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第19話 魔法指導と顕微鏡

「みなさんは警備隊であって、攻撃隊ではありません」


俺は野外訓練場、魔法や弓の訓練場で、屋敷警備隊の8人の魔法使いに話をしている。以前、隊長のイスリに魔法の指導を頼まれたからだ。2人は回復魔法の使い手だから、実質6人が相手である。


「警備とは守ることです。襲撃者をせん滅する必要はありません。襲撃者がこちらを攻撃できないように無力化できれば、それでいいのです。具体的な例で考えましょう。土魔法を使う方はいますか?」


2人の少女が手を挙げた。そちらの方を向いて質問する。」


「魔獣が襲撃して来たとしましょう。あなたは、どのように迎撃しますか?」

「土の槍で攻撃します」

「相手が象型の大型魔獣なら、100mの距離で命中させる自信はありますか?」

「はい、私の有効射程距離内ですし、外すことはありません」


「優秀です。では、相手が狼型の中型魔獣ならどうでしょうか?」

「う~ん、10回に4回は外すかもしれません」

「土の槍1本の代わりに土の矢10本で迎撃できれば、命中率はどうなるでしょうか?」


少女は少し考えてから答えた。


「毎回、何本かは当たると思います」

「矢が2本か3本当たれば、相手を無力化できますか?」

「はい。当たった矢が1本でも、十分無力化できます」


「矢が1本当たれば、魔獣の攻撃能力を奪い無力化できるなら、それで十分ではないでしょうか? 魔獣はそれ以上、こちらに危害を加えることはできませんから。もし、完全に倒したいなら、こちらの安全が確保されてから、倒せばいいのです」


もう1人の少女が質問してきた。


「10本の矢を同時に作るには、どうしたらいいのですか?」

「水魔法ならとても小さい水の粒を、土魔法ならとても小さい土の粒を、風魔法ならとても小さい空気の粒、例えば水中の気泡のとても小さいもの、を思い浮かべてください。その粒を別々の10か所に集めて矢をイメージするのです。」

「そんなことができるのでしょうか?」


「はい、できます。保有魔力量を増やす基礎訓練と粒を10か所で作る訓練を3年くらい続ければできます。何事も繰り返して訓練することです。地道に訓練すること、それしかありません。あとは、十分な睡眠とバランスの良い食事ですね。おやつのお菓子はほどほどにして」

「お菓子はほどほどですか~。でもわかりました。頑張ります」


ヘルミが尋ねてきた。アイちゃんの魔法と筋トレの先生だ。


「火魔法のイメージはどのようなものでしょうか?」

「火は土、空気、水のような物質ではありません。だから、火魔法は、物質の粒ではなく魔力の塊、魔力の濃い空間に炎が生じる状態をイメージします。このように」


俺は詠唱する。


「火魔法 火球」


5個の火球が現れ、5つの的にそれぞれ飛んで行き命中した。


オオー、ワァー、すごい、うそー、驚きの声が上がる。


「はっきりイメージできれば、このように火球と自分の体内の魔力を魔力糸で結んでコントロールできます。今度はゆっくりやります」


再び詠唱して、頭くらいの大きさの火球を1m先に作る。右手の人差し指で火球を指さして、説明する。


「最初は、指先で火球を誘導することから始めます。この方がイメージを明確にしやすいからです。では、火球を的に向かって飛ばします」


的を指さすと、火球はまっすぐ的に向かう。


「次に指先で誘導します」


指先を右に振ると火球は右に、左に振ると左に、宙返りするように指を動かすと火球は宙返りする。そして、最後は的に命中させた。


「慣れてくると指さす必要は無くなります。ただし、誘導するにはすごく大量の魔力が必要です。だから、実戦では多数の無誘導火球を使う方が、相手の無力化には有効です。このように」


俺は詠唱する。


「火魔法 火球乱舞」


1cmほどの大きさの火球が多数現れ、1つの的に飛び着弾すると、的と的の周辺を破壊した。


「理解してもらえたでしょうか?」

「はい。良くわかりました。私もご主人様のように、たくさんの火球を出せるように頑張ります。それができたら、火球の誘導も」


ヘルミが笑顔で答えてくれた。他の人からは質問が無いようだ。隊長のイスリがその様子を見て言う。顔がほんのり赤い。


「ご主人様、ありがとうございました」

「どういたしまして。また、機会があればやりましょう」

「はい、是非お願いします。」


他の人たちも声を揃える。


「「「「「「「是非お願いします」」」」」」」



 訓練場を後にして、食品工房に向かう。工房長ビュルギさんに会うためだ。


ビュルギさんの工房


「わざわざお越し頂き、ありがとうございます」

「いえ、お気になさらず。俺もワインには興味がありますから」


「そうでしたか。お忙しいでしょうし、早速本題に入ります。ブドウの果汁からワインができる理由は諸説ありますけど、最近は目に見えない小さな生物が作っているという説が有力です」


