ぱよ3 敵とぱよぱよ
事実、それは惨事と呼ぶに相応しい有様だった。五名の死亡が確認されたことはともかく、問題はその状況である。三人はシャトル内で発見された。瓦礫の下敷きになっていたせいか、遺体の損傷は当然ながら激しかったものの、その経緯に関しては私が見ていたこともあって明確だった。むしろ問題は残りの二人である。こちらはシャトルが着陸した場所で発見された。つまり、慌てて逃げ出した時にはすでに死んでいたと考えられる。その犯人が誰であるのかなど考えるまでもない。ぱよぱよが殺したのだ。しかも、その方法が酷い。二人の肉体の半分以上が溶かされていたのだ。反応性の高いフッ素化合物、恐らくはフッ化水素辺りで溶かされたのではないかと推測されるが、詳しい原因は我々の知るところではない。公安や警察が躍起になって調査していることだろう。
ともかく、前代未聞の出来事だ。密猟の最中に何かしらの事故が起こることは、恐らく有り得ない話ではあるまい。しかしこのような、まるで明確な殺意をもって殺されたかのような状況は、例のないことだろう。これはもしかすると、悪い影響が広がっていくかもしれないという危機感が、少なからず私の中に芽生えた。ぱよぱよは、決して好戦的な存在ではない。もしそうなら、私などは当の昔に溶けて無くなっている筈だ。そうなっていないのは、彼らが『良識』のようなものを有しているからのように思えてならない。悲しいかな、ぱよぱよという存在を知らねば馬鹿馬鹿しいの一言で片付けられそうな話である。しかし少なくとも、人を殺せるだけの能力を有していながら、今まで誰一人傷付けずにいたことも事実なのだ。
この話が一人歩きして、あらぬ誤解をぱよぱよが招くのは避けたいと思う。だが同時に、私の中にも一抹の不安はあった。我々人間がそうであるように、ぱよぱよも人間に対して不信感を抱いたのではないかという危惧があったからだ。
それは、確かめる必要があった。
私は意を決し、見慣れた風景へと足を踏み出す。
ぱよぱよは、私を襲うことはなかった。あの密猟者と同じ外見をしている筈の私に、以前と変わらない様子で接してくれた。ぱよぱよは大丈夫、その思いは確信へと変わり、私の決意は固まった。この生物を、現時点で明確に擁護してやれるのは私をおいて他には居ない。しかも、あまり時間的な余裕はなかった。
その日の内に衛星軌道上にあるステーションへと昇った私は、丁度訪れていた旅行会社の定期船へと乗り込み、そのまま連合政府の直轄地へと向かうことにした。多少強引ではあったが、唯一のツテでもあるマスコミを頼り、今回の事件のコメンテーターとして出演させてもらう。単純で盲目的な擁護は逆効果と判断し、私はことさらぱよぱよの正確な生態にこだわった。幾つかの放送局が特番を組んでおり、その依頼のことごとくに出て回った。とにかく真実を伝え、正確な判断を下して欲しいという、その願いを伝えたいがために。
そして一ヶ月の経過を待って、連合政府が重い腰を持ち上げる。しかしそれは、私の予測とは幾分……いや、かなり違っていた。話を聞きたいという要請に応じて出向いた、というより連行された先は、一目でそれとわかる程度の軍施設、広大な敷地の外側を高圧的な分厚い外壁によって遮断された閉鎖空間、軍事基地の一角に建てられた高層ビルの最上階であった。とりあえず、私のような中途半端な学者崩れが足を踏み入れることなど一生無いと断言できるほどの場所だ。少なくとも、表面上は私を歓迎しているようにも映ったし、事実そのつもりはあるのだろう。ただ、何もかもを見下すような眼差しに、友好的な態度などは微塵も見られなかった。
言うなればそう……招かれざる客、あるいは貴族の家に呼ばれた貧乏医師、などという印象が的確だろうか。いずれにせよ、用事が済めば叩き出されることは間違いないだろう。連中が必要なのは私ではなく、私の持っている『何か』であろうことは間違いない。無論、それを簡単に渡してしまうほど迂闊ではないという自負はある。私がここにいる理由は、ぱよぱよという存在を危険から遠ざけ、穏やかな日常と研究を確保することにある。もし本当に必要なら、危ない橋もある程度は覚悟しなければならないだろう。どの道、私に失うモノなど大して有りはしない。
