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第1話 『暗雲斬り裂く剣の翼』


―あの地獄を経て、私は誓った。

私は1人でも、生き抜いてみせると。



今思えばそれは、傲慢だったかもしれない。



「チッ…ここまで追ってくるか!」


野原を走る馬車から身を出して、空を見上げる。

暗雲広がる空を背に追ってくるのは、槍を持った空飛ぶ巨人が3つ。

否、漆黒の鎧のような見かけから言って、人形と捉えた方が無難か。

「嬢ちゃん!ここは逃げ切るしかない!あんな奴ら、勝てっこねえって!!」

背後で騎士が震え声でうずくまってた。

「五月蠅い黙ってろ!弱腰になるのは構わんが、私を巻き込むな!」

全く使えない奴らめと、投げやりな思いで私は腰の剣を抜いた。

青く光る直剣。刃に宿る魔力が、熱を帯びる。

「…シッ!」

遠くにいる人形に向けて、剣を横に薙ぎ払う。

凡庸な剣なら、人形に届かず空を切るだけだろう。


…だが。


ドゴンッ!


中央ひとつの人形の、左腕が爆発した。


「そ、それは…見えない斬撃!?

もしかして嬢ちゃん、かの『天才剣士』…!?」


「その弟子だ!私に期待してる暇があるなら自分の心配してろ!!」

―とはいえ、こうも数が多くては…!

巨人の背後から、更に同じような槍を持った人形が10体現れる。

「一体どれだけいるんだ、連中…!」

師匠から貰ったこの魔剣だけでは、太刀打ち出来ない。

…詰んだな、これは。

「…それでも、やるしかない!やるしかないんだ!!」

最早投げやりな決意を固め、私は魔剣を構えた。



その時。




『…ターゲット』




その声が聞こえた時、人形が5体、何者かに撃たれた。



「…光線!?」



光線が撃たれたであろう背後の空を、見上げる。







するとそこには、剣のような翼があった。







「5体撃破、残り8体」

そう呟いた時、背後から更に雑魚敵がポップした。

槍から放たれる銃撃をとっさに躱し、状況を冷静に見る。

「無限ポップか。こういうタイプは指揮官を倒せば片が付くけれど…」

漆黒と白、背に4つの剣を翼の様に携え、口ばしのように大剣を携えたこの形態。

このままでは牽制程度しかできないが…




そう考えている合間に、太いゲロビが見えた。




「…新型!?」

かろうじて避けたが、次を避けきれる自信はない。

「指揮官機は…あれだ!」

両肩に大きく縦長の黒い槍と、刀を持った機体がいる。あれさえ倒せば…!





「せっかく来た異世界だ。一歩も大地を踏まずに死ねる者などいない…!」





僕は、頭上のレバーを引いた。



腰部が回転する。


格納されていた足が伸びる。


大剣が回転し、背に担がれる。


剣の翼を背に広げ、そして腕が伸びる。


胴体が露出し、Vの字のアンテナが付いた黒い頭部が現れ、口元にあるマスクの下から目が青く光る。






その翼は、人の形となった。







「な…!?」

鳥の人形が…人の形を取った!?

