第四章 『力になりたい』
俺は手綱を握り、草原の中で馬車を飛ばした。
すぐ後ろから、無数のロボットなる人形が光弾を放ってくる。俺の愛馬ノワールは末脚をかけて、光弾を避けつつ走る。
「何やアイツら、敵か!?」
黒スーツの男は、荷台の後ろから外の様子を伺っている。
「飛ばして街まで逃げ切る!」
「アホウ!それじゃ街に被害がでるわ!!」
「食糧に被害が出たらマズい!」
「それもそうか!でも逃げたら被害が出ることは変わらん!!」
「ん…?お前は…!?」
慌てて馬車を止める。急に止めてノワールは驚きつつも、柔軟に足を止める。
「な、なんや!?」
「すまないノワール、急に止まって。
お前は、アイツの…」
目の前には、茶色いコートを羽織った赤いポニーテイルの少女がひとり。
その少女が剣を虚空に薙ぎ払うと、背後の人形が横一文字に分断され、爆発した。
「お前は…あの男の……!」
少女は、光のこもっていない瞳で俺を睨む。
その瞳は、憎しみに満ちている様に感じた。
「いや、今は恨みつらみをぶつけあう時じゃない。どうだ、協力してこの状況を突破しないか?」
「お前の手は借りない。あの男と同じように、いつ消えるか分からないから」
そう言って少女は、俺の横を過ぎて、敵の中心へ向かおうとする。
「ホレ嬢ちゃん、コレ受け取っとき」
「…!リンゴ?」
その時、荷台から男が、リンゴを投げ渡した。
「前払いや。ブラック、荷物は任せたで」
「…何のつもりだ」
少女は黒スーツの男を睨むが、気にせず男は淡々と続ける。
「ワイは荷物を守るために、お前さんは敵陣に突っ込むために前線へ出る。どちらも上手いことやるなら、ちょっと協力するのもアリちゃうんか?」
「それは…そうだが……」
「さっさと敵本陣に突っ込んでもええで。ワイはお前の邪魔はせん、そういう条件でどうや?」
少女はため息をつき、リンゴをひとつ齧った。
「分かった、取引に応じよう」
「そうこないとやな!来い!ICHIYA!!」
男は手元に文字盤を映し出し、ロボットを呼び出す。
頭上から現れたのは、白い痩せた体形のロボットだ。身体に銃やナイフなどがそのままくっついているように見える。
「ワイの名はルーク!異世界から来たロボット乗りや!」
「…アリサ、ただの剣士だ」
「よろしく頼むワ、アリサ!」
ICHIYAという名の白いロボットは、銃とナイフを構える。アリサも、青い魔力が宿る魔剣を構えた。
「…ここは頼んだぞ、ルーク!アリサのことも!!」
「おう、任しとき!ブラック!!」
俺は一頭で牽引している馬車を飛ばす。
「あの男、今はブラックと名乗ってるのか」
飛ばす瞬間、アリサがそう呟いた気がした。
*
「こちら、マントで御座る」
「うむ、ご苦労」
赤い外套のマントを、スフィアに羽織らせる。こう甘やかすのも癪だが、相手は高貴な身分。下手なことを口に出すものではない。
「さて、事態は一刻を争う。だが、名君たるもの威厳は保たねばなるまい。例え、異国の地であろうともな」
スフィアは黒髪のマッシュを軽く撫でつつ、部屋を出て通路をゆっくり歩く。
「とは言えスフィア殿!貴方が死んでしまえば故郷の帝国は…」
「誰も余を殺すことなど出来ぬよ、セオ。貴様が居ようが居まいが、関係ない」
「な…!」
なんという強がり、いや傲慢さだろうか。
唖然とする中、スフィアは階段をゆったり降りてロビーに向かう。
「そんなことより、余はこの面白い状況を詳しく知りたい。おい、店主はいるか!?」
「はい、スフィア様。どのような御用でしょうか」
眉間に皺を寄せ執事服を着こなした中年男が、カウンター席から顔を出す。
カウンターの奥では、食器類や食糧が箱に収められていた。
「逃げ支度か、臆病だな」
「店も大事ですが、一番は我が身ですので」
「そうか、ではここを拠点にしても良いということだな」
スフィアはカウンターに、ニシキ一帯の地図を広げる。
「ここを拠点にですか!?郊外では謎の人形が武器を構えているというのに!?」
あまりにも突飛なスフィアの行動に、店主はカウンターを叩く。
「そうだ、現状を把握したい」
「無謀です!あの勢力がどのようなものか…」
「いいですわ、スフィア卿。ここを拠点にしましょう」
カウンターキッチンの奥から、黒ハットを被り、茶色いコートを羽織る少女が現れた。
「シエル王女…いや、ミシェール嬢か」
「ええ、ご無沙汰しております」
シエル王女は帽子を上げ顔を覗かせ、一瞥した。
*
一方、蒼空塔城。
634メートルにも及ぶ塔の形をした城は、河川水路都市ニシキの中でも一際目立っていた。
あまりにも高い城故に、頂上にある玉座の間へ向かうには、今私が使っている昇降機に乗るのが手っ取り早い。
