雪と欲望
待ち時間。
スマホが震えて、LINEに写真が届く。
また、あれだ。ジェラートピケ。
何回見たかわかんねぇ、例のふわもこ。
でも今回はちょっと違う。デザイン変わってるし、ヘアバンドまでついてるし。
……待て待て待て。なんなん、アップデートしてんじゃん。
年1の大型アップデート過ぎんだろ。
気づいたら、通話タップしてた。
「……オマエ、また送ってきたな」
本当は、今すぐ部屋に籠りてぇのを我慢してんだ。
こっちはこれからバラエティの収録だっつーのに。
ニヤけるだろ、バカ。
なんで前回より盛れてんだよ。ふざけんな。
『うん。……変だった?』
「変じゃねぇけど……」
『え?』
「……これ、誰にも見せてねーよな」
『え!?見せるわけないよ!?』
……あっぶな。ちょっとホッとしてるオレ、なに。
「今なにしてた?」
『起きてたよ。テレビ観ながら課題してた』
「……あー……観た? オレ、変な帽子かぶらされてたやつ」
『似合ってた、と思う』
いや、そんなことより……
頭ん中、あの写真でいっぱいなんですけど。マジで。
……会いてぇ。
実は冷蔵庫にケーキ入ってんだ。完全にワンチャン狙いで。
「オレ、これから1本バラエティ収録あってさ……
少し遅くなるかもだけど、待ってて。ケーキ食おうぜ」
『え……?』
「帰りは……ちゃんとタクシー呼ぶからさ」
迷ってるのが、電話越しでもわかる。
タクシー呼ぶとか……自分で予防線張っているのにもウケる。
『いく』
通話を切ったあと、スマホ握ったまま固まった。
画面見つめたまんま、動けない。
……やば。
顔、ずっとニヤけてる。
鏡で確認。ほっぺ緩みすぎてて引く。
深呼吸してみたけど、ムリ。顔の奥があったけぇ。
なにしてくれてんの、奏。
ピケって、あんな反則アイテムだっけ?
ヘアバンドとあの部屋着、罪深すぎんだろ……
このまま収録とか無理じゃね?
画面だけ眺めて部屋に籠りてぇ。
「よーし!スタジオ入りまーす!」
スタッフの声に我に返る。
「……っす!」
何食わぬ顔して返事したつもりだったけど、相方芸人に「なんか今日ニヤけてない?」って小突かれた。
うっかりゆるんだ口元、手でごまかす。
……収録は、なんとなくいつもより楽だった。
“奏が待っててくれてる”って思えるだけで、普段よりも集中できた気がした。
楽屋に戻って、飲みかけのペットボトルを掴む。
夜9時。この時間なら、タクシーもすんなり拾える。
スマホで配車を手配して、コートを深めにかぶった。
車の中、静かな夜の街をぼんやりと眺めながら、さっきの写真をもう一度開く。
ヘアバンド。
パジャマ。
薄暗い部屋で、ちょっと上目遣いな表情。
やっぱ反則だろ、これ。
慌てて画面を伏せて、目を閉じる。
まだ、ドキドキしてる。
……この気持ちのまま、あの玄関に帰れるのが、嬉しくてたまらなかった。
「おかえりなさ……い!?」
「奏!!」
いた!!
マジでいた!!
ニットワンピ!?てか、今日いつもより足出てね!?
反射で抱きしめてた。
自分でもビビるくらい自然に。
……こんなん、我慢できるかっての。
ありがとう、クリスマス!!!
「コート置いてくるから、ソファで待ってて」
マジで今の顔ヤバイかもしれん……
緩みまくってんの、自分でもわかる。
「え……それ?事前に買ってたの?」
小さな白い金の縁があしらわれたケーキの箱。
何の約束もしてなかったのに、奏と食べるのを想像するだけで楽しかった。
「ん、念のため……な」
今まで、クリスマスに会いたがられるのが面倒で仕事を詰め込みまくってたのに。
「……ありがとう」
「礼はあとでいくらでももらうから」
その一言だけで、全部が報われた気がした。
お礼なんていらない。お前の存在だけで、十分なのに。
「写真、撮っておきたい……かも」
いろんな角度からケーキを撮ってる。
あーでもこーでもない、って表情すら可愛く見えるとか。
オレだって……お前と撮りたいんだけど。撮らせろよ。
「じゃあ、どーせなら一緒に撮っとこーぜ」
「えっ?」
返事も待たず、ぐいっと肩を抱き寄せる。
ニットと肩の素肌の感触が、指先に伝わってくる。
想像以上に細くて、柔らかくて、温かくて……
全神経が、指に集中する。
マジでなんなんだよ……何でできてんだよ。
「早めのお年玉だな……って」
だから、なんでそんな可愛いことサラッと言えんの。
どこ目指してんの?
