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第9話 カードの屋敷

 屋敷内の作業室で、俺とアイちゃん、メイドさんたちと絵師さんが集まっている。絵師さんが手順を説明する。


「まず、こちらのカード、他の国ではトランプとも言われていますが、この中からポーズを真似したいものを選んでください」


肖像画を描く時のポーズの参考にするための4枚のクイーンのカードがテーブルの上に並べられた。4枚のカードを見ると、顔が右を向いたり、左を向いたり、持っている花が違っていたりしている。そんなカードの中からアイちゃんが選んだのはハートのクイーンだった。


「このクイーンは赤いバラの花を持っているわ。だから、このカードがいいわ」


それを聞いてメイドさんが1人。部屋を出て行った。


「では、そちらのイスにお座りになって、ポーズをとってください」


アイちゃんがトコトコと歩いて行きイスに座った。絵師さんが、


「もっと右を向いてください、もっと右です。もう少し上を見てください。背筋を伸ばしてください、そうです」


などと注文をつけている時に、メイドさんが赤いバラを一輪持って帰って来た。

それをアイちゃんに手渡すと


「絵師さん、このバラの花はどのように持てばいいの?」

「お嬢様、右手で右の胸あたりにくるように持ってください。できれば1時間、無理なら20分ほどそのままでお願いできますか?」

「大丈夫よ、いつも横笛を持っているから」


そんなやりとりがあってから1時間後、無事に肖像画は完成した。



絵師さんが帰った後、アイちゃんが俺の横に来て聞いてきた。


「お兄ちゃん、私、カードの屋敷にも行きたいの。連れて行って欲しいわ」


そういえば、最初に会った時に、花札の屋敷とカードの屋敷、ハープの屋敷に行きたい、と言っていた。


「わかった。明日カードの屋敷に行こう。予約しておく。」

「わーい、嬉しいー。お兄ちゃん大好き」


アイちゃんが抱きついて来た。よほど嬉しかったらしい。



翌日、俺は私室で待っていた。ドアがノックされ返事も待たずにアイちゃんが飛び込んできた。よほど楽しみにしているようだ。

 

服装は青のパンツに緑のブラウス。髪飾りはアゲハチョウの模様入りだ。後ろでメイドのガリレさんが「お嬢様をより可愛くできました」と顔で訴えている。うん、可愛い。外見だけならアイちゃんより可愛い子はいるだろうけど。でも、アイちゃんの内面の可愛さが、成長するにつれ、外面に現れてすごく可愛くなる、きっと、確実に、絶対に。さて、アイちゃんに聞いてみよう。


「アイちゃん、カードの4種類は覚えたかな?」

「うん、ハートにダイヤ、それからクラブとスペードでしょう?」

「正解。ではカードの中で肖像画の描いてあるカードは?」


「キングとクイーンとジャックだわ」

「よくできました。偉いぞ」

「えへへ、キングは王様でクイーンは女王様でしょう? だけどジャックは何?」


「ジャックは護衛とか従者とか言われている。でも、本当のことはわかっていないんだ」

「ふ~ん、誰も知らないこともあるんだね」

「そうだよ。そろそろ予約の時間だからお出かけしよう」


『屋敷シリーズ』の中には人気が高い屋敷がいくつかある。カードの屋敷もその中の1つだ。人気の理由は肖像画に描かれた人物にある。キングやクイーンに描かれている人物はとても強かったり、いい政治をしたりして、人々に人気のある人物だからだ。


そして、ジャックに描かれているのは、物語の主人公や伝説の英雄である。アトラクションとはいえ、こんな人物たちと戦えるのだ。人気が高くない訳がない。


執事さんやメイドさんたちに見送られて屋敷の玄関を出た。門までの道の両側には赤いバラが植えられている。玄関から門までの道のほとんどに植えられている。もう完成といってもいい。途中で庭師のイアペトさんが作業をしていた。


「ご苦労様です、イアペトさん。もう完成ですね」

「はい、いい土と苗木が手に入りました。あと1週間ほどで完全に完成します。最初に植えた苗木はもう咲き始めています。他のバラもツボミが膨らんできていますから、もうすぐ咲き始めるでしょう」


