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第13話 将棋の屋敷

戦闘がメインの話です。苦手な方はパスしてください。

 師匠からの手紙に書かれていた飛車の部屋とは、将棋の屋敷にある部屋の中の1つの部屋ことだ。俺が1年間王都を離れて、師匠の下で修行をした理由も飛車の部屋を攻略するためだった。


師匠には厳しい修行をつけてもらった。もう一度基礎からやり直した。瞬発力、持久力、集中力、想像力すべてにおいてだ。体力、精神力のすべてで基礎訓練からだ。これが8割。倒れない高い建物を建てるためには、しっかりした土台を作ることが大事だ。それと同じ事である。


残りは師匠との模擬戦闘、剣は木剣、魔法は威力を最低に押さえてだが。師匠はかなりの高齢で体力は衰えているが、魔法を使うための精神力、想像力、集中力は衰えていない。いや、経験を積んでいる分、成長しているかもしれない。


強い身体を作るための、栄養バランスのとれた美味しい食事も含めて、師匠には1年間、大変お世話になった。


今は6月、王都に来てから2ヵ月以上経つのに何の連絡もしていないから、師匠も気になったのだろう。本当に申し訳ないことをした。明日、将棋の屋敷へ行こう。そして、いい結果を報告しよう。



翌朝、ガリレさんに起こされる前に、冷水でシャワーを浴びた。身を清めるためだ。調理長のテミストさんにお願いして、朝食にウインナーも出してもらう。勝つ丼や勝カレーは朝食には重い。ウインナーくらいがちょうどいい。


ウインの意味は「勝つ」である。だから、俺にとっては勝利祈願の食べ物である。いわゆるゲン担ぎだが、「勝つ」思いを強くするには効果があるはずだ。そう思いたい。


いざ、出陣。赤いバラの屋敷から転移して、将棋の屋敷の正面に出る。将棋の屋敷の建物は、屋根に瓦と呼ばれる焼き物を敷き詰めた、倭国風の平屋の建物である。そう、花札の屋敷と同じ建築様式である。将棋は倭国から伝わったボードゲームなのだ。この国でも人気のボードゲームだ。


門から玄関までの道には、とても小さい石が敷き詰められている。道の両側にはコケのついた小さい石が、途切れなく置かれていて、道と庭の境目を示している。

庭には、いろいろな形の大小の石が置かれていて、花や草、木はない。石庭と言われていて、石だけの庭で何かを表現している様式とのことだ。


玄関に入ると倭国の巫女風の服装の女の人が待っていた。白い小袖に赤い袴、腰までの長い黒髪を白い紙で1つにまとめている。清楚な雰囲気の女の人だ。


「ご予約のアース様でしょうか?」

「はい、アースです」

「今日はどの部屋への案内をご希望でしょうか?」

「飛車の部屋への案内をお願いします」

「承知しました。こちらへどうぞ」


途中の廊下は門から玄関までと同様の、石で作られた庭に面している。心が落ち着く。戦いの屋敷にふさわしい庭だ。庭を眺めながら、ゆっくりと進み受付の部屋に着く。


受付には倭国の神官風の服装の男性がいた。


「いらっしゃいませ。ご予約のアース様ですね」

「はい、アースです」


「ご存じとは思いますが、この部屋の戦いは危険でして、お客様の安全のためにチャレンジされる方はある程度強い方に限らせてもらっております。ですから、チャレンジされる方の強さを確認させていただくことになっております。何か強さを証明できるものをお持ちでしょうか?」

「このカードでいいでしょうか?」


俺はポケットから、冒険者カードを取り出して渡す。それを見た男性が、


「これは大変失礼しました。A級冒険者の方でしたか。チャレンジの資格は十分にあることを確認させていただきました。ありがとうございました。カードはお返しします」


冒険者のランクは最上位のS級から最下位のF級まである。我が国のS級冒険者は1人だけで、その1人も現在は冒険者活動をしていない。A級冒険者も2人しかいない。A級冒険者である俺にチャレンジ資格はあるだろう。


「入場料はお1人様銀貨5枚です」


銀貨5枚を支払うと、説明を続けてくれた。


「この部屋限定の販売品があるのですが、これはチャレンジ成功後に説明いたします」

「わかりました。楽しみにしています」

「それでは、このボードをご覧ください。飛車の部屋の獲得賞金を確認できます。よろしいでしょうか」


「将棋の屋敷」コース一覧

No1 歩兵の部屋  獲得賞金  金貨3枚 

No2 桂馬の部屋  獲得賞金  金貨4枚

No3 角行の部屋  獲得賞金  金貨10枚

No4 飛車の部屋  獲得賞金  金貨20枚


「確認しました」

「ルールを説明します。チャレンジの開始と終了の合図は太鼓で行います。制限時間の60分になったとき、勝敗が決したとき、チャレンジャーが危険な状況になったと判断されたときに終了の太鼓の音が鳴ります。