俺はお酒を造る妖精がいる、という説も捨て難いと思うのだが。


「それで、目に見えない生物はどうやって確認されたのですか?」

「例えば、ワインが出来る時に出てくる泡を作る気体は、他の生物が呼吸するときに出てくる気体と同じ性質を持つのです。その1つが、その気体の中にロウソクを入れると火が消える性質です。


だから、ワインができるのは目に見えない生物が呼吸し、活動した結果だと考えられる。そのような間接的なものだけです。ですから、ご主人様の力を貸して欲しいのです。その生物を実際に目で見たいのです」

「わかりました。目に見えない生物は用意できていますか?」


ビュルギさんが2本のガラス瓶をテーブルの上に置く。1本には赤色の、もう1本には透明な液体が入っている。ビュルギさんが説明してくれる。


「赤色の液体は、ブドウの皮ごと原料にしたもので、赤ワインになるもの、透明な液体は、ブドウの皮を取り除いたものを原料にしたもので、白ワインになるものです。どちらもブドウの果汁にしてから2週間経っています。この中に目に見えない生物がいるはずです」


俺は詠唱する。


「星魔法 けんびきょう座」


現れた顕微鏡から重なった2枚のガラス板を取り外し、ビュルギさんに渡す。


「この2枚のガラス板の間に、ワイン汁を1滴入れてください」


ビュルギさんが赤色のワインの果汁を1滴、ガラス板の間に入れる。俺は、それを受け取り、顕微鏡に戻してセットする。


「どうぞ、上から見てください」

「おお~、球がつながったものが見えます。これが、ワインを作る生物でしょうか?」


場所を代わり、俺も見ると、確かに球がつながったものが見える。


「これがワインを作る生物かどうかは、まだわかりません。まだあと8時間くらい顕微鏡は消えませんから、もっと、いろいろ観察してください。生物であれば、増えるとか大きくなるとかするはずです。それから、ワインにならないブドウの果汁には、これが見えないことが確認できればいいと思います」


「ありがとうございます。久しぶりにわくわくします」

「では、今日はこれで失礼します。必要があれば、また呼んでください」

「少しお待ちください。一般工房のミマ工房長が、ご主人様がおいでにならないと寂しがっておりました。機会があれば、行ってやってください」


「そうでしたか。では早速これから行きます」

「ありがとうございます。きっと喜びます」


そういえば、一般工房は行ったことが無かった。悪いことをした。一般工房は目の前にあるので、すぐそこだ。歩いて行き一般工房の中に入ると、ガリレがいた。そうだ、ここでは服も作っていた。


「ここの工房長はどこにいるか、知っているかな?」

「工房長ならポーション実験室にいると思います。何か御用ですか?」

「いや、ちょっと挨拶をしようかと思ってね」

「それは良かったです。工房長も寂しがっていましたから」


うん、来て良かった。ガリレに案内してもらってポーション実験室に着くと、白衣を着た緑髪の女性が作業中だった。女性は俺に気づくと、驚いた様子で近づいて来た。


「度主人様、いらっしゃいませ。一般工房長のミマです。今日はどのような御用でしょうか?」

「いや、ちょっとだけ顔を出そうか、と思って。忙しいみたいで申し訳ないです」

「とんでもありません。いつでも歓迎します」


すぐに帰るのも、と思い、何か話題になるものを探して実験台の上を見たら、小さく砕かれた鉱石が目に入った。


「あの砕かれた鉱石は何に使うのですか?」


聞いてみたら、嬉しそうに答えてくれた。


「化粧用ポーションの材料です。あの鉱石に含まれる成分を使うのです。水に長時間浸した後、魔力を注ぐとその成分が溶け出して来ます。砕いた方が、水と鉱石の接触する面積が増えるので、その成分を抽出するための魔力が少なくて済むのです」


なるほど、ポーションには薬用の物だけでなく、美容のための物もあるのか。ここではいろいろな種類のポーションを作っているらしい。おっと、長居は無用だ。


「説明をありがとうございます。やはり、出直してきます。いつかまた、ゆっくりとお邪魔します。ご都合のいい時を連絡してください」

「わかりました。連絡させていただきます。次はゆっくりとこの工房をご覧になってください」



一般工房を出て、これまで行ったことがないエリアに行ってみることにした。

お花池の水が流れ出ている方向だ。しばらく歩くと、横1m、縦10mほどの花壇4つがあった。


1つの花壇には、お茶の木が育っている。もう1つは、お茶の木の少し上に布が張ってある。さらに、エルダーフラワーやコーンフラワーが植えてある花壇とレモングラスやペパーミントが植えてある花壇がある。

