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第18話 聖なる響きの館のお披露目

 屋敷商会の会頭さんの来訪は5日後に決まった。音楽魔法一族の主だった者の中で、国内にいる者30名と護衛10名も一緒に来るそうだ。箱馬車10台と荷馬車3台の規模になるらしい。かなりの数だ。主だった者以外も来るとどれだけの数になったのだろう。


受け入れ準備も進んでいる。馬車道から聖なる響きの館への道の幅は2mほどだが、雑草刈りは終わり、更には石畳の道にするための工事も、当日までには完成する予定らしい。


桑の木や染色用の草、薬草が生えていた場所も整備された。薬草園や染色用草園ができている。狩人の石像と大きな犬の石像への道も整備された。石像の前には小さいながらも公園が作られている。


聖なる響きの館に行くために下車する馬車道の場所には、来客用の休憩所の他に、御者の休憩所、馬を休ませる施設が完成しつつある。聖なる響きの館の近くにも休憩所が設置された。この屋敷の力だけではなく、屋敷商会の助力も大きい。まさに大工事である。


俺はというと、また採寸された。アイちゃんが新調の巫女服だから、俺の服も新調するらしい。俺としては、今ある服でいいのだが、そうはいかないらしい。一族にとって最重要な行事であると同時に、俺とアイちゃんのお披露目でもあるというのが、その理由ということだ。



5日後、この屋敷からの箱馬車8台が加わり、箱馬車が18台になった一団で聖なる響きの館に向う。馬車道で馬車を止めて聖なる響きの館まで歩いた。屋敷商会の人たちの中に花札の屋敷のトーフーさんがいた。なるほど、音楽魔法の杖や横笛のことを知っていたわけだ。


正装の巫女服に身を包んだアイちゃんを先頭に、聖なる響きの館の中に入る。全員が入ると、ドアが閉まり、上から声がした。


「音楽魔法一族のみなさん、ようこそ、聖なる響きの館にいらっしゃいました。巫女様は舞台の指揮台へ、それ以外の方はご着席ください」


前方には舞台が、フロアには座席がせり上がった。アイちゃんは舞台に進み、俺たちは着席した。


アイちゃんの服装は足首まであるワンピース。下が一番濃い青色で、上にいくほど薄い青色になっている。右胸には黄色の糸でト音記号、左胸には黒色の糸でヘ音記号の刺繍。


背中には、大きな深紅のバラの花の刺繍がある。魔法服だそうだ。髪には緑色の「想いを伝える髪飾り」、左手の中指には紫色の「リズムを導く指輪」。まさに音楽魔法一族の巫女様の正装である。


アイちゃんが指揮台に立つと客席の照明は暗くなった。アイちゃんはこちらに背を向けて右手を上げ、詠唱する。


「虹色のタクト アウト」


上部に7色の宝石で作られた装飾がある、音楽魔法の杖が右手に現れた。アイちゃんは続けて詠唱する。


「アイ コンダクト 四季」


虹色のタクトが一瞬光り、短い細い棒に変化する。虹色のタクトの第二形態か。宝石が先端について輝いている。舞台にはたくさんの楽器が空中に現れ、浮かんでいる。横笛などの管楽器やヴァイオリンなどの弦楽器、太鼓などの打楽器、見たこともない楽器もかなりある。


アイちゃんが虹色のタクトを振り下ろすと、演奏が始まった。アイちゃんの振る虹色のタクトの動きに合わせて、音が大きくなったり、小さくなったり。スピードが速くなったり、遅くなったりしている。


アイちゃんの想いが楽器の演奏を通して伝わってくる。俺は音楽の創り出す世界の中に取り込まれた感じがした。曲の最初に、アルタイルの森に帰ることができたアイちゃんの喜びが感じられた。


更に演奏を聴いていると、森の中の動物の鳴き声、鳥のさえずる声が聞こえてくる。そして、はたおりの音、湖で魚が跳ねる音、子どもの遊ぶ声が聞こえてくる気がする。湖畔の森の中での平和で穏やかな、しかし、活気のある生活が思い浮かぶ。300年前のアルタイルの森の様子なのだろうか。

 

演奏が終わった。周りの人は全員、下を向いて目に布を当てている。アイちゃんが詠唱した。


「虹色のタクト イン」


音楽魔法の杖が消え、舞台の楽器も消えた。照明が明るくなり、アイちゃんが指揮台を降りて一礼すると、聖なる響きの館は大きな拍手の音で満たされた。



聖なる響きの館を出た後、狩人の石像や大きな犬の石像を見に行く人、林の木の種類や大きさ、本数を調べる人、いろいろな人たちがいたが、俺やアイちゃん、赤いバラの屋敷の人たちと屋敷商会の会頭さん親子は、屋敷に帰った。



