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5.迎撃

モブなエネミーたちが結構容赦のない肉体ダメージを受けていく描写があります。

たとえ敵でも痛々しい描写が苦手な人はご注意を。


 林を抜けた男が一人。

 こちらに気づいて、馬を駆り、なだらかな坂を上がってくる。


 それを見下ろしながら、ラニカは自分に言い聞かせるように小さくつぶやき、気合いを入れた。


「ここでなら……ッ!」


 とんとんとつま先で地面を叩き、土の中で火を()こせるのを確認してから構えた。


「もう逃げられねぇぞ、テメェらッ!!」


 男の声にラニカは聞く耳持たずに自己暗示をかける。


「冷静、冷静にいきますよ……私!」


 直後に手を振るい、金属化したヒモの切れ端を投げる。

 それ単体では、刺さったところで致命傷になりづらい小さな針でしかないが――


「ヒヒ~~~ンッ!?」

「うおッ、どうしたッ!?」


 一本が馬の前足に刺さる。

 激痛に前足を浮かせて悲鳴を上げる馬。


 馬には申し訳ないものの、生き延びる為には仕方がない。


 慌てて馬を制御しようとする男。

 その様子をしっかりと見据えながら、ラニカは二本目を投げる。


「があッ!?」


 それは馬の上にいた男の左眼球を貫く。

 思わず手綱から手を離してしまった男は、落馬し暴れる馬に蹴り飛ばされた。


「嘘だろ。どんだけ精度高いんだよアンタは……」


 横でアッシュが何か言っているがラニカにあまり余裕はない。


(このまま冷静に、集中し続けていけば……)


 先輩のカチーナであればこの程度のこと、涼しい顔をしてやってのけるに違いないのに、自分は極限まで集中力を高めてようやくだ。


 それに足下の魔法の準備にも意識を割いている。これが結構シンドい。


 そもそもクスリで無理矢理眠らされた上に、丸一日寝ていた。そのせいで、軽い頭痛を感じている。

 ましてや準備運動もロクにしないまま寝起きで動いてもいるのである。それが原因なのか、普段なら問題なさそうなこれまでの運動だけで、全身が悲鳴をあげていた。

 何より寝ていた間は飲まず食わず。空腹と喉の渇きが結構ツラい。


(だけど、従者たるもの顔に出してはいけないもんね。

 涼しい顔が難しくても、だけどそれでも、優雅さと余裕さだけは欠かさないつもりで……!)


 憧れの先輩に追いつく為の試練とでも思って、迎撃を続ける。


(後続……同じように馬を使ってるのが一人……ッ!)


 一匹目の馬は、徐々に落ち着きを取り戻してきているようだが――


(ゴメンね。もう一回暴れて)


 馬のお尻に針を飛ばす。

 痛みで暴れ出した馬は、二人目の男の進路に飛び出した。


「クッ!」


 慌てて馬を止めた男だったが、その一瞬の制止で十分だ。


()ッ!」


 鋭い呼気と共に、ラニカが針を投げる。

 一つは、手綱を握る右手の甲に刺さった。


「冷静に、冷静に……ッ! わたしはッ、今ッ、とっても冷静ですッ!」

「言動にだいぶ冷静さがねぇぞッ!」


 アッシュのツッコミは無視だ。


 冷静な眼で馬上の男が、痛みで手綱から手を離した瞬間を見極め、二本目の針を投げる。


 先の男と同じように、左の眼球に突き刺さり、彼も落馬。

 その直後、今落ちた男の馬にも針を投げ刺して、暴れさせれば、落馬した彼はそれに巻き込まれた。


「ふぅ……」


 思わず大きく息を吐く。

 どうやら無意識のうちに息を止めてしまっていたらしい。


 とはいえ、気を抜きすぎて魔法の準備をふいにするワケにはいかない。

 しっかりと、足下の準備が進んでいるのを確認する。


「おい。お前、顔色やべぇぞ。大丈夫か?」


 優雅さと余裕さを取り繕ってたつもりだったが、どうにも出来ていなかったようだ。

 それならば、素直に認めてしまうことにしよう。


「あんまり大丈夫ではありませんが、そうも言ってはいられないでしょう?」


 事実、馬に乗っていない者たちも後続としてこちらへと向かってきている。


「補充分ください」


 言うやいなや、アッシュの手からひったくるように金属化したヒモの切れ端を手にして、ラニカは構えた。

 

 落馬している仲間を見て警戒しながら、坂を駆け上がってくる男たち。


 馬に乗っていた者たちもそうだが、チンピラ然とした者たちだ。

 手入れの行き届いた馬や、何らかの魔法の準備などを周到に用意しているようなタイプには見えない。


(彼らはただの下っ端。あくまで命令や指示に従っているだけ。

 だけど指示を出している者は随分と用意が周到なようで……)


 もとより、現状は尻尾を掴むよりも脱出を優先すべき状況なのだが――


(どっちにしろ、尻尾は簡単に掴ませてくれないかな)


