何かついてるか?」
「……」
「おい……やめろよ恥ずかしい。あんま顔ばっかり見るな」
たえきれなくなって、ハルが顔をそらす。すると丁度よくバニーガールが戻ってきた。トレイにはキラキラと輝く海のような飲み物が入ったジュースが乗っていた。
「ワァ……」
ヒヨコはそれをすぐに気に入ったらしく、グラスをくるくる回しながら眺めている。バニーガールはそれを微笑ましく見ていた。
「あら、もう気に入ってくれたのかしら?」
「悪いな」
「いいのよ。お兄さんは誰をお探しなの?」
「ああ、俺じゃない。こいつが探してるんだ」
顎でヒヨコを指しながらハルが言うと、バニーガールは目を丸くした。
「この子が? 一体どうして」
「魔王を倒すんだと」
ハルが肩を竦めてそう言うと、店の中の騒がしさが消えて、ひそひそとした話し声に切り替わった。
まるでハル達の会話を聞いているような空気だ。ハルは不思議に思いながらも、気付かないふりをする。ヒヨコは海のジュースに夢中で気がついていない。
バニーガールは営業スマイルを消して、真剣な顔になってハルに問いかけた。
「覚悟はあるの?」
「え?」
「魔王を倒す、それを冒険の目的にした冒険者達はみな、魔王の手下に狙われるのよ」
「……何故?」
「魔物たちの侵略は始まっている。人間たちのすみかにひっそり入り込み、勇者を殺す機会をうかがっているから」
「……」
「魔王を倒すなんて、迂闊に口にしちゃダメよ。魔物に襲われちゃうわ」
ハルは、ハッとしてヒヨコを見る。ストローでジュースを飲んでいたヒヨコは、ハルの視線に気がつくとにこっと笑った。
「……ヒヨコ」
「だから、そういう目的の冒険者に関しては、うちは取り合わないの。ごめんなさいね」
「いや、こっちこそ悪かったな」
申し訳なさそうなバニーガールにチップを渡し、ハルはどうしたもんかとため息をついた。
ここ10年で魔物達の動きは活発になっている。滅ぼされた村や町、戦争を始めた国もあるくらいだ。
仲間が見つからないとなれば、ヒヨコは一人旅だ。こいつに一人旅は出来るのだろうか。いくら剣の腕があっても、戦いだけで生きていけるわけではない。
なら、どうする?
いや、どうするってなんだ。俺は別に、放っておいたっていいだろ。
いつの間にか真剣に考え出していたハルは、アホらしいとグラスの酒を飲み干した。
その時、ハルの隣にいつの間にか座っていた、背の低い老人がハルに話しかけてきた。
「あんたと同じことを言った旅人がいたよ」
「え?」
「魔王を倒す、そう言って旅立った2人の男が、いたんだ」
老人は目を細めて、懐かしそうにそう言った。
「それ、詳しく教えてくれ」
「んーあんまり覚えとらんわ」
「思い出せ!」
「うーんうーん、無理じゃ」
「諦めんな!」
ハルが前のめりで老人に話しかける。すると、後ろで暇していたヒヨコが、ハルの後ろからひょっこり顔を出して、老人を見てニコッと笑った。
「ワシの孫にそっくりじゃ。ちょっと待っとれ。めっちゃ思い出すから」
「単純かよ……でも助かるぜ」
そうして、老人は語り始めた。




