新道 悠真
八月も始まりの、蒸し暑さにさらされるような夏。記録的な豪雨の最中、東京の喧騒と雨にもまれながら、彼らはあてもなく歩く。
特別に何かしたかったわけでもなく、かといって家に帰る気力もないまま、歩く。歩く。歩く。
財布もスマホも傘すらなく、着の身着のまま雨に打たれながら、それでも歩く。
降りしきる雨の雨粒たちが、自分を責めているかのように感じながら、それでも前へと歩く。
30分、1時間、いやそれ以上かもしれない。歩き続けていると、ふと、ある公園にたどり着いた。
古びたブランコと壊れかけの青いプラスチックのベンチ、おまけにホームレス然とした男が置かれている、ただの廃れた公園だった。
そんな公園が、まるで自分を表しているかのように思えて。そんな自分の惨めさに苛まれて、無気力になりながら、ベンチに座って瞠目する。
ギギィという音立てながら、すぐにも壊れてしまいそうで、そんなところすらも惨めに感じて、ただ雨の音が響き渡り、耳を穿つ中、静かに瞠目する。
雨は、その勢いをさらに増したかと思うと、自らを打ち始めた。
ふと、隣に誰かが座った気配がした。ベンチはされに壊れそうな音を立てながら、しかし、その役目を放棄することはなかった。
「後悔か。自責の念か。はたまた憤怒か。捕らわれ者のようじゃ。」
何を言っているのか。少し顔を向けると、隣に来たのはホームレス然とした男だった。
「あんた、なんなんだ?用がないならさっさと消えてくれ。目障りだ。」
まるで自分を見透かされたような気持ちになって、カッとなっていってしまった。
いつもの癖だ。別に自分の家でも何でもないのに、偉そうに言ってしまった。とてもじゃないが他人に対する態度じゃない。
ただ、老人はそんな若者の癇癪を意にも介さず、こちらの様子を伺いながら、ふむ、と一言。そして、立ち上がる。
そのときのことはよく覚えている。
何かはわからない。ただ
体が。
心が。
魂が。
自らのすべてが。
感じたのだ。
「持って放浪せよ。さすれば光は開かれる。」
今ならはっきりとその意味が分かる。
顔をあげて、映る青年のニヤリとした顔に胸打たれながら。
もう一度、世界が動き出した。
2018年8月2日
新道 悠真