「あれはなんだ?敵なのか!?」

背後にいる騎士がざわつく。

「私だって知らない…!」


「剣士様…」


馬車の奥から、白いドレスを着た少女が身を出してきた。

「シエル王女…!?危険です!護衛対象の貴女が前に出ては…!」


「いいえ、アリサ。私には分かりますわ。あの剣士様は、私たちの味方だと」


碧い瞳には、黒い剣士の人形が映っていた。



無数の弾とビームを避けて、巨槍持ちの機体へ接近する。

「黙れっ!」

両手を広げ、指先から光線を連射する。

無数の槍持ちと、砲手が爆発し、沈黙する。


「あれが大将首ですか…ならば!」


翼から、二振りの直剣を取り出す。

銘は『三千世界』。


「ターゲット」


急接近し、外側から二振りの直剣を振り下ろす。

相手は咄嗟に、2つの巨大な槍を振り上げ、鍔迫り合いに持ち込んだ。

…だが。

「…軽い」

巨大な槍は、いとも簡単に砕けた。

振り下ろした勢いのまま直剣を投げ捨て、背に担いでいた長いバスタードソードを掴む。


「…クンッ!」


大きく振り下ろし、敵機を両断した。


銘は『断頭台』。止めを差すには相応しい剣だ。


振り向き納刀。背後で、両断された敵機が大きく爆発した。






「フフフフフ…ハハハハッ!ハハハハハッ!!!」






勝利。何と甘美なものか。











―その様子を、黒い騎士も空から見ていた。

「…フム、あれが異世界からの刺客か」

黒い甲冑に赤いマントを羽織っており、金髪のロングヘアーに、赤いオペラマスク。

マスクからは、碧眼が覗いていた。

「向こうの世界には超常の兵器があると聞いてはいたが、アイツなら何か知ってるのか…?」

そう呟くと、その騎士はフッと姿を消した。













「凄い…」


気が付けば、馬車を止めその場で見届けていた。

爆発と共に雲が去り、青空が広がる。

巨大な剣を持った剣士の人形が、緑生い茂る野原に着地する。

「剣士様…」

シエル王女が、剣士に向かっていく。

「…ハ!王女様!?」

危ない、護衛対象の元へ付かなければ。

シエル王女の隣に来た私は、魔剣を抜き目の前でひざまずく人形に向けた。

人形の胸元から、誰か出てくる。


「人…?」


出てきたのは、1人の少女だった。


青いショートヘアに翆玉色の瞳に褐色肌。

白に裏地が青のパーカーに、黒インナーと茶色いズボン。


翆玉色の瞳は、疲れたように半開きになっていた。


「おい、君!大丈夫か!?」


元気のなさそうな彼女に、私は素性云々より彼女の心配をした。


その言葉が聞こえていたのか分からないが、彼女は人形の胸から落下した。


「…な!?危ない!!」




―場所は移り。





玉座の間。






黒騎士が、玉座の前に現れた。

「見てきたぞ、魔王。あれが、異世界の兵器で間違いないか?」

黒騎士が玉座を見上げ、問い掛ける。

玉座には、1人の男が座っていた。


黒い平服に黒ズボン、黒い革靴、黒いショートヘア。腰には剣を携えている。

全身黒ずくめになっているが、目元だけ鎖が巻かれている。

そんな男が、玉座に座って足を組んでいた。


「少し違うな、ジャスティス。あの世界において、人型機械は基本絵空事。

今のあの世界の技術じゃあ、あそこまでのものはつくれない」

「じゃああの人型兵器は?」

玉座の男は、左手であごをさすった。

「恐らく、何らかの魔法だろう。絵空事を現実にする魔法とか」

「そんなことまでできるとは…」

鎖の男は物思いにふけった。その瞬間―



「グ…!」


鎖の男が、頭を抱える。

次第に、玉座の間から声が薄っすら聞こえてくる。

『異世界ロボット転生モノか…』『どうせ難しくなって途中でポイってなるって』『やはりみんな俺TUEEE系が好きなんだから』『ロボットなんて邪魔』『寧ろコイツみてえな主人公が売れるんじゃね?』『イキリトみてえなヤツでいいじゃん』『ロボットなんて所詮時代遅れ』

