006-キャラメイク、ですわ。
キャラクターメイキング、俗に言うキャラメイクと呼ばれるシステム。
それはVRゲームにおいては、マニアクスを判断する基準として『オプション画面』と並び立つ重要な要素のひとつだ。
……決してキャラメイクが無いゲーム=マニアクスというわけではないが、ゲーム本体に対する影響度があまり大きくないこのシステムは、必然的にゲームの作りが浅ければ軽んじられる傾向にあるのがその理由である。
「……かなり、項目が多いな……」
そして、キャラメイクのみを判断基準とするならば『天骸のエストレア』はかなり作り込まれたゲームであろうことが察せられた。
顔や体形等の一般的な項目は勿論のこと、驚いたことに声質まで調整できるらしく―――。
「…………。あー、あー。……おお。……ええと。ごほん。……お~っほっほっほっほ! 未来の大テロリスト! カナリティ様の登場ですわよ~~~!!」
―――外観の変更には然程の興味も引かれなかったが、流石に声質を弄れるというのは気になり、思わず三十分ほど時間を掛けて、やたら煩いせいでよく耳に残る月文字の声を再現してみてしまった。
もちろん、当然だが既に声変わりも済んでいる挙句、同年代と比べても低めである俺の声は、あの……カナリアっていうよりはカラスと呼んでやったほうが良いだろう月文字の甲高い声には似ても似つかないんだが……。
「クッ! ハハッ……! 凄いな……に、似てる……フハッ! なんだこれ……」
……時間を掛けたお陰もあるんだろうが、個人的にはほぼほぼ完璧に似せることが出来てしまった。
となれば、このまま後は外観を適当に少女にしてやったら俺は至極普通の少女になれるわけだ。
「なるほどな。ここまで弄れてしまえば……いっそ逆にトラブルも起きないというわけか」
弄った声質を戻しながら思わず感心してしまう。
オンラインゲームというものは、VRゲームとなる前より悪意ある男性プレイヤーが女性になりきり、ネットリテラシーの未熟な子供を狙った悪質な行為が横行していたジャンルであり、VRMMOというゲーム群は『キャラメイクの制限』や『ボイスチェンジャー等の外部ツールへの厳しい規制』などを設けて、ゲーム内のプレイヤーの存在があまりにもリアルと乖離し過ぎないようにしていると聞いていたが……。
どうやら『天骸のエストレア』は、むしろプレイヤーの全てを偽れることにしてしまうことでリアルと完全に乖離させてしまうことにしたようだ。
となれば、全てのプレイヤーが対峙するプレイヤーに対し『眼前の姿はあくまでゲーム内の姿である』という色眼鏡を掛けて見ることになるため、自然とワンクッション置いた距離を取るようになるのだろう。
それに、別に悪意もなにもなく、女性になりたい男性、あるいは男性になりたい女性は自らの欲求を満たせるはずなので、これは誰も損をしない。
「これが神ゲーか……」
わざわざこんなことをせずともキャラメイクの自由度を落としてしまえば済む話を、あえてそうはせず、逆に声質まで変更できてしまう程に自由度を高めることで問題を解決していく『天骸のエストレア』開発陣に感心を覚え、自然と、そんなことを呟いてしまう―――いや? 大概のマニアクスもキャラメイクの幅狭すぎてありとあらゆる犯罪を未然に防いでいるのだが? あまり舐めないで欲しいのだが?
……まあ、いい。
どのみち、俺はあまり外観も声も弄るつもりはない。
精々、色合いを調整して多少なりの顔バレ対策をする程度だ。
「困った時は金髪碧眼だな」
というわけで、髪をトウモロコシめいた色に、目をブルーベリーめいた色に適当に染める。
すれば、見事に日本人顔である俺の顔面に違和感しか覚えない配色が散りばめられた質の悪い謎のコスプレ男が完成し、一発で顔からリアリティが消え去った。
これは有名なテクニックだが、基本的に暗めの色合いしか存在しない種族である日本人は、顔を大きく弄らないのであれば(月文字のようによっぽど元々の顔が良くない限りは)派手な髪色と目の色にするだけで、途端に出来の悪いAIが作り上げたような嘘臭い顔付きになる。
金髪碧眼の他には白髪赤眼のアルビノカラーなども有効な手だろう。
また、RGBのどれかを255まで振り切った色で統一するのもアリだ。