表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時の放浪者  作者: 唯人
1章 始まりの始まり
1/1

新道 悠真

 八月も始まりの、蒸し暑さにさらされるような夏。記録的な豪雨の最中、東京の喧騒と雨にもまれながら、彼らはあてもなく歩く。


 特別に何かしたかったわけでもなく、かといって家に帰る気力もないまま、歩く。歩く。歩く。


 財布もスマホも傘すらなく、着の身着のまま雨に打たれながら、それでも歩く。


 降りしきる雨の雨粒たちが、自分を責めているかのように感じながら、それでも前へと歩く。


 30分、1時間、いやそれ以上かもしれない。歩き続けていると、ふと、ある公園にたどり着いた。


 古びたブランコと壊れかけの青いプラスチックのベンチ、おまけにホームレス然とした男が置かれている、ただの廃れた公園だった。


 そんな公園が、まるで自分を表しているかのように思えて。そんな自分の惨めさに苛まれて、無気力になりながら、ベンチに座って瞠目する。


 ギギィという音立てながら、すぐにも壊れてしまいそうで、そんなところすらも惨めに感じて、ただ雨の音が響き渡り、耳を穿つ中、静かに瞠目する。


 雨は、その勢いをさらに増したかと思うと、自らを打ち始めた。


 ふと、隣に誰かが座った気配がした。ベンチはされに壊れそうな音を立てながら、しかし、その役目を放棄することはなかった。


「後悔か。自責の念か。はたまた憤怒か。捕らわれ者のようじゃ。」


 何を言っているのか。少し顔を向けると、隣に来たのはホームレス然とした男だった。


「あんた、なんなんだ?用がないならさっさと消えてくれ。目障りだ。」


 まるで自分を見透かされたような気持ちになって、カッとなっていってしまった。

 いつもの癖だ。別に自分の家でも何でもないのに、偉そうに言ってしまった。とてもじゃないが他人に対する態度じゃない。


 ただ、老人はそんな若者の癇癪を意にも介さず、こちらの様子を伺いながら、ふむ、と一言。そして、立ち上がる。


 そのときのことはよく覚えている。


 何かはわからない。ただ


 体が。


 心が。


 魂が。


 自らのすべてが。


 感じたのだ。


「持って放浪せよ。さすれば光は開かれる。」


 今ならはっきりとその意味が分かる。


 顔をあげて、映る青年のニヤリとした顔に胸打たれながら。

 もう一度、世界が動き出した。



 2018年8月2日

 新道 悠真




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