一応階段はあるにはあるが、こんな高い塔を上るのは一苦労だろう。
だが、状況が状況だ。
まさかあんなふざけた要塞が飛んでくるとは。
しかも望遠鏡で見れば、ニシキ郊外で戦いが起こっているではないか。
いつ戦火が街に飛ぶか分からない。私は金髪の長髪を、髪櫛で整える。
白い鎧の輝きを窓の反射越しに確かめる。
やがて、目的の玉座の間がある階層に辿りつく。
私は赤いマントをたなびかせて、玉座の間へ赴く。
「シエル王女!マクレミッツ上将軍が只今馳せ参じました!!」
玉座の間。
窓一面が部屋を囲み、街周辺が見渡せる大広間。
その中央に、赤い生地に豪華な金装飾が飾られた玉座がある。
その玉座には、純白のドレスを纏った金髪の少女が瞳を閉じつつ居座っている。
金髪の少女は、瞳を閉じつつ私に微笑んだ。
「ごきげんよう」
「~~~~!!ああ!シエル王女!!今日も美しい!!!」
私はありのままの思いをさらけ出す。
「麗しきその美貌!我がジェルヴェール王国の至宝!ああ、私は貴女の騎士になれて光栄です!!」
「そうですか」
「ですが!貴女を狙う賊共が現れました!!賊共は空からこの城を襲うとのこと!!かくなる上は!!」
私は白い鎧の胸元を、大きく叩いた!
「私が!!貴女の盾になりましょう!!!」
玉座に座るシエル王女は、目を瞑りながら笑顔で応えた。
「仰せのままに」
*
「シエル王女!?なぜこのフクロウ亭に居るで御座るか!?」
突然奥から現れたシエル王女に、驚きを隠せない。
何せ彼女はこの国の王女、ここに居るのは非常にマズいのでは…!
「貴様、なぜここに居る?この国の重鎮だろうに」
「貴方がそれを言いますか、スフィア皇子?」
「余の質問に答えよ」
スフィアは金色の瞳で圧をかける。
シエル王女は、碧眼に笑みを浮かべて返した。
「私、箱入り娘として生を全うしたくはないのでしてよ?」
「そういうことにしておこう」
「ですが、この国の統制はどのように!?」
某は不躾ながら疑問を飛ばす。
シエル王女は、得意げにハットの鍔を上げた。
「玉座に、人形を置いてますの」
「人形…?」
「後ほど詳しく説明いたしますわ、それより今は状況を」
シエル王女は机にチェスの駒を用意した。
キングの駒を、今いるフクロウ亭の場所に置く。
「アリサは今、壁の外で敵兵たちと交戦中、シオンが今、アリサの元へ合流中で…御座る」
「シオンさんのロボット以外に、空を飛べる機体はありますの?」
「いえ、残念ながら」
「全く、とんだじゃじゃ馬であるな。自らの希少性を理解せぬとは」
スフィアはため息をつきつつ、罵った。
ヴァロアがポーンを壁外、クイーンを街中に置いた。
「他の面々はどうなっていますか、セオ様」
「シオンと某以外は…ルークが今、アリサと共闘、Kは…」
「オレならここにいるゼ、セオ」
螺旋階段の上から、片目を掻きながらKが降りてきた。
「寝起きで頭が回らんが、面白いことになってるようだナ。オレも参戦しようカ?」
「いや、K。今貴女が離れたりしたら、万が一に対応できないで御座る。もう少し待機で」
Kは残念そうに「そうカ」と答えると、後ろ側のテーブル席に座った。
「ルークは今、馬車を護衛するためにアリサと一時的な共闘をしているみたいで御座る」
「そうなると…残念ながらこの街は守れそうにありませんね」
「同感だな。敵は空からの襲撃、地上だけの守りではあっという間に街を越えられる」
「ナア、ひとつ質問イイか王女サマ?」
Kが欠伸を掻きながら、手を挙げる。
「はい、何でしょうかK様?」
「そもそも何で防衛用の城壁なんてあるんダ?この街にはそんなモノいらねエだロ?」
シエル王女は、その問いに不意を突かれた。
「いらない、とは…?」
「この街、日本首都をモデルにした川と水路を利用した地理構成にナっている。なのに、ナンで城壁なんて造ってんダ?」
「確かに、それでしたらこの都市に城壁はいりませんね…で御座る」
「あの、どういうことですか…?」
「セオ」
スフィアは、セオを真っ直ぐ捉えた。
「つまり貴様は、この都市を有効に活用できると説くのだな?」
覇気のこもった鋭いまなざしに、セオは唾を飲み込み、眼鏡の位置を直す。
「ええ、この方法であれば必ずとも」
「ヨシ、じゃあ善は急げダナ…ン?」
Kが席から立ち上がり、体を伸ばした時、メッセージウインドウが開く。
『ルーク:アリサっちゅー女剣士がピラミッドに向かって飛んでったわ!』
『ルーク:無鉄砲過ぎん!?』
「「なんじゃとて!?」」
*
蒼い蝶を周囲に纏わせ、私は光の速さで青空を跳ぶ。
目指すは遥か上空に見える四角錘型の巨大要塞。あそこに、この敵軍の首領がいる…!