勝利の条件は対戦相手の角を切り落とすことです。戦闘エリアには結界が張られているため、外へは出られません。以上ですが、なにか質問はございますか?」


「ありません」

「それでは、この部屋へ案内した者が戦闘エリアにご案内します」


倭国の巫女風の服装の女の人と一緒に転移陣へ入る。転移先の転送陣から出たら、見渡す限り一面の砂漠だった。激しい戦いが予想されるから、環境に与える被害を最小限にするためだろう。


「戦場はあちらです。歩いて行ってください。アース様が戦場に入られると結界が張られます。もしケガをされても、私が回復魔法で治療しますから、安心して戦ってください。ではご武運を」

「ありがとうございます。では」


案内の女の人に見送られて、戦場へ向かう。しばらく歩くと結界が張られた。いよいよ戦闘開始だ。1年前にもチャレンジしたから、相手のことはわかっている。


「飛車」だ。飛ぶ車だ。車は馬車から馬を除いたもの、荷馬車ではなく、箱馬車の方だ。


すべての面が鉄で覆われていて、上面以外は1つの面から2本の槍が突き出ている。元は馬とつなぐための棒が変化したものだ。安全のため、槍先は丸めてある。それでも当たると気絶するらしい。上面には1本の鉄製の角。この角を切り落とせば俺の勝ちだ。


さて、相手が現れる前に準備をしよう。相手は空を飛べるのだから、こちらも空を飛ばなくては圧倒的に不利だ。白鳥ではなく、戦闘用の鳥を準備する。


「星魔法 わし座」


体長5mのワシが隣に現れた。次に愛用の武器を準備する。背中の剣の柄を握り詠唱する。


「星魔法 ペルセウス座の剣」


ペルセウスは神話に登場する英雄だ。右手で青く輝く剣を引き抜く。鉄を紙のように切る剣、俺の愛剣だ。ワシの背に乗り、空へ舞い上がる。


 遠くの空間が光り、飛車が出現した。


「ドドーン ドドーン ドドーン」


戦闘開始の太鼓が鳴り響いた。前回の通りなら、ワシの最高スピードの7割程度のスピードで十分戦えるはずだ。飛車の方へ飛んで行く。飛車もこちらへ飛んでくる。衝突直前で急降下する。飛車も追跡してくる。急上昇する。飛車も追跡してくる。右旋回、左旋回、宙返り、飛車も追跡してくる。


ここまで飛車の動きを観察したが、前回と同じだ。前後左右、垂直どの方向も直線の動きしかできない。方向を変えるときは、直角にしか曲がれない。よし、弱点も一緒だ。方向転換する時に一瞬、動きが止まる。


飛車の前方に出て逃げる、いや、追いかけさせる。ある程度直線飛行したところで、全速力で右旋回する。遠心力が強いが耐える。旋回する、旋回する、飛車が見えた。飛車は方向を変えるために、動きが鈍い。斜め方向から突っ込む。


角を剣で一閃する。何かに当たった感触はなかったが、角が飛んで行くのが目に入った。


急いで飛車から離れる。振り返ると飛車が眩しく光り、そして、消滅した。ここまでは前回と同じだ。これで終わりではない。飛車は相手陣に入ると成ることができる。成ると駒の表と裏をひっくり返す。飛車の駒の裏には、ある文字が書かれている。その文字は「龍王」、龍の王様、ドラゴンキングだ。


成るとは、変身だ。龍王に変身してパワーアップする。龍王も倒さないと、飛車の部屋のチャレンジ成功とはならない。戦いの本番はここからだ。


竜王は飛車の動きに加えて前後左右、垂直の斜め方向にも進める。飛車のようにスピードだけを武器に勝てる相手ではない。さらに、口からブレス、炎を吐くのだ。1年前は攻略法を見出せずに制限時間が来てしまい、チャレンジ成功とならなかった。


帰ってから、攻略法を模索した。まず考えたのはメテオフラッシュなどの強力な攻撃魔法。これは龍王が倒れると龍王の体が消滅するから、角を切り落とせない。次にブラックホールに吸収する。これも龍王の体が消滅するからダメだ。


行き詰った俺は、戦いを振り返り、龍王の弱点はないか検討した。動きに弱点はない。鱗もとても硬い。勝つチャンスがあるとすれば、炎のブレスを吐く時だろう。    


攻撃する時に、防御への注意が最も低くなるからだ。口を開けてからブレスを吐くまで、数秒だが時間がかかる。次に戦いの終盤になると、ブレスを吐く回数も減ったし、勢いも弱まった。魔力も無限ではないようだ。