なんか“可愛い選手権”とかあったら、お前、絶対日本代表だぞ。
「お年玉もいーけど、今はケーキじゃね?」
もっと可愛い姿が見たくて、イチゴを目の前に差し出す。
素直に「あーん」ってする顔が……また……お前何なんだよ。
無防備に口開けて。
「セナ君……雪が降ってる!」
「は?え、マジ???」
「ホワイトクリスマスだねぇ!」
終わった。
いや、始まった。
てかヤバい。
タクシー……掴まる気がしねぇ!!!
いや待て、むしろ掴まらないでくれ!!
この空気のまま、奏がもうちょいここにいてくれたら……いやでもそれもマズい!!!
オレの中の天使と悪魔が、リングでガチバトルしてる。
「あ……でも!大丈夫……!歩けない距離じゃないし!」
「とりあえず、歩いて帰るのは絶対ダーメ」
冷静に考えろセナ。
たしかに、オレのランニングコース的に奏んち方面走ることある。
でも、女の子に雪道歩かせるとか……ねーわ。
あと。
オレ、自分の家に奏を泊めて、無事に朝を迎えられる自信、ねーから。
お前はさ、外のどーでもいい女とは違うんだよ……
本気で、大切にしたいんだよ。マジで。
「奏、お前今日ウチ泊れ」
言っちまった。
でも、言わずに後悔するくらいなら、言ったれって思った。
「そのカッコじゃ寝れねぇだろ。ちょっと待ってろ」
もう、これはアカン。
「……はい、上はこれ。下は……これでいっか」
「風呂、湧いてるから。先入ってきな」
「えっ、え?」
もう結構テンパってんのに、平常心装おって渡す。
誤魔化すように部屋着を渡して、風呂入れて、とっとと寝かそう。
「タオルは中にあるやつ使って。化粧落とすやつも、たぶんある」
「あの……私……」
「あとで風邪ひいたとか言われんの、面倒くせぇから。行けって」
自分でも声デカくなったのわかった。
誤魔化すには勢いしかねぇ。
奏が風呂行ったあと、無駄に部屋をウロウロしてソワソワして、ソファで仰向けになって深呼吸。
奏をベッドに寝かして……オレはソファ……寝れるか、んなもん。
まぁ、寝れなくても少なくとも奏を明日無事に帰せるはず。
「あの……お風呂、ありがとう」
髪をタオルでくるんだ奏が、ふわっと現れる。
……おい。待て。
いやいやいやいや。えっ?
ちょ、ちょ、え???何この破壊力……
オレのスウェット、でかすぎてさ。
手、袖に全部埋もれてんだけど。
首回りゆるゆるで、鎖骨とかうっすら見えてんだけど。
なんかワンピースみたいになってんだけど。
ズボン渡して失敗したわ……じゃなくて……!!!
なんか、いつの間にかドライヤー持ってて、なんでかオレが乾かしてるんだけど。
首、細っ。
うなじ、やべぇ。
髪、え、なにこれ、天使の輪??
匂いまで、反則。
てか、なんでこんな首元緩い?
鎖骨、そんな主張してくる????
あー……もうこれ、今日オレ死ぬかもしれん。
でも、この空気ごと、大切にしたいんだよ。
……とか言いながら、内心100回くらい叫んでる。
雪、マジで止まないでくれ。
「ライブの円盤、観てもいい?スターライトパレードの」
……って言い出したの、オマエな。
お前が言い出したのに、なんでお前が先に寝落ちしてんだよ……
何でオレが一人でオレの顔見なきゃいけねーんだよ。いい加減見飽きてるわ。
しかも。
オレの服着て。
オレの肩に、頭のせて。
オレの部屋で、オレの匂いに包まれて。
「……おい、寝んなよ」
だからさ、早く風呂入れて寝かせようと思ったんだよ……
こんなん、拷問以外の何モンでもねぇわ……
「……マジで寝たし」
……ちょっと待て。
これ、オレ、試されてる? 神に???