それを聞いたアイちゃんが、目をキラキラさせて言う。


「もうすぐきれいな赤いバラの道を歩けるのね。とっても嬉しいわ」

「お嬢様に喜んでいただけると、仕事をする喜びが倍になります」

「そう、嬉しいわ。私も今日は頑張れる気がするの。では、行ってきま~す」

「お気をつけて」


イアペトさんと別れて門の外の転移陣から、カードの屋敷へと転移した。



転移した先は、カードの屋敷の前だ。カードの屋敷はまるで王城だった。荘厳な作り、威風堂々とした城だ。アイちゃんがポカーンとした顔でしばらく眺めていた。でも、予約時間が迫っていることを思い出して、急がせて門をくぐった。


門から王城の玄関まで、両側に赤、白、黄色のチューリップの咲く道を歩いて玄関に着いた。そこで黒を基調とした騎士服を着用し、盾と剣を持った騎士が迎えてくれた。


「ご予約のアース様でしょうか」

「はい、こちらはアイちゃんです」

「お待ちしておりました。受付までご案内します。こちらへどうぞ」


そう言うと騎士は王城の中へ歩き出した。廊下のあちこちに魔導具の照明が設置されている。3分ほど歩くと受付の部屋に到着した。部屋の中には赤を基調とした騎士服を着用した騎士がいた。


「ようこそカードの屋敷へ、アース様」

「ありがとうございます。今日はこの子と2人でチャレンジしたいのですが」

「入場料はお1人様銀貨2枚です。10歳未満は無料です」


アイちゃんは無料なので、1人分の銀貨2枚を支払う。


「この屋敷はコースによって人気に偏りがあるので、問題を正解された方だけご希望の通りのコースに挑戦できます。よろしいでしょうか?」

「わかりました。どのような問題でしょうか?」


「2つの問題を解いていただきます。正解されれば、不正解の場合は、こちらの指定したコースへ挑戦していただきます。問題を出してよろしいでしょうか?」

「はい」

「では最初の問題です。制限時間は5分です」


騎士が取り出した2つのボードの1つを裏返すと問題が目に入った。


第1問 カードの4人のクイーンの中で、見てすぐにわかるほど、他の3人と違っているクイーンはどの種類のクイーンですか。


1番 ハート  2番 ダイヤ  3番 クラブ  4番 スペード


「見てすぐにわかる」ということは、大きな違いだということだ。さて、と考えていたら、アイちゃんが言った。


「私、前に肖像画を描かれた時に、4種類のクイーンのカードをよく見たからわかるわ。4番のスペードよ。スペードのクイーンだけ顔の向きが違うの」


「正解です。顔が右を向いているか、左を向いているかの違いですね。スペードのクイーンだけ他のクイーンと違う方向を見ています。スペードは死を表すから、横に描かれているスペードのマークから顔を背けている、とも言われていますが、真偽のほどはわかりません。では次の問題です」


騎士がもう1つのボードを裏返す。


第2問 カードの4人のキングの中で、持っている武器がこん棒なのは、どの種類のキングですか。


1番 ハート  2番 ダイヤ 3番 クラブ  4番 スペード


俺は知っている。だからすぐに答えた。


「3番のクラブだ。クラブにはこん棒という意味がある」

「正解です。よくご存じですね。他のキングは剣や斧、ハルバートを持っています。国によって違いはありますが」


「そうですね。でも我が国ではクラブのキングだけがこん棒を持っている」

「では、2問とも正解されましたから、ご希望をお伺いします。こちらの表をご覧ください。難易度が高いほど獲得賞金が高くなります。戦う相手はキングとクイーンになります」


「カードの屋敷」コース一覧


No1 クラブ  獲得賞金  金貨2枚 

No2 ダイヤ  獲得賞金  金貨3枚 

No3 ハート  獲得賞金  金貨4枚 

No4 スペード 獲得賞金  金貨5枚 


う~ん、やはり易しいコースがいいだろう。アイちゃんは初心者だから、チャレンジが成功した方が楽しめるだろう。


「アイちゃん、クラブのコースでいい?」

「うん、いいわ」


「では、ルールの説明をいたします。お客さまは2名様ですが、対戦は1対1です。クイーンとキングそれぞれと1対1です。クイーンの持っているバラ、キングの持っているこん棒、両方にお客様それぞれが手を触れたら、お客様たちの勝ちです。制限時間は各々10分です」


「いいわ」

「わかりました」

「次に、よろしければあちらの陳列ケースから、アイテムを選んでください。1つ銀貨2枚です」


言われた方向を見ると廊下に陳列ケースが並んでいる。全部で長さが10メートルほどはある。獲得賞金が高いだけあって、アイテムの代金も高い。俺はさっさと剣を1本買った。自分の剣は持っているが、この屋敷に来た記念に買ったのだ。