「さて、早速だが博士にお聞きしたい」
柔らか過ぎるソファに落ち着きなく座った途端に、顔の前で手を組んだ顎鬚眼鏡の紳士が口火を切る。この環境と状況に若干浮き足立ってはいるものの、正直言って驚きはなかった。彼らが知りたいのはぱよぱよの軍事利用が出来るか否かだろう。私は学者として、その考察を否定しなければならない。その上で、密猟やイメージの低下に待ったをかける必要があった。極めて困難な道程だ。決して簡単な話ではあるまい。
「何でしょう?」
「博士は、ぱよぱよに傷付けられたことは一度としてない、そう考えてよろしいのですよね?」
「はい……彼らは温厚な存在ですし、こちらが友好的に接する限り危害を加えることはないと考えます」
やや思惑の外れた質問に戸惑いながらも、正直に答えることとする。
「その判断を、あの丸い生き物がしていると?」
「見た目と利口さが比例する訳ではありません。あのぱよぱよという生物は、記憶し学習し応用するだけの思考力を備えています。事実、密猟者と争って以降も私が危害を加えられることはありませんでした。彼らは同じ人間の中にも、自分に対して敵対してくる相手と友好的に接してくる相手がいることを知り、見極めるだけの利口さを備えているのです」
目の前の男、その髭の上にある口がニヤリと歪む。
「それは興味深い。ならば、貴方が一緒なら攻撃されずに済みそうですな」
「……それはどういう意味で?」
「そのままの意味ですよ、博士。実は先日、ウチのエリート部隊が返り討ちに遭いましてね。貴重な兵士の命が一つ失われている。末端にいた一匹を確保しようとした、ただそれだけの行為でこの有様だ。許しがたい事実とは思いませんか?」
度し難い連中だと思う。人間を特別だと思うのは、ある意味において人間の本能だ。しかしそれでも、いやそういう人間であるからこそ、真実に気付くことは出来るし気付かなければならない。ぱよぱよの一匹と人間の一人は、それぞれの種において同等の価値を有しているのだ。その命を安易に弄ぼうとすれば、返り討ちに遭うのは道理であろう。まして相手はアメーバのような単細胞生物ではない。そう見えるだけの高度な知的生命体なのだ。もし彼らが人間という種そのものに嫌悪感を抱くようになったら、研究どころの話ではなくなってしまうだろう。あるいは、戦争のような事態に発展する可能性すら否定できない。
「彼らは、非常に仲間意識の強い生物です。常に群を成し、頻繁にコミュニケーションを行っています。故に、そのたった一匹が彼らにとってどれほど大切なのか、我々の尺度で考えるのは尚早であると考えます」
言葉を選び、慎重に話の方向性を整える。それにしても、すでに軍が動き、特殊部隊が派遣されてぱよぱよの確保に動いていたとは、正直言って意外だった。思っているよりも、話は良からぬ方向へと傾いているのかもしれない。こちらの想定も、ある程度の修正が必要になるだろう。
「しかし博士、あの生き物は密猟者を撃退する際、自らの同胞を多数犠牲にしている。それほど末端の一匹を大事にしているとも思えないのだが?」
「それが人間の尺度だと申し上げているのです。彼らには彼らの価値観があると考えます。恐らくはそうしなければ撃退できないと判断した、苦渋の選択であったと予測されます」
とはいえ、実のところ私も少なからず疑問には思っていた。一致団結して危機に立ち向かうと言えば聞こえは良い。しかしその役割には明確な差異があり、もっと言えば差別がある。恐らく中央付近で固まっているぱよぱよと末端に広がっているぱよぱよとは、何かしらの違いがあるのだろう。それが身分であるのか、それとも明確な役割であるのかはまだわからない。いずれにしても、感情すら感じられる彼らが迷いもなく命を散らす様は、どこか不自然にも映った。もしも人間に置き換えたなら、まずは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い、上官の命令に渋々従って撃退行動を起こすというプロセスが自然な流れであろう。彼らにそのプロセスがないのか、あるいは有るものの見えないレベルなのか、今後の研究課題の一つになりそうではある。