 

そこにジョウロを持った黒髪のメイドが1人やってきた。いつも美味しいお茶をいれてくれるパシファだ。


「やあ、パシファ」

「こんにちは、ご主人様」

「ここで何をやっている? 仕事なのかな?」

「お茶の木やハーブに水をあげています」

「ほとんどが草の花壇もお茶と関係があるのかな?」


「その草はハーブです。ハーブには、美しい花を使うものと葉を使うものがありますから、別々の花壇で育てています」

「そうなのか。知らなかった。お茶の木で、上に布が張ってあるのは何か理由があるのかい?」


木や花を育てる時に、布をかける方法は知らないから、聞いてみた。


「はい、あまり日光が当たらないようにするためです。倭国で作られているマッ茶を作る方法らしいです」

「倭国のお茶って、緑色をしているお茶のことか?」


「はい、倭国の緑色のお茶は、茶葉を摘み取ってすぐに蒸したり、フライパンで炒めたりしている茶葉で入れるそうです。ですから、摘み取ってすぐにそんなことをしない、この国の茶葉から入れるお茶と違う色になります」


この国では摘み取った茶葉を加熱しない。加熱することに、何か意味があるのだろう。だから、倭国のお茶の色は緑色なのだ。


「布を張って日が当たらないと、お茶に何か変化があるのか?」

「布で日光が当たらないようにすると、いい香りで、まろやかな甘い味のマッ茶ができるそうです。今、それを試しているのです」

「研究熱心だな。だから、パシファのお茶は美味しいのか。パシファはいいメイドだね」


パシファは顔を真っ赤にして、身体をもじもじさせながら言う。


「そ、そんなことありません。それに私は魔法が使えませんし」

「スキルは持っているよね」


「はい、メイドスキルのティブレンダーを持っています」

「魔力を持っているから、スキルが使える。ただ、魔力量が少ないから、魔法が使えない。スキルが使えるだけでも、凄いことだよ」

「でも、でも、小さい頃から、姉さんみたいに魔法が使いたくて、魔法が使えないことに悩んでいて。魔法が使える人がうらやましくて、……」


なるほど、パシファの自信のなさは魔法が使えないことが原因か、だったら、


「魔法が使えるようになりたい?」

「は、はい。昨日で私15歳になりました。もう大人です。御主人様、私のホッペに、チュ、チューしてもらえませんか? 魔力量を増やしたいです」


真っ赤な顔で、身体をプルプル震わせて、パシファが言う。


「いいよ。横を向いて、目を閉じて」

「は、はい」


パシファのホッペに顔を近づけると、パシファがしゃがみ込んだ。


「すいません。なんだか怖くて。私、チューされるのは初めてでして」


パシファを立たせて、優しく言う。


「抱きしめていいか」

「は、はい」


しっかり抱きしめて、ホッペにチュー。1分ほど魔力を吸われる。


「暖かくて、甘いものが身体に入ってきました。とてもいい気持ちです」


パシファが、目をトローンとさせている。


「それが魔力だよ。それで魔法を何に使うのかな?」

「はい、お茶の木やハーブに水をあげる水魔法が使いたいです」


音楽魔法が使えない一族のものは、水魔法が使えるものが多いらしい。森で暮らしていた一族だからだろう。


「アナンたちのような水流ではダメか?」

「あれは、激しいので。もっと優しく水が出る魔法がいいです」

「霧雨はわかるか?」


「はい、霧のような細かい粒の雨ですよね」

「花壇の少し上で、細かい水滴をイメージして。はっきりイメージできたら、水魔法 霧雨と詠唱してごらん」


パシファは花壇の上を見ていたが、しばらくすると詠唱した。


「水魔法 霧雨」


すると、細かい水滴がお茶の木やハーブに少しずつ、ゆっくり降り注ぐ。


「できました! 魔法が使えました。ご主人様」

「うん、パシファは、やればできる子だよ」


パシファの頭を撫でながら、誉めてあげる。


「ご主人様のおかげです。これで大人として、自信を持てました。これからも魔力を頂いてもよろしいですか?」

「ああ、朝食前にアナンたちと一緒に俺の部屋に来なさい。でも、魔力保有量を増やすトレーニングもしっかりするのだぞ。それから、ホッペチューの事は、他の人には内緒だぞ」

「はい。秘密にします」


姉が優秀過ぎて悩んでいたパシファも、これで胸を張って生きて行けるだろう。そして、姉は姉、自分は自分と考えられるように、なるに違いない。



お読みいただきありがとうございます。

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