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第14話 一族の言い伝え

 赤いバラの屋敷で働く従業員の中で、魔法を使える人について執事のサタールさんに尋ねた。


「屋敷の従業員さんの中に魔法を使える人は何人いるのですか?」

「魔法が使えると言えるレベルでは、メイドは7人です。水魔法と風魔法が使えます」

「どう使うのですか?」

「主に掃除のときですね。水は拭き掃除で、風は高い場所のホコリを払うときに使います」


「なるほど。仕事に使うのですね」

「料理人は1人です。火魔法と水魔法が使えます」

「魔導具があるけど、火も水も料理に必要だから、使えた方がいいですね」


 やはり仕事に関係する魔法が使えるようだ。


「花壇関係と農園、果樹園、牧場関係は土魔法と水魔法が使える者が多いです。合計で10人です」

「植物関係は土と水ですか?」

「そうです。警備隊は全部で8人、火水風土が6人、回復魔法が2人です」

「合計26人ですね。では1人に1本、これを差し上げてください」


昨日、将棋の屋敷で購入した竜王丸のビンを26本机に並べる。


「これは何でしょうか?」

「1粒で魔力回復ポーション1本分の効果がある龍王丸です」

「ありがとうございます。みんな喜ぶと思います」


「よろしくお願いします。ところで、アイちゃんはどこにいるかご存じですか?」

「お嬢様は先ほど玄関前にいらっしゃいましたが」

「ありがとうございます。行ってみます」


玄関へ行ったらアイちゃんとヒマリアさん、アマルさんがいた。3人で楽しそうに話している。


「アイちゃん、ここで何をしているの?」

「赤いバラの花がぜ~んぶ咲いたから、この道の名前を考えていたわ」


ヒマリアさんが苦笑いして言う。


「お嬢様ったら、もう20回もこの道を往復されたのですよ」


アイちゃんが照れたような笑顔で答える。


「赤いバラがとってもきれいだから、歩いてバラを見ながら考えていたの。でも、もう決めたわ」


お~、決めたのか。どんな名前なのかとても気になる。


「なんて名前に決めたのかな?」

「赤のだんだん道よ。バラの花の色がだんだん濃くなるから」


 たしかに、門付近の薄いピンクから玄関付近の深紅まで、バラの花の色がだんだん濃くなっている。見たままの通りだが、納得だ。


「いい名前だ。赤のだんだん道に決定しよう」

「わ~い、赤のだんだん道だ~」

「ところで、アイちゃん。いつも魔法のトレーニングを頑張っているから、プレゼントがあるけど、受け取ってくれるかな?」


「えっ、ホント~、なあに?」

「龍王丸と言ってね、魔力がなくなった時、1粒飲むと魔力が復活するアメみたいなもの。アメみたいに甘くないけどね」

「わ~い、わ~い、やった~、お兄ちゃん、だ~い好き。魔法のトレーニングがいっぱいできるわ~」


アイちゃんは、とても嬉しそうだ。飛び跳ねている。


 そこに執事のサタールさんがやって来た。


「お嬢様がとても嬉しそうですね」

「ああ、門から玄関までの道を『赤のだんだん道』と名付けたことと竜王丸を

プレゼントされたことを喜んでいます」


「それは宜しかったです。ところでご主人様、屋敷商会会頭様からの連絡が、今届きました。屋敷の権利関係の書類を渡したいが、都合のいい日はいつかとの問い合わせです。こちらの都合に合わせるそうですが、いかがしましょうか?」


お礼も言わなくてはいけないし、屋敷の権利の書き換えは速い方がいい。そう考えて返事をした。


「明日の午後でお願いしたい、と返事してください」

「承知しました。そのように返事しておきます」


執事のサタールさんが門に向かった後、アイちゃんたちと俺の私室に行く。プレゼントの龍王丸10粒が入ったビン10本を渡したら、また喜んでくれた。こちらもニッコリしてしまう。1日1粒だけと念を押しておく。まだ小さいから、魔法の練習しすぎは身体によくないから。


ヒマリアさん、アマルさんがほっこりした様子で見ていたけど、少しうらやましそうな様子がした。お付きのメイドさんたち5人には、後で何かプレゼントをしよう。何がいいかな? 魔法が使えるなら龍王丸がいいかな。