屋敷の応接室


座っているのは、俺、アイちゃん、会頭さん。他には会頭さんの息子さん、執事のサタールさん、メイド長のジュリさん、お付きのメイドさんたち5人が立っている。


「すばらしい演奏でした。それは、とても言葉にできるものではありません。ありがとうございます、巫女様」

「いいえ、これも会頭さん方が、この土地を守って来られたおかげです」


会頭さんとアイちゃんの会話で始まる。


「前回お会いしたときに比べて、身体が成長されていますが?」

「はい、最初に聖なる響きの館に入ったことで、変化が起きたようです。これが私の本来の姿です。300年前にご先祖様、当時の巫女長様が、私に魔法をかけていたのではないでしょうか」

「なるほど、すべてはご先祖様の導きでしょうか」

「はい、私はそのように思います」


アイちゃんの受け答えが大人っぽくなった。やはり15才、大人なのか。


「音楽魔法一族の族長様たちが現在住んでいらっしゃる場所はどこでしょうか?」

「今は森の中としか言えません。いつかは詳しいことがわかるでしょう。ご先祖様がかけた魔法でそうなっているようです」


「そうですか。では、一族の方はこの地に帰って来る意思はありますか?」

「はい、私たちにとって、ここは失われた故郷、帰るべき場所ですから」

「わかりました。一族の方々の帰還に備えて万全の準備をいたしましょう」


会頭さんが俺の方に視線を向ける。


「アース様、聖なる響きの館の復活に助力して頂きありがとうございます。これで我が一族300年の願いを叶えるための第1歩が踏み出せます。この御恩、決して忘れることはありません」


深く一礼する会頭さんと息子さん。そして、言葉を続ける。


「この土地に一族の方々を受け入れてよろしいでしょうか? またその準備を始めたいのですが、これもよろしいでしょうか」

「もちろんです。ここは音楽魔法一族の土地ですから。それで準備とは具体的に何でしょうか?」


「まず、この屋敷とアルタイルの森に転移陣を2対設置します。安全対策として、この屋敷とアルタイルの森の間だけで転移可能な転移陣とします。1対は少人数用のものを、屋敷の門の転移陣の近くと聖なる響きの館の近くに設置します。


もう1対は大量の荷物用の大転移陣を、この屋敷の大転移陣の近くと森の適した場所に設置します。森の場所はこれからの調査により決定します」


確かに、ここから森まで馬車で1時間かかる。大量の物資も運び込まれるだろうから、転移陣は必要だ。


「他にはどんなことがありますか?」

「いろいろな調査です。生活用水のための川、湖に注ぎ込む川と湖から流れ出る川の場所の調査、林の木の種類と本数、大きさの調査などです。先祖はこの日のために家の建築に適した木を植えていたようです。他にもたくさんあります」


「それは大変ですね。私の許可を得る必要はありません。この屋敷の人たちにも協力してもらってください」

「ありがとうございます。商会の総力をあげて実施します。建築、建造の詳細は、帰ってこられる方々のご要望を聞いてからになります。その時、すみやかに実行できるように準備をしておくのです」


会頭さんは、熱を込めて語った。すごい意気込みだ。その後、執事さんとも打ち合わせをしてから帰られた。



 着替えてから、お花池のちょうちょう島でお茶することにして、私室に帰って

来た。着替えは終わったが、おかしい。何かがおかしい。


まず、メイドさんの数だ。いつもなら、着替えは女の子の方がいろいろ大変だから、アイちゃんに3人、俺に2人なのである。それが、今は俺の部屋に3人いる。そして、様子が変だ。


カルメさんは何かを期待しているのかわくわくした様子、ガリレさんは緊張してガチガチになっている。アマルさんは顔を真っ赤にして、モジモジが止まらない。


3人並んだところで、カルメさんが口を開いた。


「御主人様、お嬢様のお許しも頂けました。ホッペにチューしてもらいませんか。今はお嬢様もいらっしゃいませんから」


そうだった。アイちゃんが許可したのだ。まあ、ホッペならいいか。


「わかった。では3人とも横を向いて目を閉じて」


順番にした。反応は、3人それぞれ違う。カルメさんは両手で拳を握りガッツポーズ、ガリレさんは固まった。アマルさんは座り込んで、顔を手で隠している。


しばらくして、立ち直った3人は、なにやら話し合っていたが、カルメさんが言ってきた。


「御主人様、ありがとうございます。3人とも同じですが、とてもいい気持ちになりました。何か甘いものが身体に入ってくる感じがしました。それから、予想していなかったのですが、今なら魔法が使える気がします」