アイちゃんはどうするのかな、と思ってアイちゃんを見たら、陳列ケースの前を行ったり来たりして熱心に見ている。しばらくしたら、陳列ケースから指輪を取り出した。紫色の石がついている。その指輪を陳列ケースから取り出して受付の騎士に渡して、アイちゃんは詠唱する。


「銀貨2枚 アウト」


アイちゃんの右手に銀貨2枚が現れると、その銀貨2枚を騎士に差し出す。


「おお~、携帯魔法ですか。まだ、とてもお若いようですが、たいしたものです。そうそう、その指輪は『リズムを導く指輪』と呼ばれる指輪ですが、使い方はよくわかっておりません。でも、アクセサリーとしても良い品です」


俺も驚いた。いや、携帯魔法にではなくて、アイちゃんが自分でお金を払ったことに。偉いぞ、立派に成長しているぞ、アイちゃん。



クラブのクイーンとキングがいたのは、宮廷の謁見の部屋みたいな広い場所だった。遠くの壇上にクイーンとキングがイスに座っている。俺とアイちゃんの姿を見るとクイーンが立ち上がり、壇上から降りてきた。

どうやら最初の対戦相手はクイーンらしい。危なくなったら、クリスちゃんの結界を張るんだよ、そう言ってアイちゃんを送り出した。

 

部屋の中央で両者は向き合い一礼をした。アイちゃんは、右足を後ろに引いて腰を落とした。淑女の挨拶のカーテシーだ。ドレスを着てないが、大丈夫か? いや、いつカーテシーなんて習ったのか? そう考えていたら、クイーンが言った。


「可愛い挑戦者さん、あなたがこのバラに手を触れたら、あなたの勝ちよ」


クイーンはそう言うと、青いバラをアイちゃんの目の前に差し出した。アイちゃんがバラに触れようと手を伸ばしたら、急にバラを引っ込めて1mくらい後ろに飛んだ。アイちゃんが近寄ると後ろ向きで走り出した。もうゲームは始まっているらしい。

 

そうか、これは追いかけっこなのか。クイーンは急に右や左に曲がったりしてアイちゃんを翻弄して遊んでいる。あのクイーンは性格が悪そうだ。一方のアイちゃんは頑張って追いかけている。もう5分ほど経ったが、まだまだ全力だ。日頃のトレーニングのおかげだ。


あっ、アイちゃんが転んだ。大丈夫か? 涙目になっていないか? うん、大丈夫。

すぐに立ち上がった。でも動かない。どうしたんだ、足を痛めたか? おや、右手の人差し指を右のほおに当てた。あれは考えるときのポーズだ。「う~ん」とか「え~と」とか言っているのだろう。


おっ、両手の拳を握りしめた。決心のポーズだ。考えがまとまったらしい。何かをするつもりだ。


「黄金のクラーフル アウト」


現れた横笛を手にしたアイちゃんが、もう一度詠唱する。


「音楽魔法 ラ・マラゲーニャ」


横笛を口にあてたアイちゃんは、横笛の演奏を始めた。激しい曲だ。フラメンコの曲らしい。音色が曲に合ってないけど。どちらかというと、弦を使う楽器の音色が似合う曲かな?

 

クイーンがフラメンコを踊り始めた。激しい踊りだ。足の動きも激しいが、手の動きも激しい。あっ、青いバラを口にくわえた。そして、両手を頭の横で叩いた。そうか、手を叩くのに青いバラが邪魔だったのか。

 

さて、アイちゃんどうする? 背の低いアイちゃんではクイーンの口までは手が届かないぞ。3分ほどで曲が終わり、クイーンがポーズを決めて叫んだ。


「オーレッ」


その時、青いバラがクイーンの口から落ちた。そこへアイちゃんが走り寄り青いバラに手を触れた。すると青いバラは赤いバラへ変化してから、『リズムを導く指輪』に吸い込まれた。そして、クイーンが言った。