翌日の午後


 今、応接室にいる。俺の正面には高価そうな服を着た、1人の赤髪青目の中年男性が座っている。屋敷商会の会頭さんだ。商人だから、人と話すときは笑顔かと思ったが、緊張した表情をしている。その後ろに若い黒髪青目の男性が立っている。顔が似ているから息子さんかもしれない。この人も緊張している様子だ。


こちらは、俺と隣に座るアイちゃん、後ろに執事のサタールさんとメイド長のジュリさんが立っている。会頭さんが口を開いた。


「初めまして、屋敷商会の会頭のマーチャと申します。本日はお忙しいところお邪魔して申し訳ありません」

「初めまして、アースです。こちらがアイちゃんです。この屋敷をプレゼントして頂き、とてもありがとうございます。そして、わざわざ来ていただきありがとうございます」


「とんでもありません。私の方からお伺いするのが当然です。早速ですが、この屋敷と周辺の土地の権利に関する変更手続きの書類をお渡しします。アース様のサインをして頂くだけになっております。ご確認ください」

「サタールさん、お願いします」


サタールさんが書類を持ち、一礼して退出する。確認しにいくのだろう。


「もっと早く書類を持参すべきでしたが、私が転移陣のない遠い国へ商談で出かけておりました。遅くなって申し訳ありません。この書類は会頭が直接お渡しするよう、先祖代々言い伝えられているものでして」

「いえ、お気になさらないでください。先祖代々伝えられているとは、何かあるのでしょうか?」


「はい、まず不躾なお願いをいたします。花札の屋敷のトーフーに聞いたのですが、そちらのお嬢様が音楽魔法の杖と黄金色の横笛をお持ちとか。よろしければ、拝見させていただけませんか?」


俺はアイちゃんの方を向くと頷いた。すると、アイちゃんが詠唱する。


「黄金のクラーフル アウト」


黄金色の横笛が現れる。続けて詠唱する。


「虹色のタクト アウト」


音楽魔法の杖が現れる。それを見たマーチャさんと若い男の人は驚いている。そして、しばらく無言だったが、目に涙を浮かべてマーチャさんが言う。


「こ、こ、これは正しく、言い伝え通りの音楽魔法の杖と黄金色の横笛。まさか、私の代で目にすることができるとは」


マーチャさんはボロボロと涙を流し、しばらく無言の時が過ぎた。やがて、涙を拭いたマーチャさんが続ける。


「失礼しました。私の家には先祖代々の言い伝えがあります。それは今から300年くらい前のことです。この国、ソーミュスタ王国はまだ小国で、この土地は王国の自治領でした。


この土地には音楽魔法の一族が住んでおり、族長は公爵相当の地位を与えられていたのです。この地は聖獣『黒きカメ』に守られ、魔物や魔獣のいない土地でした。湖には魚が多く、森では果物や木の実が豊富で、動物もたくさんいて、音楽魔法の一族は平和で幸福な生活を送っていました。

 

森に生えている綿や麻、カイコが作り出すシルクから布を織り、その布をベニバナやシコン、アカネなどで染色した物は、王都で高価で売れていました。音楽魔法の一族の中には、他の魔法は使えるけど、音楽魔法を使えない者もおりました。


音楽魔法を使えない者の多くは、王都に構えた商会で働き、この土地で織られた布や森で取れた果物などの販売をしていました。これらは高価で売れるのでたくさんのお金を稼いでいたのですけど、一族は生活に必要な最低限の物にしかお金を使いません。


ですから年々、莫大なお金が商会に貯まっていきました。そして、我が家の先祖は音楽魔法一族の財務担当の重臣であり、その商会の会頭だったのです。

 

ある時、この土地の東にある国が、突然山々を超えてこの地に攻め込んできたのです。その国はこの国ととても友好的な国で、攻め込んできた理由は今でもわかっていません。当時のこの国の王は怒り、我が国の最強部隊、星魔法の一族を送って、侵略者を追い出したばかりか、その国を滅ぼしてしまいました」


ここでマーチャさんがお茶を口にしたので、気になったことを質問する。


「聖獣『黒きカメ』がいるのに攻め込まれたのですか?」

「聖獣は、魔物や魔獣を攻撃しますが、人間同士の争いには関わらないと伝えられています。聖獣は、北の黒きカメ、東の青きリュウ、南の赤きスザク、西の白きトラの4体がいるとのことです」