このチャンスを生かすことを基本に戦術を考えた。その結果、1年前の俺では足りないものがあると結論した。だから。師匠の下に行き修行したのだ。


毎日毎日、走った、走った、走った。腕立て伏せは何回やっただろう。腹筋を鍛え、バーベルを持ち上げた。そして栄養バランスの取れた美味しい食事。食事だけが楽しみだった。そうだ、基本から鍛えなおしたのだ。


新魔法の会得なんてしていない。いつだって基本が大切。この1年間で体力も魔力保有量もかなり増えたのだ。

 

天空から音楽が鳴り響く。『ワルキューレの騎行』だ。遠くで眩しい輝きがあり、龍王が現れた。赤い龍だ。体長は30mくらいか。細長い体型、ヘビの大型みたいな体型で頭に角が1本ある。


いざ、戦闘開始。正面から向かう。竜王の口が開いた、炎のブレスが来る。右急旋回、そして急上昇。炎のブレスが少し離れた場所を通り過ぎる。余裕だ、余裕でかわせる。


頭の角を目指して接近しようとするが、炎のブレスに阻まれる。おっと、尾による攻撃が来た。油断大敵、炎のブレスに気をとられていた。真上から、真下から攻めるがダメだ、近寄れない。いや、まだまだ、攻め続ける。


20分くらい過ぎたか。炎のブレスの間隔が長くなり、尾による攻撃が増えてきた。俺は体力、魔力量ともにまだまだ余裕だ。よし、そろそろ頃合いか。


竜王から距離をとり、詠唱する。


「星魔法 りゅう座」


体長30mくらい、水色、龍王と同じ体型の龍が現れる。俺は龍の上空5mくらいに位置して、龍王に向かう。


両者が近づき、50mほどの距離で、龍王が炎のブレスを吐いた。俺の水色の龍は水のブレスを吐く。炎と水が衝突し、水蒸気が巻き起こる。威力は互角、両者一歩も引かない。その状態が10分ほど続いた。しかし、徐々に水が炎を押し始めた。やはり、竜王は疲れていたか。魔力がかなり減っているようだ。


剣を上段に構え、ワシにゴーサインを出す。全速力で発進。水蒸気の壁を乗り越え、急降下すると目の前に龍王の角があった。剣を振り下ろす。手ごたえがあった。竜王の角は飛車の角より硬かったようだ。少し手ごたえがあった。


ドドーン ドドーン ドドーン


戦闘終了の太鼓が鳴り響く。


地上に降り立つと、結界が消えたので転送陣へ向かう。倭国の巫女風の服装の女の人が出迎えてくれた。


「飛車と龍王の撃破、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「では、こちらへ」


受付に戻ると、神官服風の服装の男性が歓迎してくれた。


「飛車の部屋のチャレンジ成功おめでとうございます。50年ぶりの快挙です」

「ありがとうございます。強敵でした」

「獲得賞金の金貨20枚です。お受け取りください」


皮袋が目の前に出される。持つとずっしりと重い。続けて説明される。


「チャレンジに成功された方を対象に、ここだけで販売される龍王丸を購入できますが、いかがですか」

「龍王丸とはどんなものでしょうか?」


「魔力回復ポーションと同じ効果があります。1粒でポーション1本の効果があります。ポーションより速く摂取できますし、お腹が膨れることもありません。持ち運びも便利です。10粒入りのビン1本が金貨1枚、50本まで購入可能です」

「50本ください」


即座に購入を決めた。ポーションに比べて、利点が多いからだ。金貨50枚を支払う。荷物が多くなったので、その場から転移し、将棋の屋敷から赤いバラの屋敷に帰った。


「お兄ちゃん、お帰りなさい」


屋敷の玄関に入ると、ちょうど廊下を歩いていたアイちゃんが抱きついてきた。


「ただいま。今日は楽しかった?」

「うん。とっても楽しかった。メイドさんたちとたくさん遊んだの」


戦いの後、帰った時に迎えてくれる可愛い人がいると癒される。とても癒される。


すぐに師匠への手紙を書いた。


「師匠、飛車の部屋を攻略しました。これも師匠のおかげです。ありがとうございます」


手紙を持たせた青い鳩を窓から放った。うん、充実したいい1日だった。


お読みいただきありがとうございます。

良かったら、誤字報告・評価等お願いします。


参考

ワルキューレの騎行  作曲 リヒャルト・ワーグナー

楽劇「ワルキューレ」第3幕より


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