「えっ、どういうこと? 詳しく話してください」

「私たちは全員、手からほんの少し水を出すことができます。それは水魔法とはとても言えない量です。だから、魔法が使えるとは言えないレベルです。でも今はもっと水を出せる気がするのです」


試してみたいと言うので、4人でバスルームに向かう。まず、カルメさんが浴槽の上で手のひらを下に向けて詠唱する。


「水魔法 水流」


水が流れ出た。どんどん出た、浴槽に3分の1ほど貯まるほど出た。カルメさんは驚き、感激している。ガリレさんとアマルさんも水量に多少の違いはあるが、ほぼ同じ結果だ。


3人は急いで部屋を出て行き、すぐにヒマリアさん アナンさんが来た。アイちゃんのお世話を交代したのだろう。まずは、2人にバスルームで手から水を出してもらう。本当に少しだけ、チョロッと水が出た。ホッペにチューをしたら、水がたくさん出た。前の3人と同じだ。不思議なこともあるものだ。



お花池のちょうちょう島


「お嬢様、ご主人様のホッペにチューはとても気持ちいいです」

「そうです、とても甘いものが身体に流れ込んできます」

「まるで天国にいる気持ちになります」


メイドさんたちが口々に言う。黙っていられないらしい。アイちゃんは、


「そうでしょう、そうでしょう。アレはクセになりそうよ」


とてもおおらかである。これでいいのか? 俺は思わず聞いた。


「アイちゃんは嫌じゃないのか?」

「あらどうして? みんなで仲良くなれるわよ」


そこに、パシファさんが褐色の冷たい飲み物を持ってきた。


「南の大陸の飲み物でコーヒーです。夏は冷やして飲むらしいです」


パシファさんにカルメさんが話しかける。


「パシファもご主人様から、ホッペにチューしてもらえば? 気持ちよくなるわよ」


パシファさんは、ビックリして、顔を真っ赤に染めて走って逃げてしまった。


「ガリレ、パシファはまだ14才で子どもだからダメよ。15才になってからよ」


ヒマリアさんがガリレさんをたしなめると、ガリレさんが応ずる。


「あら、パシファも音楽魔法の一族だからいいと思うけど。お嬢様はどう思われますか?」。

「14才でも、ホッペにチューくらいはいいと思うわ。ところで、お兄様は何才でしょうか?」

「17才だけど? メイドさんたちは何才ですか?」


ヒマリアさんが答える。


「私が17才、カルメとアマル、ガリレが16才、アナンが15才、パシファが14才です。全員独身の音楽魔法の一族です」

「そうか~、俺たち年齢が近いね」


「ご主人様、お願いがあります。私たちはメイドですし、ご主人様の方が年上ですから、名前に『さん』を付けないで呼んでください。それから、口調も命令形でお願いします」


それを聞いたメイドさんたちの声がそろった。


「「「「お願いします。」」」」

「わかった。話は変わるけど、メイドたち、明日水魔法が使えるか試してくれ。水魔法が使えるようになったのが、体質が変わったためか、吸収した俺の魔力を使ったためなのか知りたいから」


ガリレが質問する。


「使えなかった時は、また、ホッペにチューして頂けますか?」


あっ、そこまで考えていなかった。どうすべきか?


「アイちゃんはいいのか?」

「私より回数が多くなるのは駄目よ。少なければいいわ」


それを聞いたガリレが言う。


「それでしたら、毎朝お嬢様から順にホッペにチューして頂ければ良いともいます。どうでしょうか?」

「それは、いい考えだわ。そうしましょう」


 俺の意見は全く聞かれることなく、話が進んでいる。俺は、アイちゃん1人だけがいい。一度アイちゃんとじっくり話し合う必要がある。


名前を呼び捨てにすることは、違和感がある。でも、親近感、仲間になった感じがあっていいかもしれない。それにメイドたちも、呼び捨てにされて嬉しいみたいだし。慣れれば違和感も消えるかもしれない。


こうして、いろいろと緊張した1日が終わった。



お読みいただきありがとうございます。

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参考

 「四季」  作曲  ヴィヴァルディ



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