「なるほど、わかりました。お話を続けてください」

「当時の会頭や商会の者は、あわててこの地に来ました。しかし、目にしたのは焼け落ちた多くの家、工房、荒らされた農園だけで、生存者は1人もいませんでした。そして、考えたのです。北の山々を超えてオールト大森林へ逃げたのだろうと。


大森林にはA級、B級の魔物、魔獣が溢れています。しかし、音楽魔法を使えば、どんな魔物、魔獣も近寄って来ませんから逃げられる、そして、誰も追ってこられないと。

 

当時の会頭たちには、追いかけることができませんでした。音楽魔法が使えませんから、大森林に入ることは、そこで人生が終わることになります。


ただ1つ、希望はありました。聖なる響きの館の残骸がなかったことです。つまり、聖なる響きの館は、音楽魔法で隠されたのです。その館がある限り、一族がこの地に帰って来るかもしれないと思えたのです。聖なる響きの館は音楽魔法一族にとって、もっとも重要なものなのですから。


ただ、その館を復活させることができるのは、音楽魔法だけなので、先祖たちにはそれ以上のことはできませんでした。


当時の会頭は、残された音楽魔法一族の中で一番高い地位にありました。そこで、残された一族の者をまとめ、今後の方針を定め、働きました。布販売の代わりの商売を開始、行方不明になった一族の捜索拠点として、国内には屋敷シリーズを、国外には支店を次々と開設。豊富な資金によりどれも成功しました。


 一方、王宮と交渉して、この土地の所有者を屋敷商会にしてもらいました。会頭が音楽魔法一族の者であるのは知られていましたから、手続きもスムーズに進みました。そして、集落の残骸の整理や荒れた農園などの整備を行いました。この屋敷の建築なども手掛けました。この屋敷には主人はおらず、従業員たちだけが来る日に備えておりました。


 そして、今、ついに300年待った先祖代々の願いである音楽魔法の使い手を迎えることができました。我が家、我々商会にとってこれ以上の喜びはありません。


しかも、お嬢さんの持っておられる黄金の横笛には紫色のチョウチョウの絵があります。これは音楽魔法の族長家の印と伝えられております。お嬢さんは族長の娘さんではありませんか?」

「わからないわ。花札の屋敷にいたことより前のことは何も思い出せないの」


アイちゃんがそう言うと会頭さんは肩を落とした。ひょっとしたらと期待していたのかもしれない。でも、俺も言うべきことがある。


「お話はよくわかりました。アイちゃんが15歳になったら、この屋敷と土地をアイちゃんのものにします」


会頭さんが、深く一礼して言った。


「ありがとうございます。もう1つ言い伝えがあります。それは、『星の導きにより、願いは叶う』と題されている言い伝えです。


森の中の林に立つ狩人と大きな犬の教える場所の穴に、音楽魔法の杖を立て、その前で子犬の踊る曲を演奏するがよい。そうすれば、聖なる響きの館が姿を現すであろう。


というものです。どうか、聖なる響きの館を探してください。お願いします。

私たちにできることは何でもします。


最後に、騎士団へのお嬢さんの迷子届の件は、私の方で問題の無いように手続きをしますからご心配なく」

「わかりました。発見できるかはわかりませんが、全力を尽くします」


この素晴らしい屋敷をプレゼントしてもらったし、300年もの長い年月の願いだ、協力するに決まっている。頑張ろうと決意して答えると、執事のサタールさんが入室してきた。


「書類の確認ができました。あとは、ご主人様がサインされるだけです」


それを聞いて、マーチャさんが言う。


「では、これで失礼しますが、音楽魔法一族の事で何かわかりましたら、お知らせください。私か、後ろにおります息子のザイのどちらかが、屋敷商会本店におりますので。お願い致します」



会頭さんと息子さんが帰られた後、執務室で何枚もの書類にサインをした。大変だった、手が疲れた。後でカルメさんにマッサージしてもらおう。そう考えていたら、サインを確認していたサタールさんがコホンと咳払いをした。


「ご主人様、星魔法を使われたとメイドに聞いた時から、おそらくと思っていたのですが、ご主人様はあの大貴族家の方だったのですね」

「そうです、次期当主です。メイド長のジュリさんや幹部のみなさんには伝えてください。別に秘密にする必要はありません」


そう、俺の名前はアース フォン ステラ。ステラ公爵家の次期当主である。




お読みいただきありがとうございます。

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参考 「ステラ」(フランス語 stella)は「星」(日本語)

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