 ヒントの類を彼らは何一つ身につけていない気がするのだ。


(ならば容赦はせずに、一掃する……。

 炎による攻撃は、その手の証拠品ごと燃やしちゃうコトも多いので、意外と慎重な戦いがしづらいのが欠点だねぇ……)


 ともあれ、憂いが減ったので少し本気を出せることだろう。


「この(アマ)ッ! 観念しやがれッ!」

「する必要性を感じませんね」


 乱暴な言葉を口にしながら坂を駆け上がってくる男めがけて、ラニカはヒモを投げる。

 騎乗者と同じように、その男を目を貫くと、後続はこちらが目を狙って投擲していることに気づいたようだ。


「細い針で目を潰してきやがるぞッ!」

「顔を守りながら進めッ!」


 ご丁寧に両腕で顔を隠すようにしながら駆け上がってくる。

 だが、ラニカは別に慌てず騒がずに、次弾を構えた。


「ならば、目以外を狙うだけです」


 人を殺すことに躊躇いがないと言えば嘘になる。

 この期に及んでと言われても仕方ないが、人を殺すことなんてしたくない。


 だが、今はそれを言っている余裕はない。

 やらなきゃやられる――そんな状態だ。ましてや自分だけでなく、守らないといけない少年がいるのだから、ふんばっていくしかない。


「冷静……ッ! そうッ、私は今ッ……とってもッ冷静ですッ!」

「やっぱヤケクソな自己暗示にしか聞こえねぇぞソレ」

「ふふふふふふッ! 冷静にッ、集中をしているのでッ、聞こえッませんッ!!」


 ボソりとツッコミを入れてくるアッシュに応えなが、ラニカは容赦なく、追っ手たちの首筋に狙いを付けて投げる。


 やや歪な形に固まっているヒモの軌道を漠然と計算し、手首のスナップを聞かせてカーブするように放つ。

 見事にそれは手前を走る男の首に突き刺さった。

 男はそのまま崩れ落ちていく。


 突如倒れた仲間に驚き足を止めた。

 そこに狙いをつけて、もう一人の首も狙う。


「風だッ! 恐らく風の魔法で軌道操作をしてるんだッ!」

「目と首を守りながら行けッ!」


 見当はずれではあるものの、そういうことを考えながら指示を出せる者がいるのにラニカは軽く驚く。


 加えて仲間が倒れたのを確認しながらも、なおも後続はこちらへ向かってくるのを見て、ラニカはさらに驚いた。


「あいつら、仲間が四人もやられて平然と……!」


 アッシュも驚いたように呻いているが、やることは変わらない。


「ボスが望む結果を出すのだろう!」


 その一言で、ラニカは彼らを支えているものが何か漠然と当たりがついた。


(見た目に似合わぬ忠誠心……あるいは、あの人たちのボスはチンピラを心酔させるカリスマ性でも持ってるのかな?)


 だとすれば厄介だ。

 生半(なまなか)なケガなど気にせずに突っ込んでくることだろう。


 事実、ラニカが投げる金属化したヒモを上手い具合に腕で受け止めて、駆け上がってくる者たちが現れだした。


 目や首を狙った一撃必殺が通用しづらくなってくる。


「近づかれると非力だからッ、投げ物で攻撃し続けたんだろッ!」


 そして、ついにラニカに肉薄する者が現れ――


「いえ。別にそんなコトはないですけど」


 ラニカは右足を振り上げ、勢いよく地面を踏みしめた。


 次の瞬間――ッ!


「うおーッ!?」


 男の足下の土が()ぜた。

 爆発に飲まれた男は宙を舞い、爆発で巻き上げられたものととも地面へと叩き付けられる。


「熱ッ!? なんだよこれッ!?」

「ぐあーッ!? 痛い痛い痛い……!」

「体にくっついて……あああああああ……ッ!?」


 そして、広がる阿鼻叫喚の光景。

 土や石に混じって何かが降り注いでいる。それこそが、ラニカが爆発で巻き上げたモノである。


「ヒヒ~ン、ヒ~ン!!」


 その正体は赤く熱された泥だ。

 ヒモを投げつつ、足下でラニカが熱し続けていたものである。


「用意している罠が我ながらエグすぎるので、近づいて欲しくなかっただけです」


 もはや溶岩と呼んでも差し支えないそれを浴びて、泣き叫ぶ男たちの姿というのは――例えそれが自分たちを誘拐したチンピラとはいえ、大変心にクる。


 巻き込まれた二頭の馬も悲鳴を上げながら暴れ回る。

 自分たちの足下に転がる人間を蹴飛ばしていることなど意識もしてなさそうだ。


「……ぐ……ふぅ……」


 こみ上げてくるものを深呼吸をすることで堪えたラニカは、素早く視線を巡らせる。


 後続がいないと判断すると、横で呆然とするアッシュの手を取った。


「行きますよッ! 今のうちに逃げますッ!」

「……! ああッ、わかった!!」


 なにはともあれ、追っ手はこれで打ち止めのようだ。


 ならば、ここから出来る限り距離をとらないと――!



準備が出来次第、もう1話公開します

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