「う…グウ…ウ!!」

次第に聞こえてくる声は大きくなり、鎖の男は汗を流す。

黒騎士は、思わず彼の名を呼びかける。


「…レ」


「ダメだ!」


鎖の男は、その呼びかけを制止した。


同時に、聞こえていた声が止んだ。


「その名前は、言ってはいけない。その名前は、あの瞬間にすべて消えたんだ」

黒騎士は、ホッとため息をつく。

「…分かってるさ、天才剣士さま」

鎖の男は口元に笑みを浮かべると、玉座の周辺に4つの映像を浮かびあげた。


「話を戻そう。実は、お前が見たヤツ以外のロボットも3機確認された」

4つの映像には、それぞれ別の機体が映っていた。


「ロボット?」

「人型兵器のことを、向こうではそう呼ぶ。まずは北方」


映っているのは、吹雪の中佇む大盾を2枚持った薄茶色のロボットだ。

背後には、ハンマーなど背負っている。

「白兵戦用と思われる機体だ」


次に映っているのは、西方の映像。

夜闇の中、透明になりながら二丁拳銃で戦う白いロボットだ。

「西方のヤツ、戦法から見るに奇襲用か」


次に映っているのは、海上だ。

4つの砲台を飛ばして銃撃戦を繰り広げてる、紫色のロボットが映る。

「南方、対集団戦に特化した機体だろう」


「そして…東方」


映っているのは、先ほど黒騎士が見た剣の機体だ。


「空中戦特化、ってとこか。

以上の4機が、異世界からの刺客だ」


鎖の男が指を鳴らすと、次に映るのは世界地図。


ひとつの巨大な大陸に、5つの国旗が散りばめられている。

「我が軍は大陸中央に位置するため、四国を攻めやすい。袋のネズミって言えるかもしれないが、最速で殴り込めば問題はない。イレギュラーは偶然か意図的か、それぞれ別の国に現れている」

「同じく別世界から召喚したと言ってた、五大幹部がいるにはいるが…勝算はあるのか?」

鎖の男は、苦笑しつつ頬杖をつく。

「ないと言えるか?」

「…そうだな」


鎖の男は、世界地図に手を伸ばす。





「戦って、勝つしかない。今の俺たちにできるのは、それだけだ」









『何故できない』


―わからない。


『できて当たり前だ』


―知らない。


『こんなのフツウにできるよ』


―できないんだ。


『できてトーゼン』


―できないことのなにがわるいんだ。





…ああ、なんで僕は、何も知らないんだろう。できないんだろう。





せめて、導いてくれる人がはじめからいたのなら…





例えばそう、僕より年上で、誰よりも身近にいる。そんな…





兄貴とか…姉とか…





そんなことを考えてたとき、誰かが僕を包んでくれた。





誰だろう。





赤いポニーテイルの髪。


白いシャツに、茶色いコート。


僕を見据える瞳は青く、芯のある強さを感じる。


その人は、僕を真っ直ぐ見ていた。


なんだろう。


迫力があってこわいけど、優しそうでもある不思議な人だ。


こういう人を、なんていうんだろう。


―例えるなら、そう。






「姉さん…?」






「…え!?」


あまりにも唐突な呼びかけに、思わず芝に尻もちをついた。


「アリサ!?」

「痛た…」

魔力で何とか衝撃を和らげてはいたが、それでも痛い。

「今この娘、私を姉さんと…」


その少女は、目を閉ざしていた。


「…おい?」


手の脈を確かめる。生きては……いるな。

額に手を触れるが、特に熱もない。ならば…


「どうしました、アリサ!?まさかその子…!」

「…!」


私は、歯を食いしばった。





食いしばった瞬間、グルルルル~…と、少女の腹が鳴った。





「…空腹のようです、彼女」

「あら」


私は少女を、肩に担いで馬車へ向かう。

「王都ニシキへ向かいましょう、シエル王女」

「そうですね。一応、食糧のリンゴを出しておきましょうか」

「…敵かもしれませんよ?」

「私たちの前に姿を出したのです。敵意はないと思いますわ」

「…そうですか」

私は後ろを振り返る。


大きな人形は、青い光に包まれて消えていった。



「…いったいなんなんだ、あれは。

いずれにせよ、彼女がこなければ私達は…」



―いいかアリサ、お前は1人じゃない。1人で何でも背負い込むな。



師匠の言葉を、思い出す。


「1人じゃない、か…」


「うんん…」


肩に担いだ少女が、うめき声をあげた。


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― 新着の感想 ―
タイトルに惹かれない、作品自体は良くできているが既視感があり続きを読みたいと思えない。
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