003-葬儀屋の心、折れる。
今回終えたマニアクス―――『ひぐらし☆ハイスクル ~親の都合でド田舎に引っ越し憂鬱だった俺ですが平均年齢50オーバーの過疎島に現存する高校生男児は俺一人だったため自動的にJKハーレム生活を送ることとなり俺の恋愛感情は完全に有頂天になったのだが?~』―――に対する感想は、正直に言えばもう二度とプレイしたくないの一言に尽きる。
というのも、奴は少なくとも今年プレイしたマニアクスの中で一番酷かったと言わざるを得なかった。
クソゲーという言葉を安易に用いるのはポリシーに反するため決して口にはしないが、これは俺が体験したマニアクスの中でも相当な部類だった。
特になにが酷いかといえば―――VRゲーム、折角の人格投影を伴うゲームだというのに、身体を動かす要素が自転車を走らせることと、レジ打ち程度(あと無意味に多いパイタッチ)なので……VRゲーム特有のアクションに伴う爽快感などが一切無いのだ。
さながら、VRではないゲームが一般的であった旧きマニアクス達のように……。
「……旧時代の遺物達。ひたすらにボタンを連打するだけのマニアクスとは。これを超えていた……ということか」
装着していたVRゲームハード『セブンス』を取り外しながら俺は、思わず息をのんだ。
父も実際に手にしたことは無いそうだが……祖父、曾祖父の時代にも当然マニアクスは存在し、そして彼らが対峙したマニアクス達はVRですらなかったのだろうだから、……葬送るのは、相当であったに違いない。
特に父が曾祖父より今の際に聞いたという伝説のマニアクス―――『ヤマト』と呼ばれた作品は凄まじかったらしいからな……信じられないほど大量に存在するパラメータ、複雑に絡み合ったそれらが織りなす理不尽な難易度、ようやっとゲーム性を理解したところで初めて知る、プレイヤーには課せられていた数々の制約を一切無視した挙動で敵側は動いていたという衝撃の事実……ありとあらゆる悍ましいポイントによって完全武装をした『クソゲーの超弩級戦艦』と呼ばれたそれは……。
今の際にわざわざ口走ってしまうのだから、……まあ、凄かったのだろう……。
「俺は恵まれている……」
伝承として知るだけでも、その恐ろしさに思わず身震いをし……そして俺は、自らの幸福を喜んだ。
俺が対峙するマニアクス達はどれもVRゲームであり、精々リアルガチ労働を強いられたり、延々延々面白くも無いし落下死の感触が不快極まりないパルクールをやらされたり、ポリティカルコレクトが滅亡した反動か知らないが明らかにやりすぎな人種差別描写により普通に奴隷として虐げられたり、明らかに意図していない挙動により四肢が裂けるチーズのようになったりする程度だからな。
先人たちの挑んできた葬送いに比べれば……大したことはないだろう。
「……………………」
とはいえ。
とはいえ、だ。
「普通に想定されている殺しがしたい……」
100万貯めるために、それなり以上の時間を共にし続けていた学友たちをドロップキックによる高所からの突き落としによって全員亡き者にしてきた後ともなれば、真っ当に……こう、なんかゴブリンとかスライムとか、なんでもいいが、そういった存在と戦いたいと思ってしまうのは必然といったところであり。
正直に言えば、やりたい。
普通のゲーム、やりたい。
マニアクスじゃないゲーム、やりたい。
「……俺は、弱い……」
そう思ってしまう自らの未熟さに、俺は唇を強く噛んだ。
父が『アビス・クルセイダーズ』を最後に引退し、かれこれ10年近く『迷作ゲーマー』を続けている俺だが……俺は未だに、父の域には到達出来ていなかった。
ありとあらゆるマニアクスがマニアクスたる所以を噛み締め、十分に楽しみ、心を躍らせることが出来る……あの神域には。
痛感する。
橘樹家至上最も優れたアンダーテイカーと呼ばれ、何も飾らずただ単純に『天才』と呼ばれた父の高い実力を。
その壁の……高さを。
「が。己の弱さを知ってこそ、より戦士は強くなる。つまり、多少は普通のゲームをやってもいいわけだ」
高さを認識したところで、ここで多少自らを律した程度では到底その高みに到達出来ないことを容易に察せられたので、俺は早速携帯端末を操作して、とあるナンバーへと発信した。