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修復士の掟

 あまねく地の隅々、いたるところで、表現活動はさかんである。


 たとえば絵画、音楽、舞踏、詩、演劇、彫刻、建築。

 日夜作り出される芸術作品群。


 分けても優れた魔力の持ち主によって強い思いをこめられて生み出されたものは、「魔法」を帯びる。作り手の思いが、魔法に転化するのだ。


 それはいつも一様ではない。

 たとえ同じ人間が同じように作ったとしても、すべての作品に毎回狙った効力の魔法が宿るわけではない。

 魔法の再現性は極めて低い。

 いつの時代も研究はさかんであるが、いまだ明確な作法や理論は確立されておらず、体系化すら進んでいない。


 ある時代に突出した芸術家──魔法使いが現れたとしても、多くの場合で魔法そのものは遺伝や継承されることなく、一代限りで消滅してしまう。

 それが聞く者を癒やす歌声や、見る者を魅了する舞踏といった、魔法使いの肉体と分かちがたく保存不可能な性質のものであるなら、本人の死によって確実に終わりを迎える。


 しかしながら彫刻や建築といった、長く在りし日の姿をとどめるものもある。

 作り手がこの世を去った後も、作品に込められた魔法は後代まで持続される。それでも、作品の破損や欠損或いは風化が著しい場合には、やはり魔法は失われてしまう。


 魔法の消滅を食い止めるために働く、「修復士」と呼ばれる職業がある。


 ものを作り出す魔法使いが「第一世代」なら、修復士は「第二世代」と呼ばれる。

 第一世代の意思を尊重し、その作品が作られたときの姿を長くとどめるために作品の修復にあたる技術屋である。

 絵画や彫刻や建築と多岐に渡る作品を一人で残すこともある第一世代とは違い、修復士にはそれぞれの得意分野があり、己の専門外に手を出すことは滅多にない。


 そも第一世代の編み上げた魔法を損なわずに作品を修復するというのは、困難を伴う作業の連続であり、人によっては自ら生み出す第一世代よりも難易度が高いとも言う。

 また、第一世代を尊重するという仕事の性質上、第二世代の人間は謙虚で我を出し控える性質を要求される。


 たとえば絵画修復士、という仕事がある。

 歳月を経て滅びつつある絵画に、在りし日の光をよみがえらせる仕事である。


 慎重に表面についた汚れを洗浄し、当事の材料を割り出して色の再現を行う。

 そして描かれた当時の姿を出来る限り正確に再現する。

 この過程で間違うと、絵は死んでしまう。

 たとえ絵画としてはうつくしくよみがえっても、「魔法」が失われてしまうこともある。

 その時点で実質絵は「有用性のあるもの」ではなくなり、価値を失い、死んだものとみなされるのだ。

 修復士の仕事としては失格である。

 ゆえに、修復士が真になすべきことは、芸術作品を生かすにあたり、「いかに第一世代の魔法を損なうことなくその有用性を存続させることができるか」なのである。


「修復士は芸術家に非ず。技術屋であるべし」


 鉄の掟は絶対であり、「魔法」を損なった修復士はその仕事を追われることになる。


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