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第10話 お買い物

 朝食の時、アイちゃんにオネダリをされた。


「お兄ちゃん、私、今日お買い物に行きたいの」

「何か欲しいものがあるのかい?」

「ううん、ただお買い物に行きたいの。王都の街のことも知りたいし。お金は自分で払うから。ダメかな?」


そうか、アイちゃんは昨日1ヵ月分のお小遣いとして、執事のサタールさんから金貨6枚をもらったのだった。でも買いたいものが明確じゃないお買いものは困る。これはテミストさんと同じ立場である。調理長のテミストさんも困っていた。


「お嬢様、何か食べたい料理はございますか?」

「そうね、美味しい料理が食べたいわ」


料理スキル「シェフの頂点」持ちのテミストさんの料理はすべて美味しい。アイちゃんも俺も毎食、完食している。最近、アイちゃんはピーマンが入っている料理でさえ完食している。


俺も子供の頃、ピーマンが嫌いだった。苦かったのだ、ピーマンは。周りの大人がパクパクとピーマンを食べているのを見て、思ったものだ。ピーマンは俺に食べられたくなくて、わざと味を苦くしていると。

 

おっと話しがそれた。テミストさんほどの料理人でも献立を考えるのは大変なのである。「何か美味しいもの」というリクエストは悩みを深くするだけなのだ。


さて、どの店に連れて行こうか? 洋服店はどうだろう。カワイイ服を欲しがるだろうか。いや、ガリレさんの作る服は洋服店の服以上だ。お菓子を売っている店か? メイドスキル「スイーツの恵み」を持つアマルさんの手によるお菓子に勝るお菓子はない。他の物を考えよう。


子どもの欲しがる物は何だろう? オモチャはどうだろう。わからない。メイドスキル「子どもへの慈愛」を持つヒマリアさんに相談してみるのがいいだろう。そう思ってヒマリアさんを探したがいない。

  

ヒマリアさんがどこにいるのか、メイド長のジュリさんに聞いたら。即答だった。今日は遅番だから、昼過ぎから出勤だと。さすが、メイドスキル「メイドの管理者」の持ち主である。ヒマリアさんの代役のメイドさんが付いているのだが、ヒマリアさんが出勤するまで待つことにした。


昼過ぎ、出勤してきたヒマリアさんと相談するとすぐに返事が返ってきた。


「ご主人様、オモチャを買うべきです。子どもにはそれぞれ好きなオモチャがありますから。特に自分で選んだオモチャは大切にしますよ。」


アイちゃんに尋ねたら、ぜひオモチャを買いに行きたいと言うので、オモチャを買いに行くことにした。メンバーは俺とアイちゃん、ヒマリアさんの3人。ただ、王都にはオモチャ店はなく、魔導具店の売り場の1つに、オモチャ売り場があるそうだ。



魔導具店の近くの転移陣まで転移した。アイちゃんは、途中の店のショウウィンドウに並べてある商品をジーと見て動かなかったり、気になるものを見つけたのか、突然走り出そうとしたりして世話が大変だった。


これまでの礼儀作法のトレーニングで習ったことは忘れたようである。街で見るものが珍しいのだろうか。ここは王都だから、他の町より栄えているのは確かだが。

 

結局、アイちゃんの右手を俺が、左手をヒマリアさんが手を繋ぐことにした。それでも、急に手を引っ張られ、


「あっちに行くの~」


とか、急に手が重くなり


「もっとこれを見る~」


とか大変だった。公園前の綿菓子の屋台前が一番動かなかった。


「魔法の雲、食べた~い」


しょうがないので、1つ買って公園の中で食べてもらった。ついでに俺とヒマリアさんも買って食べたのだが、結構美味しい味だった。


「この雲は甘~い。お空の雲も食べた~い」


これはさすがに諦めてもらった。無理なものは無理だから。その代わりに俺の分の綿菓子を渡してあげた。


口や手が汚れたので、木立の中へ連れて行き、人がいないことを確認して、詠唱した。


「星魔法 みずがめ座」


空中に斜めになった水瓶が現れ、水が流れ落ちる。それで口や手を洗ってもらう。拭くための布は、ヒマリアさんが差し出した。


公園の中には、シーソーやスベリダイなどがあったが、アイちゃんはブランコが気に入ったようで、ブランコから降りようとしなかった。俺やヒマリアさんが、アイちゃんの背中を押してあげたのだが、これが良かったようだ。