「なるほど、要するにカミカゼという訳か。博士らしい発想だな」
私は内心で機嫌を損ねる。日系人というだけで特攻を連想されたのでは、さすがに命が幾つあっても足りるものではあるまい。そもそも、利己的な命が好んで死を選ぶような真似をしよう筈もない。実際に特攻で果てた者達だって、様々な葛藤の末の決断、あるいは不可抗力であった筈だ。そう信じられる程度でなければ、生物学者などやっていない。
「とにかく、ぱよぱよは本来、決して好戦的な種ではありません。こちらが誠意を見せ、穏やかに接する限り、敵対行動など考えられないほど大人しい生物なのです。そのことを、まずはご理解下さい」
「そうだな。その言葉を信じ、博士にも任務に参加してもらうことにしよう」
「任務?」
髭は大きく頷く。その濁った碧眼は鈍い輝きを放っている。フローライトの澄んだ輝きとは、あまりに対照的だ。腐った意志を介すると、これほどまでに輝きが汚れてしまうのだろうか。
「決まっているだろう。あの生き物、ぱよぱよの捕獲作戦だよ」
「ちょ……ちょっと待ってください!」
「博士がいれば攻撃されないのだろう? 期待しているよ」
私はここに、暴走するかもしれない列車の出発を見合わせるようにと進言に来たつもりだった。だがそれは間違いだ。ここはもう列車の中で、すでに暴走を始めている。止めることは、もう出来ないだろう。
では、私に何が出来る?
その答えが見付からないままに、私は第二の故郷、フローライトへの帰還を果たすのだった。
静かな一歩で、ゆっくりと間を詰める。
ぱよぱよの警戒は、ダイレクトに伝わってきた。いつもの私と違うことは、見ればすぐにでもわかるのだろう。そして、今回引き連れている客人が自分にとって有り難くない存在であろうことも。そのためにか、ぱよぱよはいつにも増してフローコーラルの陰に身を寄せ合い、こちらの様子を観察しているように感じられた。
「おかしなことは考えるなよ?」
すぐ背後にいる隊長らしき人物が囁きを寄越す。私の役目はぱよぱよの攻撃を牽制するための盾となることだ。ぱよぱよが私を知り、私に対して攻撃をしないという前提の作戦である。もちろん、そんな役割を私自身が望もう筈はない。後方に見えるフローコーラルの天辺から、銃口で狙われた上での作戦だ。正直、虫唾が走る。
「それで、どういう手順でさらうつもりなんですか?」
「言う必要はない。お前は連中の動きを牽制することにのみ集中しろ」
背後に控えている三人は、構えた銃器をそれぞれが担当する方向へと向けている。油断も隙も感じられない雰囲気だ。軍人としての力量は相当高いレベルにあるのだろう。だが、人としては感心できないし、敬意も払えない。もし私がぱよぱよの立場であったとしたら、話し合いの余地すらなく敵対すべしと判断することだろう。そしておそらく、ぱよぱよの判断は決している。
末端にいるぱよぱよが、激しく振動を開始した。仲間でのコミュニケーションを図るための、独特な緩急を伴った振動ではない。まるで叫んでいるような、喚いているような雰囲気の振動だ。恐らくは警戒、あるいは威嚇のシグナルであろう。私が初めて見るぱよぱよの生態である。それはすなわち、私に対して常に友好的であったぱよぱよが、そうでなくなった瞬間を目撃しているということでもあった。
まるで大切な友を一人失ったような、そんな淋しさが溢れる。悔しいという思いと、悲しいという思い、その二つが混ざり合って膨らんでいくように感じられた。どうにかして逃げなければならない。この連中と決別しなければならない。そういう思いが強く激しくなっていく。
「お、おい、何なんだこれは!」