いやでも。わかってる。寝室に連れてくだけ。
ベッドに寝かせて、布団かけて、それで終わり。
マジでそれだけだから。健全オブ健全だから。
よし、持ち上げるぞ……
……軽っ!?
え、待って???ベンチプレスより軽いんだけど!?
この子、身体なにでできてんの?
夢と希望しか詰まってない説。てか、飛行石でも内蔵してんの?ラピュタなの???
抱っこしながら罪悪感わいてくるとか、なにこの感情……初体験すぎて対処法わからん。
てか今、オレ、普通にお姫様抱っこしてるんだが???
えっっ……やば。
可愛すぎて直視できん。視界に映すだけで理性削れてくの、やめて???
そぉ~~っと、そぉ~~~~っと、ベッドに寝かせる。
ッッシャ!!!!
ミッション完了!!!!!!!コンチキショーーーー!!!!!!!
「……やだ……」
は?
「……離さないで……」
……何かが、オレの中で崩れていく音がした。
思わず、左手で奏の手を握って指を絡める。
「そういうの……マジで、わかってやってんの?」
「……あ……あの……」
寝ぼけてんのか?いや、今の声、めっちゃ覚醒してたぞ?
もう無理だろこんなん……
「わかってやってんの?……って聞ーてんだけど」
そっと、頬に触れる。
拒否されたら、すぐに離れるつもりだった。
……拒否しろよ。止めらんなくなんだろーが。
ゆっくりと髪に指を滑らせると、奏の頬が赤く染まっていく。
薄暗い部屋でも、はっきりわかるくらいに。
「……こんな顔、オレにしか見せんなよ」
いいんだな?止めらんなくなるぞ?
奏の額にそっとキスを落とす。
続けて、頬に。反対側にも。
いちいちビクッと反応するのが、たまらなくて。
……拒まれない。
やばい。心臓、破裂するかもしんねー……
「……っ」
奏の、細くてきれいな首筋。
ずっと触れたいと思ってた。
オレが贈ったピアスが光る耳たぶにも、そっと口づける。
「……ピアス、似合ってんじゃん」
もう一度、そのすぐ近くにキスを落とす。
身体が熱い。もう、自分の体温なのか、奏のなのかもわからない。
「セナ……君……」
お前……そんな切なさそうな声で名前呼ぶなよ……
本当にギリギリなんだよ。
めちゃくちゃにしたい衝動に、どれだけの理性で抗ってると思ってんだ……
たまらず、奏を強く抱きしめる。
嫌なら言って。……でも、言わないなら。
「……やっべ。オレ、今ならなんでもできるわ」
そのまま、奏にキスをする。
何度も、何度も……
反応が、たまらなく愛しい。
どこに触れても、ピクッと震える。
こんな全身性感帯みたいな反応、前にして……止められる気がしない。
声、我慢しようとしてるのに、漏れ出てくるその音が可愛すぎる。
もっと……もっと欲しい。
服の中にそっと手を滑り込ませる。
熱くて、すべすべで、しっとりした感触……
指が、吸い付くみたいに沈んでいく。
一番柔らかい場所に、手が届きそうになった瞬間……
奏がビクッと跳ねて。
「……っ!……セナ君……やっ……だめ……!」
繋いでた手に、しがみついてくる。
……嫌なのに、しがみつくって……
……それ、煽ってるとしか思えねーよ……
横向きになった奏の背中に手をまわす。
服越しの肌に、何度も、何度もキスを落とす。
少しずつ、服の裾をまくりながら、下着のホックに指をかけた。
「セナ……君……っ」
振り返るように、涙目で見上げてくる顔。
なんで……そんな色っぽい顔、するんだよ……
吐息も、目線も、指先も。
そのすべてが、オレを試してくる。
キスが、止まらない。
触れた指先が、離れない。
うつ伏せになっただけで、止められると思ってるのか?
もう、そんなの……どうしようもなく、可愛いんだよ。
このまま……
後ろから、オレの全部の欲望をぶつけてしまいたい……
スターライトパレード4巻本編のセナ視点からの番外編です。
よかったら本編ものぞいてみてください。
『スターライトパレード4巻~Only~』
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