「もっと強く~。高いところまで~。ワアー、高~い、ワアー」


と大はしゃぎであった。屋敷にもブランコを作ってあげよう。木工職人の人に頼めば大丈夫だろう。


そんな感じで、たくさん寄り道をして、やっと魔導具店に着いた。


「いらっしゃいませ」

「オモチャが欲しいのですが」

「売り場は左奥になります。こちらへどうぞ」


オモチャ売り場にはいろいろなオモチャがあった。各種のボードゲーム、赤色や青色に光るボール、走る馬車のオモチャ。やっぱり女の子だなと思ったのは、歩くお人形を選んだときだ。


魔導具のオモチャで、背中のボタを押すと歩いたり、止まったりする仕組みになっているオモチャである。外見は町娘風の服を着た、青色の髪、エメラルドグリーンの目をした女の子のお人形だ。そのお人形にアイちゃんが話しかける。


「あなたの名前はフェネよ。これからよろしくね」


着せ替えのための服もたくさん買っている。お人形でオシャレを楽しむのだろう。その時はきっと、ファッションに詳しいお付メイドのガリレさんと遊ぶに違いない。


次にアイちゃんが選んだのはオルゴール付宝物箱だった。箱の外には、森の中で遊ぶウサギやリス、鳥の絵。内側はふさふさした赤色の毛皮で装飾されている。蓋を開けたときに流れる曲は童謡の『きらきら星』だ。


小さな魔石1個で10年はオルゴール機能が働くらしい。これで銀貨1枚は安いかもしれない。お人形とその着替えの服の代金も合わせて、売り場で銀貨2枚を支払ったアイちゃんはニコニコ大満足の様子である。

 

店外へ出る途中の売り場で、アイちゃんの足が止まった。


「これ、なあに?」


アイちゃんの視線の先には、曲を鳴らしている箱があった。すぐに店員さんが説明してくれる。


「それは新型の蓄音の魔導具でございます。箱の前で歌った歌や演奏した曲を魔音盤に保存して、いつでも好きなときに聴くことができる魔導具です」

「欲しいわ。とっても欲しいわ。これがあると、すごく楽しそうだもの」


即答のアイちゃんであった。ここぞとばかりに店員さんが続ける。


「別売の音を集める魔導具や出る音を大きくする魔導具があれば、もっと楽しめますよ」


これを買うのは決定として、どの程度の性能のものにするか、別売の魔導具をいくつ買うかだ。でも俺はこの種類の魔導具には詳しくない。困っていると、


「ご主人様、私におまかせください」


ヒマリアさんから申し出があった。ヒマリアさんが言うには、子どもに歌やお遊戯を教えるために必要な魔導具だから、ある程度はわかるし、勉強しておきたいとのことだった。


ヒマリアさんとアイちゃんが店員と相談した結果、買ったのは、蓄音の魔導具1つ、音を集める魔導具3つ、出る音を大きくする魔導具2つ、魔音板50枚となった。


魔音板は曲を楽譜の形で保存するもので、蓄音する時や保存した曲の音を出す時に、蓄音の魔導具に差し込むものらしい。音そのものを保存するより楽譜で保存する方が、保存期間が長くなるとのことだ。


代金は金貨2枚。俺が出そうか? と言ったのだが、アイちゃんは自分で支払ってしまった。そして、ニコニコ満面の笑み、大満足のゴキゲン状態である。店員さんが、すぐに配達の手配をしてくれ、今日中に屋敷に届くらしい。転送陣は便利である。