焦りの声が隊長から上がる。だが、答えられる者など誰一人居なかった。
各個の振動は激しさを増し、その範囲を広げ、森を揺るがすほどに大きくなる。まるで森そのものが怒り狂っているような、そんな圧迫感すらあった。地鳴りは地響きへと変じ、微かな振動が重なり合って足元すらおぼつかなくなる。ぱよぱよはこの森の、いやこの惑星の主であると実感させられるような、激しくも雄々しい猛りであった。
と、我々が二本足で立つことに集中していたところに、後方から情けない悲鳴が聞こえてくる。この方向と距離は間違いない。私を狙っていたであろうスナイパーのものだ。理由はわからないが、向こうで何かしらのアクシデントが起きた可能性は高い。
「デルタ、応答しろデルタ!」
隊長の呼びかけに返答はない。その状況を案じた三人が、同時に背後を、遥か後方に見えるはずのフローコーラルへと振り返った。その瞬間を待っていたかのように、視界の端で何かが跳ねる。それは、一番近いフローコーラルの陰から躍り出たスカイブルーのぱよぱよだった。まるで誘うように、ピョコピョコと跳ねている。これほど激しく動き回る様子を初めて見せられた私はしばし唖然としたものの、すぐに気を取り直してぱよぱよに駆け寄った。三人の軍人が気付いて銃口を持ち上げたと同時に、蛍石の陰へと身を隠すことに成功する。
複数の銃弾が、私の足跡を辿るように地面を抉った。
ぱよぱよとの絆を守ったということは、すなわち連合の軍人に対する裏切り行為であり、危機が続いていることに変わりはない。いや、むしろ人間としては選択を誤ったと考えるべき局面であろう。しかし、私は内心で深く安堵していた。これで嘘を吐く必要はない。ぱよぱよに対し、あの優しい生物に対し、誠実でいられることが嬉しかった。
ただ、私の人生はここで終わるかもしれない。
そう思った矢先、またもや悲鳴が上がった。
「馬鹿なっ。いつの間に!」
それはまるで、こちらの動きをあらかじめ察知していたかのようにすら思える迅速な包囲作戦であった。そう、気付けば私達は数え切れないくらいのぱよぱよに囲まれていたのである。恐らくは、後方にいたスナイパーはすでに被害を受けているのだろう。あの悲鳴が演技でないのなら、不意打ちであったに違いない。
私という人質がいなくなったことに因るのだろう。残る三人を敵性と判断したぱよぱよ達は、一斉に襲いかかった。牙も爪も持たない透明饅頭が、四方八方から飛び込んでくる。
「応戦しろ!」
隊長の合図を皮切りにマシンガンが弾丸を撒き散らす。それは頭上から降ってくるような黄色い、さながらトパーズのようなぱよぱよ達を易々と貫き、穴だらけにした挙句破裂させる。しかし同時に、溢れた液体を被った三人のシールドスーツからは何やら焦げるような音が響き渡った。なるほど、あの黄色い個体が体内にフッ化水素を宿しているのか。
「慌てるな! コーティングは有効だ。すぐには溶けん!」
もしヘルメットを取ったなら口を開くことすらままならないような臭気の中で、隊長は気丈に二人の部下を鼓舞する。一方のぱよぱよは、トパーズイエローを前面に出しながら背後に薄紫――アメジストパープルを待機させている。高い所にはエメラルドグリーンのぱよぱよが見学するように待機しており、まるで戦況を監視しているかのように見えた。しかし、多勢に無勢とはいえ、フッ化水素が決定打にならない以上はぱよぱよの攻勢にも陰りがある。相手は武器を持ち、その武器は同胞の命を軽々と奪ってしまうほどの殺傷力を有していることは、すでにぱよぱよにもわかっている筈だ。
逃がした方が良い。そんな判断を頭の中で導き出した瞬間、三人の内の一人が耐え切れなくなったのか銃を乱射してぱよぱよの群に突っ込んでいく。幾つかのぱよぱよが犠牲となり、そこに道無き道をこしらえた。その道を突き進んで孤立した男に対し、今度はぱよぱよが反撃を開始する。ジリジリと迫る黄色いぱよぱよに銃口を向けた瞬間、その後ろに控えていた薄紫のぱよぱよが飛びついた。そいつは弾丸を受けても飛び散るようなことはなく、銃身や銃口に張り付いて動かなくなる。粘着力、あるいは柔軟性の高いぱよぱよなのだろう。ある程度色分けされていると踏んではいたが、まさかここまで明確な役割分担がなされていようとは思ってもいなかった。薄紫はそのまま男の足元にも群がり、その場に固定させる。
