ゆうしゃは東がわからない
「この先の大きな町に、酒場がある」
「ン」
「そこならお前と旅してくれる物好きもいるだろ」
「……」
どうしてか流れに流され、2人で旅立つことになったヒヨコとハル。しかしハルは乗り気ではなかった。
「俺は行かねぇよ。魔王を倒す気なんて更々ないね」
「……」
「何口開けて間抜け面してんだよ。聞いてんのか?」
見ている方が気が抜けるくらいぽけーっとした顔をしている勇者に、ハルは呆れるしかない。
本当に、あの大蛇を倒したのだろうか。あれはたまたま? そんなことを思っていると、近くの茂みがガサッと動いた。
「あ?」
「ヒィッ!!」
現れたのは獅子の魔物だ。6本足のモンスターが、怖い顔をしてこちらを見ている。
すぐさま杖を持って戦闘態勢に入るハルと、ぷるぷる情けなく震えて逃げ腰のヒヨコ。やはり昨日のは夢だったのか、とハルは思った。
「こんな雑魚にビビってんなよ」
獅子の魔物が、涎を垂らしながら2人に近づいてくる。
1歩、近づいて身を低くした。ヒヨコが震えながら剣に手を掛ける。その瞬間、ヒヨコに向かって、飛び付いた。
「おっと」
しかし、ヒヨコが食べられる前に、獅子は炎に包まれた。ハルの魔法だ。
「アチッ! アチッ!」
「馬鹿、せっかく助けてやったのにお前が燃えちまうだろ」
何故か熱がっているヒヨコの頭を杖で軽く叩くと、ヒヨコはふーふーと自身の手を冷ましていた。
ハルは燃える魔物がもう動かないのを確認するために、1歩近づいた。
瞬間、茂みから獅子がもう一体現れる。
「なっ」
やばい、とハルは身構えた。咄嗟に、近くにいるヒヨコを庇うように手を広げる。
ザシュッ、と切れた。
獅子が、綺麗に真っ二つになって、地面に落ちた。
「……お前」
「ヒッ……ヒィ……」
少し息を切らしながら、しかししっかり剣を握ったヒヨコが、いつの間にかハルの横に立っている。剣には、獅子の血が付着していた。
「……わざとか?」
「……?」
「それ、演技だろ?」
ハルが顔をしかめながらそう聞くと、ヒヨコは怒られていると思ったのか、泣きそうな顔してハルから1歩下がった。
足下の石に気付かずに、ヒヨコは足を引っ掻けて尻餅をつく。それからうつ向いて、静かに泣き始めた。
「い……イッ……」
「あ?」
「……グスッ……」
「……」
まーた泣き始めた面倒臭い……と思いつつも、昨日は命を救われている。その恩を忘れたわけではないので、ハルはしゃがんで、ヒヨコが話すのを待った。
「いっしょ……に……」
「ああ」
「い……しょに……まちまで……ついてきて……グスッ」
「なんで? 1人で行けよ」
「……や……こわい……グスッ……」
「何が?」
「……ひとりが……」
ヒヨコは鼻を啜りながらそう言った。
ハルはその言葉を聞いて、しばらく黙っていた。
確かに見た目は自分とそう変わらない歳に見えるのに、彼女はどうも、一回りくらい下に思える。
旅なんてさせるべきじゃない人間だ。ただ、神父様の話からして、彼女は勇者だし、故郷は燃やされている。つまり、旅せざるをえなかったのだろう。
そう考えると同情もわいてくる。ハルは後頭部をガシガシ掻いた後に、わかったと承諾した。
「ただし! 酒場までだ」
「……グスッ……グスッ……」
「俺は魔王討伐なんて興味ない。新しいお仲間見つけたらバイバイだ。わかったな?」
「……グスッ……」
「おい、手は繋がねぇからな。この広野のど真ん中、片手が塞がるのは危険だ」
「……グスッ……」
ヒヨコはしくしく泣きながら、それでもしっかり頷いた。
そして、ハルの服の袖を握った。
「……それもあんまし良くねぇ……まあいいか、行くぞ」
「ン……!」
「次の町は東の方角だ! わかるな」
「アッチ……」
「それは南だ! こっち来い」
「……」
「何ぽやっとしてんだ! 置いてくぞ!」
誰だこいつを一人旅に出させた馬鹿は……と苛立ちながらも、ハルはヒヨコを引きずるようにして歩いていく。
目指すは冒険の始まりの町、"ラッテ"へ。