帰りは国内であれば、転移陣なしでも屋敷へ転移できる。すぐに帰ろうと思った。しかし、アイちゃんがもっと街を見たいというので、屋台で買い食いしないこと、俺とヒマリアさんと手をつなぐことの2つを条件に街を見に歩き出した。


魔導具店に来た道とは別の道を選んだ。なるべく多くの場所を見物できるようにと考えたから。来た時と同じく、止まったり急に手を引っ張られたりした。


武器屋のショーウインドウの中に展示されている弓の前でアイちゃんの足が止まった。頭をかしげながら見ている様子は、何かを感じているのか、思い出そうとしているようだ。しばらく見ていたが、また歩き出す。


次に足が止まったのは、音楽喫茶の前。店内から歌声が聴こえてきたからだ。ちょうど、舞台でお客が演奏する時間帯だったようだ。お茶を飲みたい気分だったので、店に入ると隅のテーブル席が空いていた。


テーブル席に座り、注文したお茶を飲みながら歌や演奏を楽しんだが、みんな上手だ。人前で披露するだけのことはある。


「お兄ちゃん、私も演奏したいわ、いいでしょう?」


いつの間にか手に横笛を持ったアイちゃんが尋ねてきた。ちょうど舞台も空いているし、ヒマリアさんに付き添ってもらうことを条件に承諾した。アイちゃんが舞台に上がり、ペコリと挨拶をするとパチパチパチと拍手された。


「『愛の挨拶』を演奏します」


アイちゃんはそう言うと、横笛を口にあてて演奏を始めた。すると、店内は静寂に包まれた。店内には美しい横笛の音色だけが流れている。まさか、5,6才くらいの女の子がこれほど見事な演奏するとは思わなかったのだろう。


お客はうっとりと演奏に聴き入っている。曲も作曲者が婚約者に贈った曲で、美しい曲だ。


短い曲なので、演奏はすぐに終わった。しばらくは静寂が続いた。演奏の余韻に浸っているのだろう。やがて1人が拍手を始めると拍手の音は大きくなり店中が拍手の音に包まれた。


アイちゃんは、いろいろな方向にペコリと頭を下げてから、テーブル席に戻って来て目を輝かせて宣言した。


「私、もっと多くの人たちに歌や演奏を聴いて欲しいわ」


店を出て少し歩いたら、にぎやかな声が聞こえてきた。それは公園からだった。さっきより大きい公園だ。旅の一座が舞台を作り、出し物をやっているらしい。歌ったり、楽器を演奏したり、短い演劇が出し物のようだ。かなり多くの人たちが集まっていて、屋台もたくさん出ている。


舞台に近い所へ行こうとして、舞台前に魔法学校の制服を着た女子3人を見つけた。その中の1人には見覚えがある。いや、よく知っている人物だ。命を狙われているとかではないが、今、会うわけにはいかない。あの幼馴染はやっかいなのだ。


理由はアイちゃんとヒマリアさんが一緒だからだ。俺がヒマリアさんと付き合っていて、アイちゃんが俺とヒマリアさんの子どもとか「はやとちり」するだろう。そして、大騒動が起こる。困ったことになる。小さい頃からそういう女の子だった。俺は彼女のことをよ~くよく知っているのだ。

 

すぐに物陰へ移動して、屋敷へ転移した。発見されなかったよな。


魔道具店での買い物はすでに屋敷に届いていた。アイちゃんとヒマリアさんはすぐにそちらへ。俺は私室に戻ると机の上に手紙が置いてあった。師匠からの手紙で、書かれていたのは、たった1行。


飛車の部屋は攻略できたか?



お読みいただきありがとうございます。

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参考 

「きらきら星」 フランス民謡 

「愛の挨拶」  作曲 エドワード・エルガー


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