そして直後、フローコーラルの巨木が彼に向かって倒れていった。その根元には青いぱよぱよが群がっている。力仕事は彼らの担当なのかもしれない。とにかく、鮮やかとすら思えるほどの手並みで一人を屠る。新しく出来上がった瓦礫はピクリとも動かず、彼の命は絶望的だ。二人の仲間は助けるどころか、唖然としたまま声を上げることすら出来ずにいる。しかし、いつまでも呆然と立ち尽くしていられるほどの余裕は、彼らに許されていなかった。
ぱよぱよが動き始め、残った二人ににじり寄っていく。
「ひ……退くぞ!」
有るだけの弾丸を撒き散らすような勢いで乱射しながら、二人はシャトルへと戻っていった。無用な犠牲を避けているのだろう。ぱよぱよ達は道を譲るようにしてフローコーラルの陰へと引っ込んでいく。あの密猟者の一件から、ぱよぱよも何かを学習しているのかもしれない。あるいはそれが、不要な争いを行うことに対する虚しさであったりすれば、私としては喜ばしい限りだ。
いや、もうすでに、それこそ最初から気付いていたのではないだろうか。ぱよぱよという存在の性質、ここに来てようやく見えてきた本質を考慮に入れれば、むしろ気付いていない方が不自然であるようにも思える。私もまた、彼らを侮っていた一人の人間に過ぎなかったということなのだろう。
「個にして全か……」
あるいは、全にして個と表現すべきだろうか。ぱよぱよという生物は、この一つ一つの透明饅頭単体では不完全だ。むしろ、その一つ一つは大きな群である『ぱよぱよ』の一部であると考えた方が的確であろうと思う。明確な役割分担や厳格な指揮系統は、蜂や蟻といった真社会性を有する生物に近いが、それ以上に――あるいはそれ以前に、ぱよぱよという生物が群として一つの個体であると考えた方が、より正確な解釈に辿り着くように思えてならない。私は今まで、彼らが親密なコミュニケーションを行う生物だと認識してきたが、それは頭脳に当たる部分への情報伝達に過ぎないのかもしれない。あるいは、その繋がりこそが神経細胞の連なりと等しく、学習と思考を可能にしているとも考えられる。
そうだ。初めて別の場所でぱよぱよを観察した時、私は性格の違いから飛びついてこなかったのではないかと推測した。しかし、ぱよぱよが群で一つの情報を共有しているのであれば、それは初対面などではなく、すでに見知った相手が訪れただけの、極めて当然の反応を示したに過ぎないとわかる。一見すると仲間を無闇に犠牲にしているかのような彼らの戦術も、言うなれば手足の怪我を覚悟しながらの格闘であったのだろう。その潔さすら含めて、実に天晴れな生物ではあるまいか。
私は今、改めてぱよぱよが好きになった。愛すべき存在であろうと認識した。と同時に、私が一方的に守っているつもりになっていた浅はかさを、恥ずかしく思う。その身勝手で軽はずみな行動は、むしろぱよぱよを窮地に追い込み、苦しめる結果となってしまった。
「すまん。本当に申し訳ない」
誠意を持って、フローコーラルの森――ぱよぱよの中心が居るであろう方角へ向けて頭を下げる。今更という感は否めないが、それでも頭を下げずにはいられなかった。
そんな私の足元に、エメラルドグリーンのぱよぱよが擦り寄ってくる。あるいは彼らは、こちらの言葉を理解するどころか、精神すら読み解く感応性を有しているのかもしれない。そして今、その貴重で愛らしい生命体が、心無い人間という種によって危機に晒されようとしているのだ。
何とかしたい、とは思う。連合軍が、特殊部隊の敗退一つで簡単に諦めるとも思えない。だが、裏切り者の私に出来ることなど、最早幾つも残されてはいないだろう。その数少ない何かを、私は考え始めることにした。
プルプルと勝利の歓喜に震える、たくさんのぱよぱよを見詰めながら。