第4話 ボーナスゲーム
「数字合わせゲームにチャレンジです。心の準備はよろしいですか?」
「準備はできています」
「大丈夫よ。いつでも始めていいわ」
2人の返事を聞いて、トーフーが上に向かって「スタート」と言うと、0から9までの10個の数字が空中に浮かびクルクルと自転を始めた。そして、トーフーが再び説明する。
「お客様の合図で回転が止まり、10個すべてが同じ数字になったら当たりです。豪華な賞品がもらえます。特に10個すべてが7でそろったら大当たり、家がもらえます。今だと思ったら、ストップと叫んでください」
それを聞いたアイちゃんが、頼んできた。
「私、横笛で曲を演奏して、お兄ちゃんを応援するわ。だから、お兄ちゃんがストップと叫んで」
そして、アイちゃんは横笛を吹き始めた。その曲は俺も知っている『星の女神様にお願いします』だ。ゆっくりしたテンポで、いい夢を見ているようなやさしい感じの曲である。
曲を聴いていたら『0に合わせて叫んで! 3,2,1』という声が聞こえた気がしたので、あわてて0に合わせてストップと叫んだ。すると10個の数字の回転はだんだんゆっくりになった。
9個の数字は次々に7で止まった。残り1つの数字の回転が、今にも止まりそうなくらい遅くなる。3から4,4から5、5から6になり6で止まった。
ダメか、そう思ったら6の数字が再びゆっくりと、7になろうと回転を始めた。半分ほど回転した所で6に戻ろうと逆に回転し始めた。
ああ、やっぱりダメかと思ったら、急に回転して7になった。とても信じられない。10個の7がさまざまな色に輝いた。とても美しい。アイちゃんも横笛を吹くのを止め、見つめている。
ヤナギの部屋上部の雲が薄くなっていく。明るい青空が広がる。空から大合唱が聞こえてきた。すごい人数の大合唱だ。『喜びの歌』、有名な曲である。梅、桜、藤いろいろな花の花びらの吹雪が舞う。
その中を10個の7が一列になって、空を飛び、ダンスを踊るように、ある時はゆっくり優雅に、またある時は速く剣舞のように舞い踊る。素晴らしい。アイちゃんと2人で、見とれてしまった。
やがて、合唱が終わり、10個の7も光りながら消えていった。空にもまた雲が広がった。それを見ていたら、トーフーが祝福してくれる。
「おめでとうございます。大当たりは花札の屋敷開業以来初めてだそうです。私の聞くところ、最低でも200年は出ていないとか」
「えっ、そうなの?」
「はい、10個の数字の中から、7の数字だけが10個並ぶ確率はとても低いのです。ですから景品がとても豪華になっております。1年ごとに予定されていた巨額の予算がすべて繰り越されて、それはもう大変な金額になっております。
その結果、景品の家の維持管理費、執事やメイドなどの人件費、食材や服、その他の生活に必要な物品の購入費、すべて無料となっております。その他、家のことについては現地で詳しい説明があるかと思います」
これは夢か? 夢なのか? 一生の運をすべて使い切ってしまったかもしれない。そんな事を思っていたら、アイちゃんが体当たり、いや抱きついてきた。
「お兄ちゃん、すご~い。すごい、すごい、すごいよ~~~」
俺はアイちゃんを両手で高く持ち上げて言った。
「アイちゃんが横笛を吹いて応援してくれたおかげだよ。ありがとう」
「うん、私も頑張ったよ~。とっても嬉しいの~」
コホンと咳払いをしてから、トーフーが説明を続けた。
「この水晶球に手を触れてください。家の所有者としての登録を行います。なお、15歳以上の方に限りますから、登録はお1人様ですね」
そうか、登録できるのは大人の15歳以上か。アイちゃんはダメなのか。どうしよう? と思ったら
「私はいいわ。お兄ちゃんが一緒でなければ家は手に入れなかったのだから」
いい子だ、いい子すぎる。しかし、俺が家を独り占めするわけにはいかない。アイちゃんが15歳になったら、改めて相談しよう。それまではアイちゃんとの共同所有と考えるのがいい。そんな事を考えながら、水晶球に右手を触れると水晶球が光った。
「これで登録終了です。次にお2人ともこのペンダントを身につけてください。このペンダントを身につけていると、国内であればどこからでも、転移陣なしで、家の転移陣へ転移できます。その逆はできませんが。今回、転移先のアドレスは、景品の家です。景品の家と念じてください」
「私、行ってみた~い。すぐに行こうよ~。速く~」
ペンダントを2人とも身につけた。すると、アイちゃんがキラキラした目で俺を見つめてきた。なぜか急いで家に行きたいようだ。その熱意に負けてすぐに転移することにした。トーフーにお礼を言って、アイちゃんと手をつないでから念じた。
転移! 景品の家
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参考
喜びの歌 交響曲第9番 作曲 ベートーヴェン より
作詞 フリードリヒ・フォン・シラー