「あの男から貰った剣と技、あんなのが師匠なのは癪だけど…」
目の前に、要塞を守るように行く手を阻む巨大人形が三十体襲い掛かる。
私はその敵軍を、横一閃に薙ぎ払い、全滅させた。
「生き残るためだ!こだわってる暇なんて、ない!!」
蒼い蝶が、敵人形の爆発熱を防ぎつつ、私は要塞を目指す。
眼前に要塞が迫った時、剣を突き出して構える。
私の周りにいた青い蝶が剣に纏う。
この蝶は私の魔力。あの男が名付けた、魔力を最大限発揮するため、使用者が魔力を生成し、魔力を大気中に保存、活用する魔力運用方法。
名付けて―
「オーバードライブ!」
過剰な魔力の塊であるビームを、巨大要塞に叩き付ける。
巨大要塞は、決壊魔法のような透明な壁を展開していたようだが、その壁をたやすく突き破り、ビームは要塞に直撃した。
巨大要塞には、大きく目立つ穴が空いた。
私はすかさず中へ入る。
「出てこい敵の首領!化けの皮を剥いでやる!!」
「ほう、よく吠える」
直後、私の眼前に巨大な槍が飛んできた。
「―!」
すかさず剣で受け、私は要塞内に着地する。
すぐに振り払おうとするが、飛んできた槍は力強く押し付けてくる。
「…くっ!」
「強者の類かと期待したが…どうやら違うようだ」
眼前の暗闇から、白いジャケットを着た男が姿を現す。男は手を指し伸ばし、人差し指を振り上げる。
「貴様、先ほどから常に全力だな?つまり其れが貴様の全てという訳だ」
男が人差し指を振り下ろすと、槍は更に力をつけて私に押し付けてきた。
「それが…っ、何か……?…っ!」
「貴様は死ぬべき存在だ」
直後、もうひとつの槍が私の腹を貫いた。
「がっ……!」
槍に貫かれた私は、横に払われ、槍から地面へ打ち捨てられた。
「只人というのは脆いな。そんな弱い存在だから、死ぬべき存在に成り下がるのだ」
男の顔が暗闇から晒される。
金髪の七三分けの下には、赤い鎖が目元に巻かれていた。
「潔く死ね」
男が手を振り上げる。
頭上には二つの巨大な槍が、宙に浮かびながらこちらに刃を向けている。
仰向けになって、腹から大量の血を流している私には、立ち上がる体力すらない。
―ああ、ここが潮時か…
心の奥底で、そう思った。
男が手を下げる。
二振りの槍が、私に向かって落ちてくる。
二振りの槍が、私の身体に突き刺さった。
痛い。
痛すぎて、痛覚を感じない。
最期って、こんなに呆気ないものだったっけ?
今はよく、分からない。
よく、分からないけど。
できれば、もっと自由に生きたかったなあ。
そんなことを思いながら、薄っすら目をあける。
目を開けると、そこには巨大な剣があった。
「姉さん!」
ひとりの小柄な少女が、空から降ってくる。
「おまえ、どうして…!」
「決まってる…!姉さんの力になりにきたんだ…!!」
その少女は、真っ直ぐな瞳で私を見ていた。