「あなたの勝ちよ。でも楽しかったわ。ありがとう、お嬢さん」


クイーンはいい人だったようだ。アイちゃんも同意する。


「私も楽しかったわ。ありがとうございました。クイーン様」


俺の所にアイちゃんが帰ってきた。指輪を見ると紫色の石に赤いバラの絵がある。きれいだ。ケガが無いことを確認してから、俺はアイちゃんに聞いた。


「どうして、あの曲を演奏したの?」

「あのね、前に屋敷の楽団の人があの曲を演奏したときに、1人のメイドさんがバラをくわえて踊って、最後に叫んで落としたの。今と同じね、だから。」


「そうなのか。アイちゃんもとっても頑張ったけど、屋敷のみなさんにもお礼を言わないといけないね」

「うん、もちろんお礼を言うわ。それから、この指輪に名前をつけたの。『紫色のシルバ』という名前なの」


「とっても素敵な名前だ。さあ、次は俺の番だよ。アイちゃん、結界を張って見ていてくれ」

「うん、お兄ちゃん、頑張ってね」



 クイーンが壇上のイスに戻ると、キングが立ち上がり、壇上から降りて来た。俺も部屋の中央へと向かう。キングの身長は俺より10センチほど高く、がっしりした体格だ。3mほどの距離で向き合い一礼した。そして、キングが言った。


「若者よ、手加減はせぬぞ。このこん棒に手を触れれば、お前の勝ちだ」


いやいや、キング、あなたの持っているこん棒にはトゲがたくさん付いてますよ。振り回しているときに手を触れたら、回復魔法で回復してもらうとしても、痛いです。しかし、頑張ろう。アイちゃんが応援しているから。俺はここで買った剣を構えて、挨拶をした。


「よろしくお願いします。いざ、勝負」


キングの武器は右手に持つこん棒1本。それを振り下ろしてきた。あまり速くない、様子見だろう。軽く右後ろに飛んで軽くかわす。こん棒が床に当たる直前にキングが俺の方に飛び、こん棒で突いてきた。振られているこん棒の向きを途中で変えるなんてすごい力だ。今度は左後ろに飛んでかわす。


なるほど、速くない打ち込みは、こん棒を剣みたいに使いこなすためか。やっかいだ。力任せに振り回してくれれば、動きも読みやすいし、スキもできやすいのだが。

 

5分くらい、俺はこん棒を避け続けた。キングの振り回すこん棒の動きのパターンを読み、懐に飛び込むタイミングを知るためだ。そして、わかったのだ。こん棒を右から左へ振るとき、腰が少し下がっていれば、こん棒の動きは速く左まで振り切られることが。

 

そして、避け続けていると、腰が少し下がり右からこん棒が振られた。俺は少しだけ左に飛び、こん棒が目の前を通り過ぎた瞬間、キングの懐に全力で飛び込み、トゲのない、こん棒の根本の部分に手を触れた。そう、これまでは余力を残して逃げていたのだ。キングを欺くために。キングの動きが止まり、キングが言った。


「私の負けだ。若者よ、なかなかの腕であるな」

「どういたしまして。御指南いただきありがとうございます」


一礼してキングは壇上へ、俺はアイちゃんの所へ戻った。そのとき俺は思ったのだ、どうしてこん棒は消えなかった、アイちゃんが触れるものは消えるのにと。

まあいい。考えるのは止めよう、アイちゃんが飛びついて来たから。


「やったね~、お兄ちゃん」



赤の騎士服の騎士がいる受付


「クリアおめでとうございます。金貨2枚をお受け取りくだい、どうぞ」

「アイちゃん、受け取って」

「ううん。お兄ちゃんも頑張ったから半分ずつね」


そして、アイちゃんは詠唱する。


「金貨1枚 イン」


いい子だ。お兄ちゃんは感動した。俺が金貨を受け取ると、アイちゃんが尋ねた。


「ボーナスゲームは無いの?」


俺は知らないが、その質問に騎士さんが答えてくれた。


「残念ながら、今回はありません。4人のキングまたは4人のクイーンすべてを倒したら、フォーカードというボーナスゲームに挑戦できます。その変わりと言ってはなんですが、屋敷シリーズのパンフレットを差し上げます。よろしければ、どうぞ」


「わかりました。パンフレットはもらいます。私、また来ます」


屋敷攻略にやる気十分のアイちゃんであった。



帰り道、指の『紫色のシルバ』と名付けた指輪を見てから、アイちゃんが言った。


「お兄ちゃん、この指輪を指にはめたら、音楽魔法を使う力が、強くなったと思うわ」

「なぜそう思うのかな?」

「身体の中に魔力が溢れているの」


どうやら、花札の屋敷に続いてカードの屋敷でも、アイちゃんは役に立つするアイテムを手に入れたようだ。


お読みいただきありがとうございます。

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参考

ラ・マラゲーニャ  スペイン民謡 フラメンコの伴奏曲

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